51. 失意のフェリクス ◇
「フェリクス、何だ先ほどの呆けた態度は!この未曾有の国難に、王子たるお前が腑抜けていてどうする」
「申し訳ありません、叔父上」
兄上の執務室に戻った途端、叔父上に怒鳴られた。
会議中だというのに、つい考え事をして上の空になっていたのだ。怒られるのは仕方ない。
「アニエス嬢に振られてから、ずうっとこんな感じなんだよねえ。気持ちは分かるけど、そろそろしっかりしてくれない?」
「全く、女に一度振られたくらいで。精神が弱すぎだ」
「……俺は叔父上のように、女性を取っ替え引っ替えする甲斐性はありませんから」
叔父上の言い分にカチンときて、思わず口答えしてしまった。
「はっははは。言うねえ~、フェリクス」
「別に、取っ替え引っ替えしろとは言っておらん」
笑っている兄上と対照的に、叔父上は憮然とした顔で心外だ、と呟いた。
「そこまで落ち込むくらい、諦められないのだろう。違うか」
俺は頷いた。アニエスのことが頭から離れないのだ。
俺のどこが悪かったのか。何が彼女を傷つけてしまったのか。
分からなくて、ずっと悩んでいる。
「……違っていません」
「ならば、一度断られたくらいで怯むな。幾度でも、口説き落とせばいいだけだろうが」
「で、でも。そんなの、迷惑がられるだけでは?」
「そこを気にするくらいなら、諦めて他の女を探せ。それができないのなら、進むしかないだろう」
本当にいいのだろうか。
彼女に付きまとって、心底嫌われてしまったら……。俺は今度こそ本当に、立ち直れないと思う。
「……やれやれ、世話の焼ける。お前自身がどうかすべき問題だと思って、口出しして来なかったが。あの娘はお前に気があるように見えたぞ。よく話し合え」
「本当ですか!?」
「あ、それは俺にも分かったよ。というか、分かってなかったのはお前だけ」
希望の焔がほんのりと、胸に宿る。
そうだ。俺はあの時、もっと彼女の傷に寄り添うべきっだったのかもしれない。それもせずに、俺の想いを押しつけていた。
次に会ったら、アニエスと話をしよう。嫌がられてもいい。彼女の本音を聞き出すまで、俺は引き下がらない。




