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57. もう一つの魔石

 流行病は相変わらず猛威を振るっていた。

 精霊士に対する悪い噂は徐々に収まってはきているようだが、まだ安心できる状態ではなく、私たちは引き続き王宮に留まっている。


「シャンタル殿、この地図を見て貰いたい」


 呼ばれて執務室に赴いた私は、王太子殿下から地図を見せられた。

 ラングラルの全土を示したその地図には、所々印がついている。


「今日は、諸侯を集めた領主会議だったんだけどね。各地で病人の多い街や村の場所を、報告させて纏めたんだ。何か気づかないかい?」

「……川か!」


 病人の出た街は、ラングラル中央を縦断するノマッド川に沿って分布していた。この川は放浪者(ノマッド)の名前の通り、ぐねぐねとした流れが北から南へ向かっている。川から離れている所にも印があったが、よく見るとノマッド川の支流近くだった。

 なぜ、もっと早く気づかなかったのか。


「いや、貴方だけのせいではない。俺たちも個々の対応に気を取られて、全体像を俯瞰していなかったのだからな」


 (ほぞ)を噛む私に、ジェラルド殿下がフォローを入れてくれた。

 

「この川の水源は?」

「サージュ山の山頂付近だな。王都(ここ)からなら、馬車で一日もかからない場所だ」


 そこに、リラ村と同様の仕掛けがある可能性は高い。

 私たちが南方へ気を取られている間に、こちらは着々と魔手を広げていたのだ。


「ベルジェ伯領の方は囮だったというわけか。しゃらくさい真似を……。これも、あの元王子の策略か?」

「あのバカ王子に、そこまでする頭があるとも思えないけどね」


 

 とにもかくにも、私はノマッド川の水源へ行ってみることにした。

 同行者はフェリクス殿下の護衛騎士、ロベールとパトリックだ。

 騎士団は未だ王都の巡回で忙しく、人手不足らしい。私一人なら護衛は要らないと言ったけれど、心配した殿下が寄越してくれたのだ。


 サージュ山の麓へは半日ほどで到着した。その後は馬で山道をゆっくり登る。

 南側には近道があるが、急峻で登りづらい。そのため、少し遠回りだがこちらの方がお勧めだとパトリックが教えてくれた。


 麓に着いた時点で、すでに結構な数の魔霊に遭遇した。

 川に沿った道を歩いていくうちに、どんどん増えてくる。瘴気も濃い。

 念のため、全員に防御術をかけて進む。


 ようやく到達した山頂には洞窟があった。

 その奥から水が流れ出して、川へと繋がっている。

 ここが水源だろう。しかし。


「これは……。リラ村の比じゃないな」


 本来なら汚れのないはずの水は、どす黒く濁っている。ただでさえ薄暗い洞窟は、中が見えないほど瘴気がこもっていた。

 腐臭が漂い、瘴気が見えないはずの騎士たちすら顔をしかめ、気分悪そうにしている。

 

 これは一筋縄ではいかない。

 いったん王宮へ戻った私は、フェリクス殿下へ報告がてら話を切り出した。


「光の精霊石?」

「ああ。あれだけの濃さだ。精霊石の結晶があれば、浄化の術を増幅できるのだが」

「うーん……少なくとも王宮には無いな。精霊石のかけらくらいなら、持っている者がいるかもしれないが。そもそも我が国には、精霊石の輸入ルートが無いんだ。必要がある場合は、国外の商人から買い付けている」

 

 精霊石の中でも、光の精霊石は飛び抜けて希少だ。

 産出国であるクレシア国はラングラルから一ヶ月はかかる上、純度の高い結晶は人気があり、年単位の予約待ちもざらである。私も、持っているのはかけらだけだ。


「それが無いと浄化できないのか?」

「……まあ、ちょっと骨が折れるけど。なんとかするよ」

「助かる。我々は、シャンタル殿だけが頼りなのだ」

 

 相談の上、私は明朝早くにサージュ山へ向かい、浄化へ取りかかることになった。

 

 収納魔法から、光の精霊石のかけらを取り出して荷物へ入れる。

 学園の授業で使ったので、もうほとんど残っていない。これでも無いよりはましだ。


「お師匠様。やっぱり私も一緒に行きます」

「駄目だ」


 アニエスは唇をきゅっと結んでいる。

 フェリクス殿下から、事情を聞いて察したのだろう。

 

 私が精霊石の結晶を必要とする理由。

 殿下にはああ言ったが、精霊士の卵である彼女は誤魔化せなかった。


 あのレベルの魔石だ。私の生命力全てを使っても、浄化できるのは五分五分といったところだろう。

 純度の高い精霊石の結晶があれば、力を増幅できるのだけれど。


「アニエス。もし二人とも居なくなったら、誰がこの国を救うんだい?」

「でも……!」


 涙を零しながらしがみ付いてきたアニエスの頭を、優しく撫でる。


「もし私が戻らなかったら、ナタンとスフィールを頼るんだよ。スフィールは頑固爺だけど、面倒見は良い奴だからね。きっと協力してくれる」

 

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