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40. 垣を結ぶ

「ディアーヌ様、それ違います。水の精霊石は二個ずつです」

「いやだ、間違えましたわ」


 あの事故から一週間経ち、怪我から回復したアニエスは学園へ復帰した。

 精霊術の実習については、事前に小分けした精霊石を生徒へ渡すこと、また使用方法は口頭だけでなく黒板にて図解や文字を使用して説明すること、という対策を提示したことでようやく再開のお許しが出た。


 人数分の精霊石を小分けにする作業は、アニエスとディアーヌが手伝ってくれた。

 ディアーヌが自分から手伝いを言い出したらしい。


「手伝いをすれば次の授業で何をやるか事前に分かるのだから、予習になりますもの」


 などと口では言っていたが、彼女なりの贖罪なのだろう。


 彼女たちに任せて黒板を書いていると、一人の男子生徒が「先生、質問よろしいでしょうか」と話しかけてきた。

 クロードはあのフォルネ子爵の息子で、父親に似たのか、なかなか優秀な生徒である。


「いいよ。何かな?」

「前回の授業で学んだ、光の精霊石を発光させる術ですが。発光時間を延ばすことはできないのでしょうか」


 彼曰く、安価な精霊石のかけらで灯りを作れないかと考えているらしい。鉱山では常に灯火が必要で、費用がかさむ上に火を使うため危険もある。フォルネ子爵の悩みの種なんだそうだ。

 

「難しいな……。精度の高い精霊石を使えば長時間照らすことは可能だろうが、高価な材料を使っても意味はないのだろう?」

「そうですね。やはり無理でしょうか」

「いや。例えばこんなのはどうだろう」


 私は荷物から精霊石と、ミスリルのかけらを取り出した。

 その二つを机に置き、精霊術をかける。


土の融合(テール・フュージョン)

 

 二つの石がくっつき、その反応で光り始めた。


「このように、土の精霊石に金属を合わせると発光する性質がある」

「なるほど……。しかしミスリルを使うと、高値になりませんか?」

「威力は劣るが、他の金属でも可能だ。組み合わせ次第だと思う。アニエス」

「はい」


 アニエスがぱらぱらと手持ちの参考書をめくって、クロードに見せた。


「この本に何例か載っています」

「精霊石の中でも土は一番よく手に入りますしね。上手くいけば鉱山だけでなく、一般家庭でも流用できるのではなくて?」


 興味を持ったらしいディアーヌも話題に参加してくる。


「クロードのご実家ならば、土の精霊石は手に入りやすいでしょうし」

「よく知ってるな」

「ほほほ、侯爵家の情報網を舐めないで下さいませ」


 先日、国王陛下がクレッタ鉱山における精霊石の採掘事業へ本腰を入れる決定を下した。

 精霊石鉱脈開発は国家事業のため、軌道に乗るまでは極秘裏に進められているはずなのだが。

 シャレット侯爵家、恐るべし。


「お母様は、精霊石の流通に一枚噛もうとして躍起になってますわよ」

「それを防ぐため、秘密にしていると思うんだけどな。まあいいや。クロード、春の成果発表会に向けて、自身でこれを研究してみるのはどうだ?」

「はい!やってみます」

「それなら、この参考書をしばらくお貸ししましょうか」

「いいのかい?ありがとう、アニエスさん」

 

 アニエスは開いていた頁にしおりを挟んで、クロードに渡した。

 大喜びで席へ戻っていく彼を見送る。

 席には既に、数人の生徒たちが座っていた。授業開始の時間が近いことに気付き、慌てて黒板書きを再開する。


「アニエス、あのしおりは」

「頂いた花があんまり綺麗だったので、押し花にしたんです」

「……コホン。あんな花でよければ、また幾らでも差し上げますわ」


 授業の準備をする傍らで、こっそりとディアーヌの様子を伺い見る。扇で隠してはいるが、嬉しそうな顔だ。


「うちの屋敷の庭には、もっと珍しい花もありましてよ」

「そうなんですね。見てみたいです」

「なら一度うちにいらっしゃいな」

「えっ、良いんですか?」


 ディアーヌは以前のツンケンした態度がなくなったようだ。アニエスも屈託のない顔で接している。

 ずっと私と二人きりで同じ年頃の娘と接する機会がなかったからな。良い友人ができて良かった。

 

「もちろんよ。そうだ!私もアニエスのお宅へ行ってみたいですわ」

「私は良いですけど、お師匠様の許可がないと」

「構わないよ。ただシャレット侯爵家のような広い家ではないし、散らかっている。それでも良ければ、いつでもおいで」

「ええ!一度、シャンタル先生の工房を見てみたかったんですの」

「おや、それが目的かい?」

「まあ、ほほほ。何の事かしら」


 そうして、三人で笑い合った。

※垣を結ぶ=友垣です。

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