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135. 胸騒ぎ

「シャンタル、こっちだ」


 今日はジェラルドと共に新居の下見に来ている。


 私の屋敷は公爵邸として使うには手狭なので、新たに館を購入することになった。元はブルレック侯爵の屋敷だったらしい。侯爵家は新しい館に移っており、空きとなったこの場所を譲って貰うことになったのだ。

 私は別に狭くても全然構わないが、公爵家としての体面を保つためにはある程度の広さが必要らしい。


 屋敷の前には美しい庭園があるが、裏庭もなかなかの広さだった。ところどころ雑草が生えている。館の中は内見の前に掃除をしてくれたらしいが、裏庭までは手が回らなかったのだろう。

 だけどこの自然な感じが、私にはむしろ好ましかった。


「ここに工房が欲しいな」

「分かった、作らせよう。広さはどのくらい必要なんだ?」

「今の工房と同じくらいかな。研究部屋と仮眠室と……ああ、物置もあると嬉しい」

「ふむ。三部屋だな」


 ジェラルドが側近にメモを取らせる。


「アニエスにも専用の工房が要るのではないのか?」

「ああ、そうだね。後で本人に聞いておくよ」


 目覚めた直後は弱々しかったアニエスだが、一週間ほどですっかり元気になった。流石は10代、ハンパない回復力だ。


 デルーゼへ向かわせた勅使は、国王陛下からの文書を預かって帰ってきた。それに加えてヨランド様やイヴォン殿下、シビーユ様からの手紙もあった。アニエスの体調を気遣い、迷惑をかけたことを丁重に謝罪する文章だった。

 例の香は後宮内でも購入した者がいたようだ。幸い王族の中には被害が出なかったが、使用した側仕え数人が目覚めることなく命を落としたらしい。

 きっと亡くなった側仕えは、自分の望む情景を見ながら死んでいったのだろう。


 自分が見た夢を思い出す。

 あんなものが、私の望みだというのか……?


 嫌な考えを追い払うように、私は首を振った。

 そんなことより、もっと気に掛かることがある。

 

 香を売りつけたマルシャンという商人は現在、行方知れずとなっているそうだ。衛兵たちが彼の店へ踏み込んだところ、すでにもぬけの殻だった。

 亡くなった女性の一人は第17夫人を長年支えていた側仕えで、夫人はショックのため寝込んでいるらしい。デルーゼ王の怒りは相当なもので、マルシャンを見つけ次第、自らの手で八つ裂きにすると言っているそうだ。


 以前の魔石騒ぎの時、マティアス元王子を操っていたと思われる闇商人はマルセルと名乗っていた。


 マルセル……マルシャン。

 偶然なのだろうか。


「シャンタル、どうした?呆けて」

「あ、ああ。済まない。ちょっと考え事をしていたんだ」

 

 ジェラルドは側近を下がらせると、私の顔を両手に挟んでのぞき込んだ。


「心配ごとか?俺に隠さなくていい。話せ」


 私はマルシャンのことが気がかりだと話した。

 もし同一人物だとしたら、奴の狙いは私なのではないか、とも。

 

「デルーゼから持ち帰った人相書きは、以前マティアス元王子から聞き出した人相とは似ても似つかなかった。名前は偶然ではないか?」

「闇精霊術の使い手ならば、姿くらい変えられるよ」

「留意しておこう。あれから闇商人の取り締まりは強化している。親交のある国にも、既に重要犯罪者として通達済みだ。彼奴もすぐには動けないだろう」


 そう答え、彼は私へ微笑みかける。

 

「君には助けられてばかりだった。今度は、俺が助ける番だ。俺が君を守る。だから、シャンタルは俺との未来だけを考えてくれればいい」

「……うん」


 ジェラルドの言う通りだ。今は目の前のことへ集中しよう。

 それに、守られるだけじゃない。

 私はこの国を故郷にすると定めたのだ。今度こそお前も、そしてアニエスも、守ってみせる。


※ これにて第三章完結。次は最終章「魔霊士編」となります。

  このあと幕間を数本上げる予定です。

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