幕間6. 真夏のバカンス(2)
その時、湖の方から悲鳴が聞こえた。
何事かとそちらを見て驚愕した。巨大な鳥のような魔獣が、湖上にいたのだ。キシャアという咆哮を上げながら、生徒たちの方へ向かってくる。
「ワイバンレス!?なぜ、このような所に」
「フェリクス、お前は生徒たちを避難させろ!」
「はい!」
剣を手に取り、俺と叔父上は湖へ走った。護衛騎士たちもそれに従う。
ワイバンレスはその名の通り、ワイバーンによく似た小さな翼竜だ。ワイバーンに比べると、その攻撃力は天地の差があると聞く。だが一般人にとっては十分に脅威だ。奴の爪にかかれば、怪我どころでは済まないだろう。
高山の方で見かけた事はあるが、こんな低い地域まで出てきたことは今までに無いはずだ。
奴は既に湖岸近くまで到達している。その目前に二人の男子生徒がいた。腰を抜かしたのか、へたり込んで動かない。
まずい。間に合わない……!
「風の盾!」
翼竜の動きが止まった。風の壁が奴の動きを阻んでいる。
アニエスだ。
その間にディアーヌが「死にたくなかったら、お立ちなさい!」と腰を抜かした生徒を叱咤して、移動させた。
「アニエス、ディアーヌ、よくやった。後はこちらに任せて下がれ!」
叔父上が騎士たちを岸辺へ展開し、弓を構えさせた。
この迅速な判断力と指揮力、さすがは叔父上だ。
「放て!」
弓がワイバンレスに届く。だが奴の固い皮膚に阻まれ、弾き飛ばされてしまった。
翼竜は何とか壁を突破しようと、恐ろしげな唸り声を上げている。
「効いていませんっ」
「構わん、生徒たちが避難する時間を稼げ!」
「闇の鎖!」
その声で、翼竜の動きが止まった。まるで目に見えない鎖に縛られているようだ。
逃れようと踠くワイバンレスだが、ますます強く食い込むらしく、徐々に動きが弱まっていく。
声の主はシャンタル殿だった。
いつの間にか俺の横に立って、翼竜を睨みつけている。
「竜もどきの分際で、私の生徒たちに手を出すんじゃないよ!風の雷撃!」
バリバリバリという耳をつんざく音が響き、翼竜を複数の雷が直撃した。
湖面に雷の輝きがピカピカと映る。
断末魔の声を上げ、奴は湖に落ちていった。
「シャンタル先生、昼食をご一緒に如何ですか?」
「あっ、ずるい!私たちも先生とご一緒したいわ」
「先生、さきほどの術は精霊石を使えば俺にもできますか?」
すっかり人気者になったシャンタル殿が、生徒たちに囲まれている。
「なんか、俺たち要らなかったっすね」
「そうだな……」
まあ、彼女のおかげで怪我人は出なかったのだから良しとするべきだろう。
アニエスが「私のお師匠様なのに……」と若干拗ねてるけど。
ちなみに叔父上はシャンタル殿に近寄れそうにもないのを悟ったのか、つまらなそうな顔をして帰って行った。
本当になにをしに来たんだ、あの人……。




