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幕間5.2 little little girl(2)

 あれから一週間。お師匠様は子供のままだ。


 表向き、お師匠様は辺境視察のため不在ということにして、来客も断っている。たまたま主立ったパーティや行事が無かったのは幸いだ。


 ジェラルド殿下は何度も、二人で王宮へ来ないかと言って下さった。この状態のお師匠様がよほど心配なのだろう。

 だけどフェリクス様の言うとおり、王宮は何かと人目があるのだ。お師匠様が子供になったなんて噂が広がったら、大騒ぎになる。


 私もなるべく外出は控え、お師匠様のそばへいるようにした。屋敷の結界は問題なく作動しているけれど、やはり心配だもの。



「アニエス。今日もいっしょに寝ていいか?」


 お師匠様がおずおずと聞いてきた。一人だと心細いらしい。ベッドへ乗せてあげると、嬉しそうに身体をくっつけてくる。


 もしこのまま元に戻らなかったらどうしよう……。

 私やお師匠様の結婚もダメになってしまうかも知れない。私ひとりで、子供を抱えて生きていけるかしら。


 そんなことを考えているうちに、不安顔になってしまったのだろう。

 「どうしたの?」と首を傾げるお師匠様の頭を撫でる。

 

「なんでもないですよ」

「ジェラルドは明日も来るかなあ」

「きっといらっしゃいますよ。このところ、毎日顔を出されますもの」


「ほんと?」と聞く彼女はとても嬉しそうだ。その笑顔を見ていると、ちくりと胸が痛む。


「お師匠様は、ジェラルド殿下がとてもお好きなのですね」

「うん!でも、アニエスも同じくらい大好きだぞ!」


 屈託のない笑顔で答えるお師匠様。

 嬉しくなって「私もお師匠様が大好きですよ!」とその小さい身体を抱きしめた。


 そうだ。何を悩んでいたのだろう。

 これまでずっと私を慈しんでくれたのはお師匠様だ。今度は、私がそれをお返しすればいいだけのこと。



「……シャンタルはまだ戻らんか」

 

 我が家の応接間で、ジェラルド殿下とフェリクス様が暗い顔で溜め息をつく。

 毎日のようにいらっしゃるけれど、お仕事は大丈夫なのかしら。


「まさか、ずっとこのまま……?考えたくないな」

「もしそうなったら、私たちがお師匠様を育てます」


 既にフェリクス様には私の考えを話してある。最初は難色を示していた彼も、私の決意が固いのを見て同意して下さった。

 

「それはだめだ。シャンタルは俺の養女にする」


 ジェラルド殿下がきっぱりとそう言って、お師匠様を抱き上げた。


「お前たちはまだ若い。結婚したら子供も設けるだろう。お前たちは、自分の幸せだけを追求しなさい」

「叔父上、しかしそれは」


 私たちはそれで良いかもしれない。でもそれは、ジェラルド殿下に幸せを捨てさせることになる。


「俺の事は気にしなくていい。俺は、この生ある限りシャンタルのそばにいると約束したのだ。形が違えど、それを破るつもりはない」


 この方は……なんて深く人を愛するのだろう。

 私は内心、ひどく感動していた。

 誰とも結婚しないと公言していたお師匠様が彼を選んだ理由が、分かった気がする。


 ビリッ


「ん?」


 何か破ける音がしたような……?


 ビリビリビリ


 殿下の腕の中にいたお師匠様が、見る見るうちに大きくなっていく。着ていた子供服がはらりと足下に落ちた。


「わわっ。シャンタル殿、何か着てくれ!」


 服がすっかり破けてしまったのでお師匠様は裸に近い姿だ。フェリクス様は赤くなって手で目を覆っている。

 私は咄嗟にテーブルカバーを引っ剥がし、それでお師匠様の身体を覆った。


「……シャンタル……」

「ジェラルド?いったいこれはどういう状況……」

「シャンタルぅ~~!!!」


 訳が分からないといった顔のお師匠様を抱きしめ、その胸に頭を押しつけてぐりぐりと動かすジェラルド殿下。


「ああ……この柔らかな感触……まさしくシャンタルの乳だ……」

「ジェラルド!ちょっ、人前で何をっ」

「叔父上、こんなところで破廉恥な真似はやめて下さい!」

「いやだ!離さないぞ!!」


 結局、ジェラルド殿下はまたもフェリクス様と護衛騎士さんに引きずられて行った。「シャンタル~!!」と叫びながら。

 

 その後、お師匠様は王妃様から盛大に叱責されたらしい。

 青い顔で「しばらく怪しい調合は控えるよ……」と言っていた。あのお師匠様を怯えさせるなんて、なかなか出来ないことだと思う。

 

 大変ではあったけれど、お師匠様と立場が逆転したのは少しだけ楽しかった。なんてことは、怒られそうだから言わないけどね。


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