31. 心強い味方
陛下の最終治療日。
いつも通りの治療を終えると、陛下から丁寧な礼と謝礼金まで頂いてしまった。
住む所と職まで用意してもらったのだから、謝礼は十分と思っていたのだけれど。
まあ、貰えるものは有り難く貰っておいた。
アニエスが特待生に合格したとはいえ、学費はかかるしね。
陛下の私室を出たところで、若い官僚が待っていた。
見た事のある顔だ。ジェラルド殿下の側近じゃなかったか?
「シャンタル殿。王弟殿下がお呼びです」
やはりそうだった。
先日のことだろうか。
ジェラルド殿下が元気になったという事は、アニエスから伝え聞いている。
嫌みのひとつでも言われるのかもしれない。
官僚に連れられて執務室に入ると、忙しそうに仕事をしている殿下と側近たちの姿があった。
私と目が合ったジェラルド殿下は一瞬、気まずそうな顔をする。
その後、手を振って側近たちを退席させた。
「あー……。シャンタル殿。先日は不躾な態度を取ってすまなかった。謝罪する」
「いや、こちらこそ。余計な事をしてしまった」
てっきり怒られると思っていたので、面食らってしまった。
「一つだけ、聞きたい。あれは本当にエリザベスの声だったのだろうか」
「ああ。ペンダントには彼女の想いが光精霊の痕跡として染み着いていた。それを再現したんだ。十年という時間を考えれば、奇跡のようなものだ」
彼女が光の精霊士であったこと、またおそらくだが長期間ペンダントを身につけていたこと。そして、彼に対する強い想い。
それらが実を結んだ奇跡だ。
「そうか。ずっと、身につけていてくれたんだな……」
ジェラルド殿下が遠い目をして呟く。
束の間、二人とも無言だった。
彼は沈黙を破るようにすくっと立ち上がると、私に向かって深々と頭を下げた。
「本当に、感謝する。俺のことも、兄上のことも貴方が救ってくれたのに、俺は無礼な態度を取るばかりで礼も言っていなかった」
「わ、分かったから顔を上げてくれ、殿下」
ジェラルド殿下にこう頭を下げられると、面映ゆいというか何というか。
「シャンタル殿。何か望みは無いか?俺の出来うる限りならば、何でも叶えるつもりだ」
「謝礼は陛下から十二分に貰っている。気にしないでいい」
「それは兄上からの礼だろう。俺は、何をしたらいい。どうしたら貴方の献身に応えられる?」
殿下が必死で食い下がる。
この国で安定した住処を得ることが、私の目的だったんだ。それ以上に望むものなんて、ない。
「私は、殿下の精霊に関する偏見が少しでも減ってくれたのなら、それでいい」
「……それならば、俺も精霊術を広める仕事を手助けしよう。少しでも、貴方がこの国で過ごしやすくなるように」
「それは助かる。王弟殿下の助力があれば百人力だ」
本心からの言葉だった。
長年国王の補佐を務め、かつ学園長でもあるジェラルド殿下は、貴族たちからの信頼が篤いと聞いている。
彼がバックにつくならば、かなり動きやすくなるのは事実だ。
ジェラルド殿下から差し出された手を取り、私たちは力強く握手した。




