表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/166

31. 心強い味方

 陛下の最終治療日。

 いつも通りの治療を終えると、陛下から丁寧な礼と謝礼金まで頂いてしまった。


 住む所と職まで用意してもらったのだから、謝礼は十分と思っていたのだけれど。

 まあ、貰えるものは有り難く貰っておいた。

 アニエスが特待生に合格したとはいえ、学費はかかるしね。


 陛下の私室を出たところで、若い官僚が待っていた。

 見た事のある顔だ。ジェラルド殿下の側近じゃなかったか?


「シャンタル殿。王弟殿下がお呼びです」


 やはりそうだった。

 

 先日のことだろうか。

 ジェラルド殿下が元気になったという事は、アニエスから伝え聞いている。

 嫌みのひとつでも言われるのかもしれない。


 官僚に連れられて執務室に入ると、忙しそうに仕事をしている殿下と側近たちの姿があった。

 私と目が合ったジェラルド殿下は一瞬、気まずそうな顔をする。

 その後、手を振って側近たちを退席させた。

 

「あー……。シャンタル殿。先日は不躾な態度を取ってすまなかった。謝罪する」

「いや、こちらこそ。余計な事をしてしまった」


 てっきり怒られると思っていたので、面食らってしまった。


「一つだけ、聞きたい。あれは本当にエリザベスの声だったのだろうか」

「ああ。ペンダントには彼女の想いが光精霊の痕跡として染み着いていた。それを再現したんだ。十年という時間を考えれば、奇跡のようなものだ」


 彼女が光の精霊士であったこと、またおそらくだが長期間ペンダントを身につけていたこと。そして、彼に対する強い想い。

 それらが実を結んだ奇跡だ。


「そうか。ずっと、身につけていてくれたんだな……」


 ジェラルド殿下が遠い目をして呟く。

 束の間、二人とも無言だった。

 彼は沈黙を破るようにすくっと立ち上がると、私に向かって深々と頭を下げた。


「本当に、感謝する。俺のことも、兄上のことも貴方が救ってくれたのに、俺は無礼な態度を取るばかりで礼も言っていなかった」

「わ、分かったから顔を上げてくれ、殿下」


 ジェラルド殿下にこう頭を下げられると、面映ゆいというか何というか。


「シャンタル殿。何か望みは無いか?俺の出来うる限りならば、何でも叶えるつもりだ」

「謝礼は陛下から十二分に貰っている。気にしないでいい」

「それは兄上からの礼だろう。俺は、何をしたらいい。どうしたら貴方の献身に応えられる?」


 殿下が必死で食い下がる。

 この国で安定した住処を得ることが、私の目的だったんだ。それ以上に望むものなんて、ない。


「私は、殿下の精霊に関する偏見が少しでも減ってくれたのなら、それでいい」

「……それならば、俺も精霊術を広める仕事を手助けしよう。少しでも、貴方がこの国で過ごしやすくなるように」

「それは助かる。王弟殿下の助力があれば百人力だ」


 本心からの言葉だった。

 長年国王の補佐を務め、かつ学園長でもあるジェラルド殿下は、貴族たちからの信頼が篤いと聞いている。

 彼がバックにつくならば、かなり動きやすくなるのは事実だ。


 ジェラルド殿下から差し出された手を取り、私たちは力強く握手した。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ