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53. アニエスの行方

「そういうわけで、アニエスと使用人二人をしばらく安全な場所へ避難させたい」

「そこまで王都の治安が悪化していたとは……。すまない、我々の落ち度だ」

 

 王宮へ行くと、席を外していた王太子殿下に代わって、ジェラルド殿下とフェリクス殿下が話を聞いてくれた。

 二人とも、心無い所業に憤慨しつつ私たちの身を心配してくれている。


「叔父上、騎士団に命じて犯人を捕らえましょう。厳罰に処すべきです」

「それより避難が先だ。いっそ、みなでしばらく王宮へ滞在したらどうだ?シャンタル殿がここにいれば、我々も相談しやすくなるしな」


 他に行く当てもないので、好意に甘えさせてもらうことにする。

 私も無闇に外へ出ない方が良いと言われ、騎士にアニエスたちを連れてきてくれるよう、頼んだ。

 だが、戻ってきた彼らに同行していたのは、アンナとセリアだけだった。


「シャンタル様から迎えが来たと言われ、一足先にこちらへ向かわれたとのことですが」

「何だって?私は何も言ってないぞ」


 訳が分からず、みなと顔を見合わせる。


「申し訳ありません、おかしいとは思ったのですが」とセリアが青くなりながら口を開いた。

「迎えにきたのが騎士様ではなかったし、馬車も王宮のものではなくて。お止めするべきでした」

「つまり、アニエスは連れ去られたということか!?」


 フェリクス殿下がセリアに詰め寄った。


「しかし、誰が?」

「まさか、精霊士排除派の連中が?」

「その可能性はあるな。……待て、シャンタル殿!どこへ行く気だ」


 いても立ってもいられなくなり部屋から飛び出そうとしたが、ジェラルド殿下に止められた。

 アンナに怪我をさせた連中が、アニエスを捕らえたのだとしたら……。

 いったい、どんな酷い目に遭わされているか。

 頭に血が上り、目の前が真っ赤になる。


「決まっているだろ。連中のアジトに乗り込んで、ぶっ潰してやる」

「シャンタル殿、俺も協力する。排除派の拠点は複数あるはずだ」

「よし、手分けして急襲しよう」

 

 フェリクス殿下にしては珍しく、好戦的だ。頼もしい。

 二人で先を争うように部屋を出ようとしたところ、


「落ち着かんか、フェリクス。この莫迦者が!」


 ジェラルド殿下の怒号が飛んできた。


「シャンタル殿、貴方もだ。この状況下でそんなことをしたら、火に油を注ぐだけだ。それが理解できない貴方ではないだろう?」


 仰る通り過ぎて、ぐうの音も出ない。

 二人で雁首そろえてジェラルド殿下に説教された。


「幸いといっては何だが、王都中で騎士団が巡回している。馬車の特徴を教えてくれ。すぐに探させよう」

「叔父上、精霊士排除派の拠点にも回らせますか?」

「いや、連中には鈴を付けてある。不審な動きがあれば、すぐに報告があるはずだ」


 殿下曰く、王族が使役している影を数人、排除派の中へ忍び込ませてあるらしい。

 鈴か……。

 ん?何かを忘れているような……。


「あ!イヤリング!」


 アニエスには、片耳だけにイヤリングを付けさせている。

 精霊石のかけらが付いており、その痕跡を辿れるよう術をかけてあるのだ。

 以前ちょっとしたトラブルに巻き込まれたことがあり、アニエスに累が及ぶ可能性もあるため、渡したのだ。それ以来、常時身に付けさせている。


 それを聞いた一同が、早く言えといわんばかりの呆れ顔になった。

 うう。動転していたんだよ。


 私は光の精霊を呼び出した。


光の囁き(リュミエ・サーチ)


 精霊はしばらくふわふわ浮かんだ後、窓の方へ向かう。こっちだ、と言っている。

 フェリクス殿下に命じられた騎士数名が精霊の後を追った。

 ちなみに精霊には光る術をかけているため、彼らにも見える。


 これですぐに行き先が分かるだろう。


 しかし、予想は裏切られた。

 しばらくして戻ってきた騎士たちから、成果が無かったと報告されたのだ。


「郊外の森の入り口に、これが落ちていました」


 それは壊れたイヤリングだった。

 中の精霊石は粉々に壊れている。

 単に落ちたのであれば、こんな状態にはならないだろう。意図的に壊されたのだ。


「そんな馬鹿な。このイヤリングの事は、私とアニエスしか知らないはずだ」

「ううむ。攫われた彼女が、わざわざ助かる手段を喋るとも思えないしな」

「本当に、他に知っている者はいないのか?」


 フェリクス殿下に問われ、私は記憶をたどる。

 頭の隅に引っかかるものがあった。


「……思い出した。一人だけ、知っている者がいる」

「誰なんだ?」

「マティアス王子だ」

 

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