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21. 兄と弟 ◇

「ラングラルの国王が病気?確かな情報か?」

「はい、王太子殿下。かの国に常駐させている間者からの報告です。一般国民には伏せられていますが、高位貴族たちには情報が回っていたようで」


 なぜ王族自らが出向いてシャンタルを連れて行ったのか不明だったが、これで謎が解けた。

 おそらく、シャンタルの光精霊術を当てにしたのだろう。


「分かっていれば、交渉を有利に進めたものを」


 ふう、と俺は頭を押さえた。

 ラングラルからは最近、何度も関税率の引き下げを要求してきている。

 最近では、逆にハラデュールからの輸出品に対して関税を上げると言い出した。たかだか二百年程度の歴史しか持たぬ国が、と陛下は相手にしていなかったが。


 確かラングラルの王太子は俺より年下のはずだ。国王代理があの若造なら、強引にこちらの言い分を押し通す事も可能だったろう。だがマティアスの愚行のせいで、有利になるどころか借りを作ってしまった。


「ファビアン。マティアスはどうしている?」

「与えられた屋敷に引きこもっているようです。潜り込ませた使用人によれば、何をすることもなく酒を飲んでクダを巻いているとか」

「相変わらずだな」


 あの弟は、昔から甘ったれだった。幼い頃はそれが可愛いと思っていたこともある。

 だが、奴は成長してからも変わらなかった。

 飽きっぽい性格で、勉強も剣の稽古もすぐに投げ出す。そのくせ俺より下だと分かると、癇癪を起こした。

 あの根拠の無い自信はどこから来るのか……。


 能力が足りないのは構わない。

 だが王族である以上、足りないなりに自分のできる事をすべきだ。


 三番目の弟アロイスは、俺の手伝いをしたいと学生の身で執務を手伝っている。

 四番目の弟ヴァレリーは、自分に政治は向かないからと研究者になる道を選んだ。主要な輸出品である絹織物の品質向上を研究課題とするそうだ。


 それに比べてマティアスがやった事といえば、女を侍らすことだけだった。


 父上は国王としては公正な方だが、何だかんだ言ってマティアスに甘い。簡単な執務を与え、それも十分にこなせないと分かると優秀な側近をつけて尻拭いをさせた。

 

 アニエスとの婚約だってそうだ。大精霊士(アルカナ・マスター)シャンタルと繋がりを持ち、かつ未来の小精霊士(スート・マスター)である彼女の夫にすれば箔が付くとでも考えたのだろう。

 

 父上が引退したら、今度は俺があの無能な弟の面倒を見続けなければならない。冗談ではないと思った。


 夜会の場で、マティアスにクラヴェル家の令嬢を紹介したのは俺だ。

 ナディーヌは、以前俺の婚約者候補だったこともある。あの娘は、何故か自分が婚約者に選ばれるものと思っていたらしい。社交の場でしつこく付きまとってくる姿には辟易したものだ。

 

 俺の婚約が決まった後はマティアスに色目を使い始めた。根拠のない自信家という意味では、あの娘とマティアスはお似合いだ。

 ただ、あそこまで派手に婚約破棄騒動を起こすとは思わなかった。こちらの想像を超えて馬鹿な奴らだった。

 

 おかげでシャンタルを怒らせてしまった。俺としては、浮気したマティアスに頭を下げさせて穏便に婚約を解消し、アニエスには弟のどちらかとの婚約を打診するつもりだったのだが。


「お前、潜入者がラングラルの貴人だと分かってたんだろう?」

「商人と名乗ってる割には、品のある者だったとは聞いていました」


 しれっとした顔でファビアンが答えた。

 シャンタルの家にも手の者を張り付かせていたらしい。

 

 この男の情報収集力を、俺は高く買っている。だからこそ側近にと望んだのだ。

 

「それをマティアスに言わなかったのか?」

「間者かもとだけ伝えました。それを聞けば嬉々として追いかけるでしょうからね」

「おかげでラングラルに借りができたではないか」

「あれがなければ、陛下もマティアス殿下を見捨てる決断ができなかったかと」

「……それは、確かに」


 父上も口では厳しいことを言っていたが、本当に奴を除籍にするつもりはなかっただろう。

 他国と事を構えかねない事態になって、ようやくマティアスを切り捨てたのだ。


「怖い奴だな」

「私は()()のお望みに従っただけですよ」

 

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