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45. 魔霊

 伝染病の流行について、ベルジェ伯爵から報告が上がってきた。

 既に領土中に広まっており、近隣の領地まで広がりつつあるらしい。

 

 陛下はすぐに選りすぐりの医師を集め、ベルジェ領へ派遣した。だが彼らの尽力にも関わらず、病人は増える一方だった。そもそも、肝心の病因が分からないのだ。


「精霊病とは症状が違うようだが、原因が我々の想定できないところにあるのではと思ってね」


 アルフレッド王太子殿下に呼ばれて王宮に赴いた私は、現地調査を依頼された。

 何でもかんでも精霊のせいにするのも、どうかと思うが。

 想像の枠を越えた事象には、何かしら理由を付けたくなるのが人情だ。仕方ないところではある。


 ちょうど学園は冬休みに入るところだ。

 私は準備を整えてすぐに出発することにした。


 王宮から護衛として寄越してきた、二人の騎士が一緒である。

 護衛の一人は女性騎士だ。男ばかりだと私が気兼ねするだろうと、ジェラルド殿下が女性騎士を推薦したらしい。相変わらず目端の利く人だ。


 ベルジェ伯領は辺境のため、馬車で王都から一週間近くかかる。移動している間にも病人が増えるかもしれない。

 私は領地へ到着するとすぐに、最も病人が多いというマラディの街へ直行した。

 

 街へ入った途端。

 

「何だ、この嫌な感じは」

「どうされましたか、シャンタル様」

「お前たちは何か感じないかい?」


 護衛騎士の二人はきょろきょろと辺りを見回し、「空気が淀んでいる感じはありますが、別段不審なところは」と答えた。

 精霊士(わたし)にしか分からない、ということは精霊絡みか……?

 

 すぐに、嫌な感触の正体に気づいた。


「魔霊だ……!」


 魔霊。

 闇精霊と混同されがちだが、彼らは精霊ではない。女神の眷属である精霊に対して、魔神の眷属だとも、あるいは精霊が魔に堕ちたものだとも言われている。

 魔霊が発する瘴気は人体に有害だ。マラディの街には魔霊たちがはびこり、あちこちで瘴気を撒き散らしていた。

 

 診療所で病人を見て回ったが、女子供や老人が圧倒的に多い。体力のある男性は何とか耐えられたのだろうが、弱いものが瘴気に充てられてしまったのだろう。


 病人を回復させても、魔霊を何とかしなければ意味がない。

 私は彼らをたどって街の奥へと進んで行った。一時間ほど彷徨っただろうか。

 大きな広場に突き当たった。

 噴水が流れ彫刻も立っている、綺麗な場所だ。だが見た目の美しさとは裏腹に、魔霊が群がりどす黒い瘴気に覆われている。


「ここは?」

「えーと……。昔は処刑場だった場所で、今は鎮魂と憩いの場として使用されているそうです」


 広場の隅に建っている石碑を読んだ護衛騎士が、答えを返した。

 

「なるほど」


 魔霊は人の悪意や悲しみなど、負の感情を養分とする。

 処刑場だった時代にこの場所へ染み着いた悲しみや憎しみ、死の匂い。それらを好んで集まったのだ。


 私は杖をかざし、光の精霊を呼び出した。

 杖の上に精霊たちが集まり、きらきらとした光を放つ。

 

 「光の浄化(リュミエ・クリン)


 光が広がり、魔霊たちが消えていく。

 浄化の術により、瘴気も無くなっている。

 

 この街はこれで大丈夫だろう。

 診療所で重篤な病人に回復術をかけた後、私は病人が出ているという村や街をしらみ潰しに浄化していった。

 


「本当に助かりました、シャンタル殿」


 報告のためにベルジェ伯爵のマナーハウスを訪れた私は、満面の笑みの伯爵に出迎えられた。

 自領を蹂躙する流行病に東奔西走していたものの、成果が出ず途方に暮れていたのだ、と彼は語った。


「ようやく枕を高くして眠れそうですよ」

「いや、まだ安心することはできない。根本的な原因を取り除かないと」

「根本?」


 私は魔霊のことと、その性質を説明した。

 戦乱や飢饉などで世が乱れていれば、彼らが集まることもある。だが、今のところラングラルは平和そのものだ。

 つまり、魔霊を呼び寄せるきっかけとなった何かがあるはずだ。


「ふうむ……。正直なところ、全く思い当たる節がありません。ここは利権争いなどとはほど遠い、田舎の辺境。実に平穏です」

「そのようだね。だから私はナタンから聞いた、東の村へ行こうと思う」


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