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52. 到達した悪意 ◇

 私は自分の部屋から、外を眺めていた。

 雨は降っていないけれど曇り空だ。風がごうごうと吹いて木々が揺れている。


 王都でも流行病が広がり、学園は事態が落ち着くまで休園になった。外出もできるだけ控えるように言われている。おかげで、冬休みが終わってもずっと家から出ていない。


 お師匠様は、街の浄化のためあっちへこっちへと忙しく飛び回っていたが、最近では家にいる。

 人々に病気を広げたのは精霊士だという、根も葉もない噂が広がっているらしい。ここ王都にもその影響が広がっていて、精霊士を追い出せと叫びながら練り歩く人々がいるそうだ。

 王太子殿下やジェラルド殿下が憂慮され、我が家に騎士さんを派遣して下さった。結界が張ってあるから滅多なことはないのだけれど、騎士さんが家の前に立っているだけでも抑止効果があるんだそうだ。


 

 玄関の開く音が聞こえる。

 アンナさんが買い物から帰ってきたのかな?と思っていたら、悲鳴とバタバタと走る足音がした。

 何だろう?と玄関ホールへ行ってみる。

 そこには、頭から血を流しているアンナさんが座っていた。


「アンナさん!転んだの?ひどい怪我……」


 セリアさんに呼ばれたお師匠様もやってきて、アンナさんへ回復術をかけた。すぐに血が収まって、ホッとする。

 彼女曰く、買い物をしていたら突然、見知らぬ男の人に石を投げつけられたらしい。「精霊士はここから出て行け!」と叫んでいたそうだ。


「すまない。私たちのせいで」

「謝らないで下さいませ。シャンタル様のせいではございませんよ」


 そう答えながらも、アンナさんの顔は青ざめている。怖い思いをしたんだから当然だ。私は何をすればいいか分からなくて、彼女の背中を撫でるしかなかった。


「しかし、このままでは生活にも支障が出るな。王宮へ行って相談してくる。三人とも、私が帰るまで家から出ちゃいけないよ」


 そう言って、お師匠様は騎士さんと共に王宮へ出かけていった。

 

 これからどうなるんだろう。

 じっとしている気にならなくて、セリアさんの皿洗いを手伝っていたら、また玄関の呼び鈴が鳴った。


 窓から外を覗くと、コートを着込んだ男の人がいた。帽子を深く被っているため、顔はよく見えない。

 念のため扉は閉めたまま、横の窓を少し開けて来客に話しかける。


「お師匠様は不在です。大変申し訳ありませんが、日を改めてもらえませんか?」

「シャンタル様からの言いつけです。アニエス様をお連れするようにと」

「えっ?お師匠様はさきほど王宮へ行ったところですけど」

「ええ。その王宮へお連れするようにと」


 私は不思議に思いながらも、急いで出かける準備をした。手伝ってくれるセリアさんが、不安そうな顔をしているのが少しだけ気になる。


「アンナさんとセリアさんも一緒に行くのでしょう?」

「いえ、まずはアニエス様おひとりと言い遣っております」

「でも……」

「私どもの事はお気になさらず。まずはお嬢様だけでも、避難して下さいませ」

「分かったわ。二人ともすぐ迎えにくるから、待っててね」


 二人に手を振って、私は外に出た。

 門の前には馬車が止まっている。王宮の馬車ではないけど、どこかで借りてきたのかな……?

 躊躇したが、「さ、お早く」と来客に押されて乗り込んだ。


 彼は私の向かいに座り、馬車をコツンと叩いて御者に知らせた。馬車が走り出す。


 あれ……?


「これ、王宮にむかう道じゃな……」


 そこまで話した時、向かいに座る男の人が私へ何かを吹きかけた。

 ふんわりとした香りを伴う煙。それを吸った途端、頭がくらくらした。


 まずい、と思った時にはもう遅かった。手足を動かすことも出来ない。

 そのまま、私は意識を失った。

 

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