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幕間4. 前途は多難

「アニエス、体調は問題ないかい?」

「はい、身体はもうなんともありませんけど……あの、フェリクス様。この体勢になる必要があるのですか……?」


 俺の膝の上にいるアニエスがおずおずと問いかける。

 ここは俺の自室。本日の王子妃教育が終わる頃合いに声を掛けて、そのまま彼女を連れ込んだのである。


「必要性は無いよ。俺がこうしたいだけ」


 あの眠り香騒ぎでバタバタしていたツケがたまって、朝から晩まで政務漬けなんだ。このくらいは許してほしい。


 眠りから覚めた直後は痩せこけていた頬もすっかり元に戻って、顔色も良い。彼女の言うとおり、体調は良さそうだ。

 白い首筋に軽くキスをすると、アニエスは恥ずかしそうに「ひゃんっ」と声を上げた。


 はあ、可愛い……。


 おっと。愛らしすぎて下半身が反応した。

 このままでは我慢ができなくなってしまいそう。

 

 後ろ髪を引かれながらもアニエスを膝から降ろし、横へ座らせる。俺は叔父上とは違うんだ。結婚するまで不埒な行為をするつもりはない。


「そういえば、聞きたいことがあったんだ」


 話題を変えつつ、アニエスに気づかれぬよう足を組んでさりげなく股間を隠す。


「香で眠っている間、君はどんな夢を見ていたんだ?いや、言いたくないのなら無理には聞かないが」

「うろ覚えなのですが、フェリクス様との結婚式の夢だったと思います」


 その答えを聞いて俺は内心安堵した。

 少なくとも、俺が嫌で夢へ逃避したわけではなさそうだ。

 しかし結婚式ならば、いずれ現実となる未来ではないか?それが目覚めたくなくなるほど彼女を魅了したというのは少々解せない。


「それが君の願いだったということ?」

「参列者がたくさんいて、その中に両親がいました。ずっと思い出せなかった二人の顔がちゃんと見えたのです。それが嬉しくて」

「そうだったのか……。済まない。余計なことを聞いてしまった」

 

 アニエスの両親は、彼女が幼い頃に火事で亡くなったと聞いた。アニエスはあまり両親のことを覚えていないらしい。

 シャンタル殿が引き取るまでは言葉も話せなくなっていたらしいから、よほど心に傷を負ったのだろう。苦しみから心を守るため無意識に両親を記憶から排除したのではないか、とシャンタル殿が話していた。


 アニエスの痛みは、俺が共有できるものではない。それは経験した者にしか分からない事だからだ。

 俺に出来ることは、これから起こるかもしれない艱難辛苦を分かち合うことだけだ。


「アニエス。これからは辛いことがあれば、遠慮せずに俺へ話してくれ。今も、もちろん結婚してからも。公務で忙しくてなかなか時間は作れないかもしれないけど、きちんと聞くから。共に良い家庭を築こう」

「ありがとうございます。そうですね。結婚したら私たち、家族になるのですものね」


 ふにゃりと笑うアニエスの手を握る。


「そうだとも。それに、二人だけじゃない。すぐに家族が増えるよ」


 あ、しまった。子供を催促しているように聞こえたかもしれない。そういう話題はデリケートだから、細心の注意を払えと母上から言われていたのに。


「はい!私、子供はいっぱい欲しいです!頑張ってたくさん産みますから!」

「……えーと。アニエス、それは意味分かって言ってる?」

「?お産は大変という話でしょうか?」


 うん。全く理解していないな。

 

 どこから説明すればいいのやら……。俺の夢見る結婚生活は、前途多難なようだ。


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