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62. 終わりの先

「皆の者、今日はおおいに楽しんでくれ!」


 国王陛下の挨拶に、大広間に集う貴族たちから一斉に歓声と拍手が上がる。

 あれから、流行病はあっという間に収まっていった。

 陛下は流行病の終焉を宣言し、制限されていた国交や街道の交通を解放した。今日はそれを祝う宴なのだ。


 私は大広間から離れ、ひとり庭園で風に当たっていた。挨拶に来る者やダンスを誘いに来る男性たちの相手をするのに、少し疲れてしまったのだ。

 その中には、流行病をなかなか抑えられない精霊士(わたし)を大っぴらに非難していた連中もいる。彼らの手の平返しには呆れるが、私の評価が上がったのだと楽観的に解釈するとしよう。


 庭園の向こうに、煌々と光る街灯の下で人々が楽しげに飲んだり唄ったりしている様子が見えた。王都の民たちも、今日の日を祝っているらしい。きっと王都以外の街でも、同じような光景が繰り広げられているのだろう。


 結局ハラデュール国は、マティアス元王子との関連を一切認めなかった。

 若手家臣の中には声高にかの国への報復を唱える者もいたが、国王陛下が却下した。そもそも、病で疲弊した経済の建て直しも済んでいないのだ。

 ハラデュール王からは、多大な見舞金と関税の一部引き下げが提示された。それが謝罪の代わりということだろう。それをもって、ラングラル王はこの件を不問とした。


「ここにいたのか」


 大広間から出てきたジェラルド殿下が横に立ち、私と同じように外を眺めた。酔っているのか、顔が少し赤い。


「いい光景だな」

「ああ。平和が一番だ」


 笑い合っている人々の姿を見て、本当にそう思う。

 

「また、君に多大な借りができてしまったな」

「皆の助けがあったからだよ。特に、殿下の助力には本当に感謝している」

「……殿下は付けなくても良い」

「じゃあ、私のことも呼び捨てで」


 しばらく、二人とも喋らなかった。その沈黙が、心地良い。


 何となく後ろを振り向いてみた。

 大広間で談笑する貴族たちの中に、フェリクスとアニエスの姿が見える。国王陛下の許しを得て、二人は婚約が内定した。アニエスが一人前の精霊士に昇格した後、正式に婚約を発表することになっている。

 彼女の平民という立場による弊害と、またそれにより後見人である私をこの国へ縛り付けることのないようにとの陛下の配慮だ。


 複数の貴族たちに話しかけられてオタオタしているアニエスを、フェリクス殿下がフォローしていた。あの夜会の日を思い出す。


「あの時と同じだな」

「私も同じ事を考えていた。……もう私の手は必要なさそうだけどね」


 彼女は、生涯を共にする相手を見つけたのだから。


「寂しいか?」

「まあね」


 そんなことはないと答えるつもりだったけれど、つい本音を漏らしてしまった。きっと、酒のせいだ。


「ひとつ、寂しくない方法があるぞ」

「どんな方法だい?」

「……俺の妻になれば良い。寂しくしている暇なぞ、なくなる」

「その冗談なら前にも聞いたよ」

「俺は本気だ」


 顔を上げて彼の顔を見た。

 身を焼かれそうなくらいの熱い眼差しが、嘘じゃないと伝えてくる。

 あまりにも強く見つめられて、落ち着かない。

 私は髪をかきあげて平静を装う。


「知らないのかもしれないが。私は多分、貴方の母親より年上だぞ」

「承知の上だが?」


 事も無げにそう言った彼は、私の髪をひとふさ手に取り、そっと自分の口に押し当てた。


「この燃えるように赤い髪も、美神(ミューズ)の如き美しい容姿も、射抜かれるような鋭い瞳も、真っ直ぐで激しい気性も……。君の全てが愛おしい」


 その手を振り払うことができない。

 身体が縫い付けられたみたいに、動けない。

 

「もう俺には、君のいない人生など考えられない。……シャンタル、どうか俺の伴侶になってくれ」

これにて、第一章完結となります。

第二章はアニエスの昇格試験と、シャンタル&ジェラルドの恋模様がメインになる予定です。


しばらく更新はお休みします。ちょこちょこ番外編を上げるかも。

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