表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/166

19. やる気のない生徒たち

 数日後、私とアニエスはフェリクス殿下と共に学園に向かった。

 

 王都の中心街から少し離れたところにある学園は、かなりの広さだった。

 入り口には衛兵まで立っている。まあ高位貴族や王族も通っているのだから当然か。


「引っ越しは無事に終わったか?」

「ああ。手伝いにパトリックとロベールを寄越してくれて助かったよ」


 陛下の容態も落ち着いたので、私たちは用意してもらった屋敷に移ったのだ。使用人も用意されていた。

 国王の病気を治したのだから当然かもしれないが、ハラデュールとは比べものにならないほど手厚い待遇だ。


「俺も行きかったのだが、政務が溜まっているから手伝えと兄上に捕まってしまってな」

「今日はいいのかい?」

「学園の行事だと言って無理矢理出てきた」


 意外にも、フェリクス殿下はまだ学生だった。

 いや、年齢を考えれば当然なのだが。

 学園に通っている気配が無かったので、もう卒業したものと思っていた。

 彼曰く、既に飛び級でほとんどの課程を終えており、あとは気が向いた時や特別授業の時だけ顔を出しているらしい。


「飛び級!殿下は優秀なんですね」

「いや。政務の人手が足りないんだ、とっとと課程を終わらせろと父上と兄上に言われて、死ぬ思いで単位を取りまくったんだ。あれはキツかった……」


 フェリクス殿下が遠い目をしている。

 王族も大変なんだな。どっかのバカ王子とは大違いだ。

 

「そろそろ精霊術の授業が始まる時間だ。先生には話を通してあるから、見学に行こう」


 教室に入ると既に授業は始まっていた。

 席には十人程度の生徒が座っている。教壇に立っていた男性はこちらを見て軽く頭を下げ、授業を再開した。


「文献に残っている精霊術士のもっとも古い記録は、千年前の精霊術士サロモン・ダンドリューです。当時は精霊術士という言葉はなく、単に精霊使い、もしくは魔法使いと呼ばれて……」


 教師が説明しているというのに、真面目に聞いている生徒はほとんどいない。

 隣の生徒とコソコソ話に興じる者や、寝ている者。振り返ってこちらを見ている者もいる。


「見て、フェリクス殿下よ!今日は学園にいらっしゃる日だったのね」

「隣の女性たちは誰かしら?見かけない顔だけれど」


 小声でしゃべっているつもりだろうが、丸聞こえだ。

 なるほど。殿下の整った容姿に王族という身分。さぞ女性徒たちに人気があるんだろう。


 女生徒の刺すような視線を受けながら、私たちは授業を見学した。


 

「私はユベール・エストレと申します。大精霊士(アルカナ・マスター)シャンタル殿にお会いできるとは光栄です。こちらはお弟子様ですか?」


 ユベールは眼鏡をかけた痩せぎすの男性教師だった。

 彼は子爵位の持ち主で、水の精霊士でもあるそうだ。


「はい、アニエスと申します」

「この子は三属性の持ち主でね。弟子にして十年になる」

「おお、ならば未来の小精霊士(スート・マスター)様ですな。優秀な生徒をお持ちでうらやましい」


 ユベール先生は眼鏡をくいっと上げながら、アニエスを興味深そうに見た。


「授業を拝見したが。正直に言って、あまり活気が無いようだね」

「恥ずかしながら……。精霊術は選択科目ですが、本当に興味を持って受けようとする生徒は、ほとんどいないのが実状です」


 生徒たちは単位目当てに受けているらしい。

 各科目には最低限、合格させなければならない生徒数のノルマがある。人気の無い科目の方が、合格しやすいと思っているのだろうとユベール先生が述べた。


「ですが、”炎のアルカナ”シャンタル殿が講師となれば、皆興味を持つでしょう」

「こりゃあ責任重大だ」


 教えるのは嫌いじゃないが、あそこまでやる気の無い相手だとなあ。

 彼らの興味を惹くような授業内容を考えないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ