71. 新しい出会い(2) ◇
イヴォン殿下一行の馬車は直りそうになかったので、王都まで私の馬車へ同乗してもらうことになった。中には私とイヴォン殿下、怪我をした剣士様ことウジェ様とニコルさん。
ディオンさんともう一人の剣士様は御者台だ。
それにしても……高貴な方だろうとは思っていたけど、王子様だったなんて。
浅黒い滑らかな肌に、掘りが深くて整った顔立ち。きらきらとした目は長いまつげで覆われている。フェリクス様とはまた違ったタイプの、エキゾチックな美形だ。
「申し訳ございません。殿下には狭いでしょう」
「ううん!庶民の馬車に乗ってみるのも、たまにはいいよね」
「いえいえ、乗せて頂いているのはこちらですから」
慌てた様子でウジェ様がフォローを入れる。王子様だもん、きっと普段から立派な馬車に乗っておられるんだろうな。壊れていた馬車も旅仕様とはいえ大きかったし。
デルーゼは南方にある国だ。ラングラルは勿論、エルヴスからもかなり遠い。
エルヴスの公爵家に殿下の姉君である王女様が嫁いでおり、殿下は遊覧がてら姉君へ会いに来たんだそうだ。
ところが王都へ向かう途中で盗賊らしき者たちに襲われた。護衛二人により何とか追い払うことはできたが、殿下と護衛の剣士が怪我をしてしまった。馬車を壊したのもその狼藉者の仕業らしい。
そこへ私たちが通りかかったというわけだ。
「それは大変な思いをされましたね」
「ちょっと怖かったけど、結果として君に会えたわけだし。結果オーライさ!」
殿下はニコニコと私へ話しかける。
人懐っこい方だなあ。
ニコルさんが少し険しい顔をしてるのが気になるけど。彼を警戒してるのかな?
「僕のことより、アニエスのことが聞きたいな。あんな深い傷を治すなんて驚いたよ。僕、精霊士って年寄りばっかりだと思ってた」
「まだ正式な精霊士ではないんです。これからクレシア教国へ昇格試験を受けにいくところで」
「へええ、そうなんだ。ところで、隣の人は護衛だよね。アニエスは貴族なの?もしかして王族とか?」
「いいえ、私は平民です。今回は陛下……ラングラルの国王様が護衛をつけて下さったのです」
「王様がどうしてそこまでするの?」
「失礼ながら、補足させて頂きます。我が国は近年、精霊信仰に力を入れておりまして。アニエス様はいずれ小精霊士となられる身ですので、旅路をお守りするようにと命じられております」
言い淀んだ私の代わりにニコルさんが説明してくれた。フェリクス様との婚約はまだ内定状態のため、精霊士試験の方を強調してくれたみたい。嘘は言ってないもんね。
「ほう、小精霊士!それは凄いですね」とウジェ様が目を輝かせた。
「そんなに凄いの?」
「二属性以上の精霊を使役できる精霊士は希有ですよ。昇格されれば、国益をもたらす存在となるでしょう。ラングラル王が護衛を付けてまで手許に置こうとするのも、頷けます」
半日くらい進んだところでようやく坂道が終わり、開けた場所に出た。少し休憩しようということになり、皆で馬車を降りる。
何やらディオンさんと話していたニコルさんが「アニエス様、少しよろしいでしょうか」と声をかけてきた。
「デルーゼの一行とあまり関わりになるのは、避けた方がよろしいかと思います」
何か問題があるのだろうか?と首を傾げる私に、ニコルさんが続けた。
「もう一人の剣士、ヤニッグ殿がひどく周囲を警戒している様子だと、ディオンが」
「盗賊を警戒しているのではないのですか?」
それならば、むしろこちらの人数が多い方がいいのではと思うけど。怪我をなさっているウジェ様は除外するとしても、こちらには剣士が三人いるのだ。
「思い返してみると、ウジェ殿の傷はかなり鋭利に切られておりました。王子の護衛を任せられるほどの剣士に、盗賊風情がそこまでの怪我をさせられるとは思えません」
「……刺客ということ?」
ニコルさんが緊張した面持ちで頷いた。




