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41. 予兆

「シャンタル様!お久しぶりです」

「久しぶりだね、ナタン。スフィールの爺さんは元気かい?」

「相変わらず、頑固親父ですよ」


 私はクレッタ鉱山を訪れていた。

 待っていたのはフォルネ子爵と鉱夫長のジョス、そして二人の精霊士だ。

 精霊石の採掘開始に向けて、国外から土の精霊士を招致することになったのだ。


 通称”岩のアルカナ”ことスフィール・ビュッケは私と同じく、大精霊士(アルカナ・マスター)だ。

 ドワーフ族の彼は、特に土精霊術に長けている。


 ナタンはスフィールの息子で一番弟子だ。土、水、闇の属性を持つ小精霊士(スート・マスター)でもある。

 彼はすでに独立して長く、多くの弟子を育てているらしい。


 今回は鉱山の管理者を引き受けてくれる精霊士に心当たりがないか、ナタンへ手紙を出したのである。


 昔、ちょっとした縁でスフィールと知り合った私は、当時まだ見習いだったナタンに会った。

 私と年も近く、頑固爺のスフィールよりよっぽど話しやすい相手だ。以来、交流を続けている。


「彼が、今回紹介させて頂く弟子のマルタンです。」

「初めまして!アベル・マルタンと申します。”炎のアルカナ”シャンタル様にお会いできて光栄です」


 アベルはくりくりの目をした青年だった。童顔でともすると未成年に見えてしまうが、とっくに見習いを卒業している身だ。

 だが功績の無い精霊士にはなかなか仕事が来ず、ずっとナタンの元で手伝いをしていたらしい。独り立ちを望む彼は、鉱山管理の話を聞いて飛びついたそうだ。


「ナタンの弟子なら、腕は問題ないだろう」

「はい。長く私の元で手伝いをしていましたから、腕も経験も保証します」

「他ならぬシャンタル殿の紹介ですから、そこは信頼しておりますよ。よろしくお願いします」


 子爵との話し合いにより、アベルの仕事は一日一回鉱脈を見て回ること、精霊病が発生していないか定期的に鉱夫たちを診察すること、となった。それ以外の時間は何をしていても構わないそうだ。


 鉱山の中を見学した後は、ジョスの案内でふもとの町を見回った。ここは鉱夫やその家族が住む家と診療所、後は小さい雑貨店があるだけだ。住めそうな空き家が何件があるらしいので、そこも見てみることになった。


「山中ですから、少々不便なのは否めません。私の管理屋敷の一角をお貸ししてもいいのですが」

「いえ、ここで構いません。近い方が、何かあればすぐ駆けつけられますし」


 普段の生活必需品の買い出しは、雑貨店で何とかなりそうだった。鉱夫たちは雑貨店に足りないものがある時だけ、近隣の町へ買いに行っているらしい。

 住む家も決まり、二人はいったん自分の国へ戻ることになった。アベルは今の家を引き払ってくるそうだ。

 

「そう言えばここへ来る途中、良からぬ伝染病の話を聞きました」

「伝染病?」

「ええ。私の杖を見て、光の精霊士か?と聞いてくる者がいましてね。違うと言ったらがっかりしていました」


 何でもその者の村で病気が流行っており、医師にも原因が分からないという。しかも、近隣の村へ広がりつつあるらしい。


「東の国境の方ならば、ベルジェ伯爵領か。ここから離れてはいるが」


 フォルネ子爵が難しい顔をする。


 数十年前に、熱病が国中に流行ったことがある。

 旅人が持ち込んだらしいが、最初は辺境地のみだった病気があっという間に王国全土へ広がり、王都でも死者が出たと子爵が教えてくれた。


「念のため、陛下へ報告した方がいいかもしれません」

「そうだな……。鉱山の件を国王陛下へ報告することになっている。ついでに奏上しよう」

「頼みます、シャンタル殿」

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