幕間1. その後
最近、お師匠様の様子がおかしい。
何だかぼーっとしていて、心ここにあらずという感じなのだ。話しかけて返事が返ってこないこともある。
こないだなんか、調合に入れる材料を間違えて爆発させてしまった。たいした規模ではなかったけど、片付けが大変だった。
体調でも悪いのかと聞いたけれど、お師匠様は何ともないって言うし。
心配になってアンナさんに相談してみたら、彼女はクスッと笑って
「そっとしておいてあげて下さいませ。お嬢様にも、覚えがあるでしょう?」と答えた。
覚え……?
私はそこでようやく気が付いた。
そうえばフェリクス様に告白された後、しばらく気がそぞろになってみんなに心配されたっけ。
えっ。ということは、お師匠様にも良い人が……?
お師匠様は美人だから、男性にとっても人気がある。ハラデュールにいたときも、貴族平民問わず言い寄る殿方はたくさんいた。
だけど、お師匠様は誰も相手にしなかった。
いつだったか、手紙を届けてきた人がいたっけ。お師匠様は「口説くつもりなら、面と向かって言えってんだ」と、その手紙を燃やしてしまった。
そんなお師匠様があそこまで動揺するなんて。どんな男性なんだろう。
私の知ってる人なのかな?
「叔父上だろう」
フェリクス様に相談したら、すぐに答えが返って来た。
「えっ。ジェラルド殿下ですか?」
「気付いてなかったのか?だいぶ以前から、シャンタル殿へ秋波を送っていたぞ」
全然知らなかった。
でもジェラルド殿下なら、お師匠様が動揺するのも分かる。
あんなに素敵な方だもの。
「君まで、叔父上の方がいいのか……?」
「ち、違いますよ!一般論です。それに私には、フェリクス様がいますから」
慌てて否定したら、彼は照れつつも「そうか」と答えた。
「それにしてもシャンタル殿のその反応は、脈があるということか……?アニエス。今の件、誰かに話したか?」
「いえ。話したのはフェリクス様が初めてです」
「ならば、誰にも言わないで貰えるか」
「それは構いませんけど……?」
フェリクス様の意図が分からなくて、私は首を傾げた。
なんで人に喋っちゃいけないのだろう。
「叔父上は色事となると、いつも偉そうにご高説を垂れるからな。辟易していたんだよ。少しは苦労するといい」
フェリクス様は、とっても悪い顔でそう言った。




