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幕間4. ある側近の半生

「ファビアン様、全てご指示通りに事が運びましてございます」

「ご苦労だった。謝礼金はここに」

「ありがとうございます」

「しかし、少しやりすぎではなかったか?ラングラルの密偵が探りを入れてきている。お前はしばらく姿を隠した方がいい」

「それにつきましては、こちらにも色々と事情がありまして……。ご助言通り、しばらくの間は他国へ参ります。またご用命の際はお呼び下さい」


 そう言って、目の前の男はするりと去っていった。

 

 配下の者から、あの男を紹介されたのはいつだったか。フェルテ国から来たと言っていたが、本当かどうかは分からない。マルセル・ドラノエという名前もどうせ偽名だろう。

 だが、あの闇商人は存外使い勝手が良い。今回も良い仕事をしてくれた。

 ラングラル全土まで病を広げたのは正直、行き過ぎかと思うが。他にも()()がいて、俺の依頼と抱き合わせで引き受けていたというところか?……喰えない奴だ。


 

 俺の生家は子爵家だ。

 自分で言うのものなんだが、俺は幼い頃から優秀だった。家庭教師からは神童と称されたほどだ。


 しかしこの世界は、身分が全てだ。

 学園の中ですら、爵位の高い家の子息が幅をきかせている。子爵家に過ぎない俺は、底辺に近い扱いを受けた。

 成績の良い俺が生意気だと、殴られたこともある。勿論、教師は見て見ぬ振りだ。


 相手の爵位が上である以上、泣き寝入りするしかない。と、普通ならそう思うだろう。

 そのような平凡な輩と、俺を一緒にしないで欲しい。


 俺は殴ってきた男子生徒に関する、とある情報を学園の生徒たちへ流した。もちろん、出所は分からぬように。

 ほどなく、奴が実家から勘当されたという噂を耳にした。

 その男子生徒は足しげく娼館に通っていたのだ。貴族子弟の娼館遊びくらいは、よくあることだ。だが奴は、娼婦相手に特殊な()()をしていたらしい。その噂が婚約者の令嬢にまで届き、婚約を破棄されたのだ。令嬢の実家である侯爵家の怒りを恐れ、奴は実家から切り捨てられたのだ。


 俺を阻害する生徒が現れる度に、同じように情報を駆使して追い落とした。

 なぜ学生に過ぎない俺に、そのようなことができたのか。

 

 俺は孤児院から頭の良さそうな孤児を見繕っては、我が家へ引き取り行儀作法を教え込んでいた。その後、色々な業種の下働きとして送り込んでいたのだ。

  服屋、宿屋、鍛冶屋、娼館……。

 彼らは孤児院から救い出してくれた俺に感謝し心酔し、様々な情報を与えてくれた。

 貴族といっても、その生活を支えているのは下々の平民だ。学園を卒業する頃には、俺の情報網は蜘蛛の巣のように王都中へ張り巡らされていた。

 


 学生最後の年、テオフィル王太子が俺に声をかけてきた。側近にならないかと。

 俺は狂喜した。次期国王の側近となれば、いずれは国政へ関わる重鎮になることも可能だろう。


 しかし、国王は俺を第二王子マティアスの側近に抜擢した。

 

 あまり賢くない王子だという評判は耳にしていた。

 最初はそれも良いかと思った。愚かな主君なら、逆に御しやすいだろう。

 神輿として担ぎ上げ、王位に付けさせて俺が陰で操るのもいいかもしれない。

 

 だがマティアス王子は、想像以上に阿呆だった。執務はほぼ全て側近に押し付け、少しでも逆らえば殴ってきた。

 テオフィル王太子は俺の扱いに憤慨し、何度も国王に談判してくれたらしい。だが、マティアス王子に甘い国王は聞き入れなかった。


 このまま、この阿呆のお守りで一生を終えるのか……?

 そんなことは、あってはならない。俺は、もっと大きなことを成す人間のはずだ。


 俺はテオフィル王太子と共謀し、マティアス王子を罠に嵌めた。

 女に溺れ、国王の決めた婚約を勝手に破棄した王子は王族から除籍された。

 

 テオフィル王太子はこれで安心と思っていたようだが、それでは甘い。

 自暴自棄になった愚か者など、何をしでかすか分からない。

 そして、その尻ぬぐいをするのは王太子であり、その部下である俺だ。


 だから、俺はあの闇商人に依頼した。

 罠を張り、今度こそあの阿呆王子が破滅するように。

 あれだけのことをしたのだ。もはやハラデュールへ生きて戻ることはできまい。

 

 巻き添えを喰らったラングラルの国民は、少々気の毒ではあるが。

 いや、嘘は良くないな。

 俺の範疇外で何が起ころうが、全く心は痛まない。

 俺はどこかが壊れているのかもしれない。

 だが、優れた業績を残す者は、どこかしら壊れている所があるものだ。


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