3. 思いがけない来客
来客は、若い男性の二人連れだった。
一人は短い黒髪に切れ長の目をした男。美形といって良いだろう。もう一人は、明るい茶色の髪を後ろで束ねた男だ。黒髪と違って愛想が良い。ソファに座った黒髪の後ろへ自然に立ったところをみると、従者だろうか。
服装は一見、二人とも裕福な商人風だ。だが、所作の優雅さや身のこなしは平民らしくない。お忍びでやってきた貴族といったところか。
「私はラングラル国のフェリという者だ。貴方が名高き大精霊士、シャンタル殿で間違いないか」
「ああ、私がシャンタルだ」
「貴方に頼みたいことがあるのだが……」
フェリと名乗った男が、お茶を出しに来たアニエスをちらっと見る。部外者に聞かれたくない話ということか。
「アニエス、ここはいい。精錬水が切れていたから、作っておいてくれ」
「はい、お師匠さま」
アニエスを見送るフリをしながら、私はそっと闇の精霊を呼び出した。精霊は私の指示に応じて、男のそばにふわふわと飛んでいる。
私へ頼みごとを持ってくる者たちの中には、悪事を手伝わせようとする奴や、嫌がらせを目論む奴もいる。そのため、馴染みのない客にはこっそり精霊を付け、発言に嘘が含まれていないか調べることにしているのだ。
何の反応もしないところをみると、彼らには精霊が見えないのだろう。フェリはアニエスが出て行ったのを確認し、話を再開した。
「お気遣い、感謝する。実は、俺の知人が精霊に纏わるトラブルを抱えている。知っていると思うがラングラルには精霊士が少ない。伝手を頼って何とか見つけ出した精霊士にも、自分には無理だと断られてしまった」
私は精霊の様子を見た。特に変わった動きは無い。嘘は言っていないようだ。
「その精霊士は、シャンタル殿ならばあるいはと言っていた」
「トラブルの内容を、具体的に教えてくれないか」
「すまない、詳しいことは俺にも分からない。ラングラルへ来て、本人に詳細を聞いて欲しい」
精霊がイヤイヤという風に身体をふった。嘘だ。
「すまないが、貴方の願いを聞くことはできない。お引き取りを」
「なぜだ?大精霊士は困っている者を救うと聞いている。それとも、他国の人間は救わないと?」
「そういうわけでない。信用できる人間なら、どこの国の者だろうが差別しないよ」
「俺が信用に値しないと?」
気色ばんで立ち上がりかけたフェリを、茶髪の男がまあまあという仕草で押しとどめた。
「知人がトラブルを抱えているのは本当、精霊士に相談したというのも本当。だが、貴方は詳細を知っているはずだ。私に頼みごとをするなら、嘘はやめるんだな」
フェリは一瞬、動揺した表情を見せた。だがすぐに落ち着きを取り戻し、座り直すと私に向かって頭を下げた。
「高位の精霊士に嘘は通じないと聞いていたが……本当だったんだな。すまない。あなたの言うとおりだ。礼に欠いた振る舞いをしてしまった」
「本当のことを言う気になったかい?」
「ああ。私の名前はフェリクス・ラングラン。ラングラル国の第二王子だ。こっちは護衛騎士のパトリック。助けてほしい人というのは私の父。すなわち、国王陛下だ」