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2. こんなはずじゃなかった ◇

 こんなはずじゃなかったのに。


 私は侯爵令嬢、ナディーヌ・クラヴェル。


 侯爵令嬢たるもの、王族に嫁ぐべしと言い聞かせられて育てられてきたわ。それなのに、第一王子のヴァレール殿下は他国の姫君と婚約が決まってしまった。それはまだ良い。相手が王族ならば仕方ないわ。

 でも、第二王子のマティアス殿下がアニエスとかいう娘と婚約したのには、我慢ならなかった。未来の小精霊士(スート・マスター)だかなんだか知らないけれど、侯爵令嬢たる私を差し置いて、平民の娘が王子妃ですって?


 だから、奪ってやったわ。


 マティアス殿下の寵を得るのは簡単だった。

 殿下自身も婚約者に不満を持っていて、常々愚痴を言っておられたことは知っていたもの。


「殿下がお可哀想。あのような娘は、マティアス殿下のような気高い方にはふさわしくありませんわ」と同情するフリをしたら、すぐに私へ夢中になったわ。

「俺のことを、真に理解してくれるのはお前だけだ」ですって。


 あんな地味な娘より、私の方が見た目も身分も上ですもの。当然よ。


 殿下の周りには他にも女がいたけれど、みんな伯爵家や子爵家の娘だったから、我が家の名前を出したら引き下がっていったわ。どうせ、側室狙いだったんでしょう。

 


 あの夜会の翌日、私はマティアス殿下の私室にいた。殴られたことをプリプリと怒る殿下を宥め、そのまま一夜を過ごしたのだ。

 ちなみに怪我の方は、回復薬を飲ませたらケロッとしていた。意外とタフね。

 だが翌朝、視察からお戻りになった陛下の前に、私たちは引きずり出された。


「シャンタル殿は、この世に四人しかおらぬ大精霊士(アルカナ・マスター)だぞ!その愛弟子と婚約することで、彼女が我が国へ永住する約定を交わしておったこと、知らぬ訳はあるまい。どう責任をとるつもりだ!」


 陛下は、今までに拝見したことのないほどのお怒り様だった。王妃様は頭を抱えておられる。


「し、しかし!アニエスは平民の、しかも孤児ではないですか。このナディーヌも、三属性の精霊使いの素質を持っているのです。しかも実家は侯爵家。王子たる私の配偶者としてふさわしいのは、彼女の方です!」

「ほう?私はその娘に、精霊使いの素質があるとは聞いておらぬが」


 陛下がじろり、と私をにらんだ。


 まずい。

 私に精霊使いの力などない。

 金を積んで精霊石を手に入れ、精霊魔法を使って見せたのだ。マティアス殿下はすっかり私が精霊使いだと信じ込んだわ。

 だから、アニエスなんて必要ないと殿下を唆したのだ。

 

「嘘ではありません!そうだよな、ナディール」

「も、もちろんですわ」

「しかも!あのシャンタルとかいう女は、普段から王族に対して口の利き方も知らない無礼者です。さらには私に暴力まで……。不敬罪で捕らえるべきはあの女の方ではありませんか」

大精霊士(アルカナ・マスター)に、俗界の常識を当てはめることはできない。それに暴力は確かによろしくないが、あのような場で婚約破棄などと言い出して、アニエス殿を辱めたお前の方がどう見ても非がある」


 ぐっ、とマティアス殿下が言葉に詰まった。


「我が国にとって、シャンタル殿がどれだけ価値のある存在か分からぬか。取り替えのきくお前と違ってな」


 その言葉の真意を理解し、私は蒼白になった。殿下は分からなかったようですけど。


 陛下には四人の王子がおり、すでに王太子はヴァレール殿下と定まっている。マティアス殿下の立場は危ういのだ。だからこそ、我がクラヴェル侯爵家が後押しすればとも思っていた。このままでは、王族としての立場すら剥奪されかねない。


「わ、分かりました。私がシャンタルの怒りを静め、今後も我が国へ留まるよう説得します」

「お前にそんなことができるとは思えぬが……・良かろう。ただし、失敗してシャンタル殿を他国へ奪われるようなことがあれば、王族からの除籍も覚悟しろ」



「ど、どうするんだナディーヌ!お前が婚約破棄しろと言うから」


 陛下の前から辞した私へ、マティアス殿下が詰め寄った。

 早速私のせいになさるの?器の小さい男ですわね。

 

「落ち着いてください、殿下。アニエス殿を側室にすればよろしいのです」


 殿下は一瞬呆気にとられたが、その手があったか!と顔を綻ばせた。


「名案だ!しかし、いいのか?私が側室を迎えることになっても」

大精霊士(アルカナ・マスター)の怒りを静めるためですもの。それに王子たるもの、側室の一人や二人、お持ちになるのは当然ですわ」

「さすがナディーヌ!なんと寛大なのだ。あの精霊士どもに聞かせてやりたいくらいだ」


 そうよ。あの小娘を、側室として囲え込んでしまえばいいのよ。

 あの娘に精霊士の仕事をさせて、私の功績にする。そうすれば、私が精霊使いではないとお疑いの陛下も、納得されるわ。

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