59. 光の精霊石(2) ◇
護衛騎士にサージュ山へ行くことを告げた。
彼らは警護しやすい馬車による移動を進言したが、それでは時間が掛かりすぎる。
馬の方が早い。
俺は鞍を付けた馬に飛び乗った。愛馬の中でも、一番の駿馬だ。
そのまま王宮の外へ向かって走り出す。
同じく騎乗した護衛騎士たちが慌てて追いかけてきた。
「殿下、お待ちを!」
「お前たちは後から来い!」
護衛騎士を振り切って、街道を走る。
通行制限をかけていたせいで、道はほぼ無人の状態だ。
その中を、馬は全速力で駆け抜けていく。
頼む、間に合ってくれ。
俺はまだ、自分の想いをシャンタルに伝えていない……!
サージュ山の南側の麓に着いたが、予想通り馬の足跡は見当たらなかった。
シャンタルたちは西側の道を行ったはずだ。近道を使えば間に合うかもしれない。
だが、この先は急峻な山道だ。馬では行けない。
俺は馬を木立につなぎ、山道を駆け上った。
泥に何度も足を取られて転ぶ。
服は草と泥にまみれ、木の枝に引っかかった髪の毛はボサボサだ。
全力で坂道を登る負担に、足が悲鳴を上げる。
「はぁ、はぁ……」
山頂が見えてきた。
呼吸が苦しい。
肩で息をしながら顔を上げると、護衛騎士二人と、その向こうに洞窟へ向かおうとするシャンタルの姿が見えた。
間に合った……!
俺は有らん限りの声量で、彼女の名を呼ぶ。
「シャンタル殿!」
「……ジェラルド殿下?なぜここに」
シャンタルが不思議そうな顔で問いかける。
俺は彼女の元へ駆け寄ろうとしたが、手前にいた護衛騎士たちに阻まれた。
なおも進もうとする俺を、彼らは必死で止める。
「放せ!」
「いけません、殿下!危険です。俺たちも、ここより先へは進まないようにとシャンタル様が」
……仕方ない。
俺は懐に入れていた物を掴み、シャンタルへ投げ渡した。
「シャンタル殿。これを使え!その碧玉は、光の精霊石の結晶だ」
受け取った物を見た彼女が、目を見開く。
それは、あのペンダント。
俺がエリザベスのために取り寄せた、最高級品の精霊石の結晶を使った装飾品だった。
「駄目だ、使えない。これは貴方の大切な……、思い出の品だろう?」
自分の命が掛かっているというのに、俺の心を気遣うのか。
……全く。お前という女は。
どこまで優しいんだ。
「構わん。この国を救うためだ。エリザベスも許してくれるさ」
「……分かった。有り難く使わせて貰うよ」
「頼んだぞ」
「ああ、任せといてくれ」
シャンタルが微笑んだ。
胸が締め付けられる思いを隠し、手を振って洞窟へ入っていく彼女の背を見送る。
「エリィ。どうか、この国を……そして彼女を、護ってくれ」




