50. 会議は踊る ◇
王宮では、連日のように会議が行われていた。
流行病が我が国の全土に広がり、ついには王都リフリールでも病人が出始めているのだ。王太子である俺は、執務そっちのけでその対応に追われている。
「ノルド領の方はどうだ?」
「病人は増える一方です。医師の数が足りません」
「比較的病人の少ない領地から、連れてきましょう」
「いや、王都に近い街を優先にするべきでは?王都が壊滅状態になっては、元も子もないですぞ」
「街道の往来を制限した事による、経済的な打撃も問題です。来年の税収入の激減は覚悟しておくべきかと」
大臣の一人であるブルレック侯爵が指摘した。彼の言うことはもっともだが、今は流行病を収束させることが先決だ。
「しかし、シャンタル殿を疑うわけではありませんが。本当にその魔石とやらが原因なのですか?」
「ベルジェ伯の領地においては、病が収束に向かっているとの報告があった。彼女が出向いたことによる効果に間違いはない」
「しかしジェラルド殿下、それではこの状況に説明がつきませんぞ」
「そうそう。他の地域では収束どころか、広がる一方ではないですか」
「うーむ。それはそうだが……」
内務大臣が鋭くつっこみ、他の大臣たちも口々に彼を援護する。
いかに切れ者の叔父上といえど、老獪な重臣複数が相手では分が悪い。
「シャンタルは、王都近辺の街の浄化でも一定の成果をあげている。我々の手に負えない以上、原因究明については彼女に頼るしかない」
陛下が助け船を出した。ナイスです父上。
「俺も陛下に同意だ。ところで、例の噂はどうなった?」
大臣たちを黙らせるべく、俺も畳みかけたついでに話題を逸らした。
平民の間では、精霊士が病気をまき散らしたというあらぬ噂が立っている。シャンタル自身も、出向いた街の人々から心ない言葉を投げつけられたらしい。ここ王都でも、民衆の一部が精霊士の排除を叫んで示威運動を行っているため、騎士団による巡回警備を強化している。
「影を使っておりますが、草の根レベルまで浸透した火を消すには時間がかかりますぞ」
「市井の精霊士にも、迫害を受けた者がいるとのことです」
「それはいかんな。自領に精霊士がいる場合は一時的に保護するよう、各領主へ触れを出せ」
「かしこまりました」
「そういえば、クレッタ鉱山の方はどうなってる?」
俺は隣に座るフェリクスへ話しかけた。クレッタ鉱山の鉱脈開発については弟に一任している。だが呆けた顔をしたフェリクスは、反応しなかった。
「フェリクス!」
「あ。すいません、兄上。何でしょうか」
「クレッタ鉱山の状況について説明してくれ。招致した精霊士に問題は発生してないか」
「はい。今のところクレッタ周辺では病気が発生しておらず、アベル精霊士と領民との仲も良好であるそうです」
鉱夫やその家族は、自分たちの病気を治療してくれた大精霊士に恩義を感じているらしい。「シャンタル先生がそんなことをするわけがねえ」と中傷に怒り、アベルの事も何かあれば俺たちが守る!と請け負ってくれたそうだ。
「それは良かった。流行病が収まった後は、経済の建て直しが急務になる。精霊石の鉱脈はその柱になるだろうからね」
「収まれば、ですがね」
大臣の一人がぽつりと呟き、全員が押し黙ってしまった。




