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17. クレッタ鉱山にて

 王太子殿下の依頼で、私はクレッタ鉱山へ赴いた。そこの鉱夫に、陛下と同じような症状が出ているらしい。王太子殿下の指示により、今は鉱山全体を閉鎖しているそうだ。


 案内役として、フェリクス殿下と護衛騎士の二人が同行している。

 アニエスは王宮に残してきた。もう大丈夫だとは思うが、万が一陛下の体調が悪くなった場合を考慮したのだ。クレッタと王都は片道でも三日はかかる。今のアニエスなら、私が戻るまでにある程度の対処はできるだろう。


 クレッタの麓では、二人の男性が待っていた。

 一人は現場監督のジョス、もう一人は鉱山管理者のエクトル・フォルネ子爵だ。


 この鉱山のある一帯は元々フォルネ子爵家の領地であったが、ミスリルの採掘を国家産業とするため、王家直轄領として召し上げたそうだ。フォルネ子爵家には代わりの領地と、鉱山の管理権が与えられた。

 毎年、採掘による収入の一割をフォルネ子爵に支払うということで納得してもらった、とフェリクス殿下が教えてくれた。


「ご高名は聞き及んでおりますぞ。お会いできて光栄です、シャンタル殿」

「こちらこそ、フォルネ子爵殿。早速だが、鉱夫の様子を教えてくれるか」


 子爵がジョスへ視線を移す。ジョスは王子と大精霊士(アルカナ・マスター)を前にして恐縮している様子で、緊張で所々つっかえながらも状況を説明してくれた。


「四人の鉱夫が、目の前に光がちらつく、誰もいないのに声が聞こえると訴えております。今は診療所で休ませています」


 ジョスの案内で診療所に向かう。

 中には予想通り、土の精霊が飛び交っていた。だが、王宮で見たような数ではない。

 鉱夫たちも弱ってはいたが、国王陛下ほどの重篤な状態ではなかった。


「精霊病で間違いない。幸い、症状は軽いようだ」


 これなら薬だけで何とかなるだろう。

 私は、一週間分のヴァベイネ薬と精霊よけの香を渡した。


「これで症状は収まると思う。もし治らない者が居たら、連絡して欲しい」

「子爵、念のため一週間後に状況を伝えてくれ。その際に回復しない者がいると分かれば、俺からシャンタル殿へ連絡しよう」

「分かりました、殿下」


 その後私たちは調査のため、鉱山の中に入った。

 洞窟特有のひんやりした空気と湿った土の臭いがする。数匹の精霊がふよふよと飛んでいた。


 ジョスの案内で鉱道を行ったり来たりしながら彼らをたどっていくと、小さな鉱道に出た。他の道に比べると、新しいもののようだ。


「新規にミスリル鉱脈が見つかりまして、数ヶ月前に開拓した鉱道です。先日、陛下をご案内したのもここです」


 狭い鉱道に精霊たちが飛び交っている。密度が高過ぎて、息が詰まりそうだ。

 ここが原因で間違いない。

 私がそう伝えると、フェリクス殿下はジョスに命じて鉱道の入り口を封鎖させた。

 これで、他の鉱道は使えるようになるだろう。


 既に日が落ち掛かっていたので、その日はフォルネ子爵の屋敷へ泊まらせてもらうことになった。

 元々は領主屋敷だったが、領地変えにより、今は管理者として仕事をする場合にのみ使用しているとのことだ。元領主屋敷だけあって、なかなか立派な建物である。

 普段使ってないのが勿体ないくらいだ。


「しかし、鉱山自体の閉鎖に至らなくて安心しました」

 

 夕食へと誘われ、私は殿下や子爵と共に食事を取った。大したものがなくて申し訳ありませんと子爵は言ったが、私には十分過ぎるくらいだ。


 普段は研究にかまけて食事を抜くことも多いからね。よくアニエスに叱られたもんだ。


「ああ。ミスリルは我が国の大事な輸出品だ。これ以上出荷を止めると、取引先からの信用を失ってしまう」

「新しい鉱脈が使えないのは残念でしたが、仕方ありませんね」

「古い鉱脈の採掘量が落ちているので、新規開拓したところだったな。今後のことを考えると、別の鉱脈を探すべきか……」

「それなのですが。殿下、シャンタル殿」


 フォルネ子爵がテーブルから身を乗り出した。目をランランと輝せている彼に、殿下はたじろぎ気味である。


「新たに、精霊石の採掘に着手してはどうでしょうか」

「なるほど。それはいい案だ」


 ミスリルも希少だが、精霊石はさらにレアな存在だ。鉱脈も限られた場所にしかない。ほとんどの国は、輸入品に頼っているのが現状だ。

 精霊石は、精霊術を使えない一般人でも魔法を使える品として非常に需要がある。もし産出に成功すれば、ラングラルは莫大な富を得ることになるだろう。


「だが、精霊石の採掘は手間がかかるぞ。精霊病の懸念もあるが、取り扱いには細心の注意が必要だ。サージュ国では火の精霊石の採掘場で爆発事故が発生して、多数の怪我人を出したこともある」


 だから、よけいに精霊石は高価なのだ。

 高揚していた子爵と殿下の熱気が、みるみるうちに鎮まった。脅しすぎたかも。


「精霊石の鉱山では、たいてい精霊士を常駐させているね」

「それは、シャンタル殿にお願いできないのでしょうか?」

「シャンタル殿は他にも仕事がある。王都から三日かかるクレッタに住むわけにはいかないだろう」

「とすると、国外から新たに精霊士を招致するか……」

「何にせよ、今は立て込んでいる。陛下が政務に復帰されたら、俺から提案してみよう」


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