表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/166

59. 光の精霊石(2) ◇

 護衛騎士にサージュ山へ行くことを告げた。

 彼らは警護しやすい馬車による移動を進言したが、それでは時間が掛かりすぎる。

 馬の方が早い。

 

 俺は鞍を付けた馬に飛び乗った。愛馬の中でも、一番の駿馬だ。

 そのまま王宮の外へ向かって走り出す。

 同じく騎乗した護衛騎士たちが慌てて追いかけてきた。


「殿下、お待ちを!」

「お前たちは後から来い!」


 護衛騎士を振り切って、街道を走る。

 通行制限をかけていたせいで、道はほぼ無人の状態だ。

 その中を、馬は全速力で駆け抜けていく。


 頼む、間に合ってくれ。

 俺はまだ、自分の想いをシャンタルに伝えていない……!



 

 サージュ山の南側の麓に着いたが、予想通り馬の足跡は見当たらなかった。

 シャンタルたちは西側の道を行ったはずだ。近道を使えば間に合うかもしれない。

 だが、この先は急峻な山道だ。馬では行けない。

 俺は馬を木立につなぎ、山道を駆け上った。

 

 泥に何度も足を取られて転ぶ。

 服は草と泥にまみれ、木の枝に引っかかった髪の毛はボサボサだ。

 全力で坂道を登る負担に、足が悲鳴を上げる。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 山頂が見えてきた。

 呼吸が苦しい。

 肩で息をしながら顔を上げると、護衛騎士二人と、その向こうに洞窟へ向かおうとするシャンタルの姿が見えた。


 間に合った……!

 

 俺は有らん限りの声量で、彼女の名を呼ぶ。


「シャンタル殿!」

「……ジェラルド殿下?なぜここに」


 シャンタルが不思議そうな顔で問いかける。

 俺は彼女の元へ駆け寄ろうとしたが、手前にいた護衛騎士たちに阻まれた。

 なおも進もうとする俺を、彼らは必死で止める。


「放せ!」

「いけません、殿下!危険です。俺たちも、ここより先へは進まないようにとシャンタル様が」


 ……仕方ない。

 俺は懐に入れていた物を掴み、シャンタルへ投げ渡した。


「シャンタル殿。これを使え!その碧玉は、光の精霊石の結晶だ」


 受け取った物を見た彼女が、目を見開く。

 

 それは、あのペンダント。

 俺がエリザベスのために取り寄せた、最高級品の精霊石の結晶を使った装飾品だった。


「駄目だ、使えない。これは貴方の大切な……、思い出の品だろう?」


 自分の命が掛かっているというのに、俺の心を気遣うのか。

 ……全く。お前という女は。

 どこまで優しいんだ。


「構わん。この国(ラングラル)を救うためだ。エリザベスも許してくれるさ」

「……分かった。有り難く使わせて貰うよ」

「頼んだぞ」

「ああ、任せといてくれ」


 シャンタルが微笑んだ。

 胸が締め付けられる思いを隠し、手を振って洞窟へ入っていく彼女の背を見送る。


「エリィ。どうか、この国を……そして彼女(シャンタル)を、護ってくれ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ