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134. 大切な誰か

「あれ……。私、どうしてここに……」


 眼前に、色とりどりの花が咲き乱れる美しい庭園が広がっている。見覚えがあるような……そうか。王宮の庭園だ。

 庭へ響き渡るようにリーンゴーン、リーンゴーンという鐘の音が鳴った。

 

「アニエス」


 そこにいたのは、礼服を身に纏ったフェリクス様。ふと自分の姿を見ると、真っ白なウェディングドレスを来ていた。

 

 そうだった。今日は私とフェリクス様の結婚式だ。

 私ったら、何をぼうっとしていたのかしら。


「そろそろ時間だよ。行こうか」

「はい」

 

 差し伸べられた手を取って二人で歩いて行く。いつ間にか、たくさんの参列者が集まっていた。

 見知った顔ばかりだ。お師匠様にディアーヌ様、アンナさんにセリアさん、学園の友人たち……。

 その中に、マティアス王子の姿もあった。


「おめでとう、アニエス。幸せそうで良かった」

「ありがとうございます、殿下」

 

 優しく微笑んだ彼のそばに、見知らぬ女性が寄り添っている。

 きっとマティアス様もお幸せなんだわ。こうやって、私のことを祝って下さるくらいに。

 

 拍手の中を歩いていると、二人の男女が目に入った。そのよく見知った背中……懐かしい、その姿。


「お父さん、お母さん!?」

「アニエス。おめでとう」

「二人ともどうしてここに?」

「シャンタル様が呼んで下さったのよ。これから、貴方たちと一緒に住んでも良いのですって」

「本当!?」


 驚く私の肩をフェリクス様が抱いた。


「ああ、本当だよ。俺たちとご両親、シャンタル殿。皆で共に暮らそう」

「ありがとうございます、フェリクス様。私、とっても幸せです」


 ああ、なんて幸せなのだろう。

 夢見心地で彼の腕へ寄り添う私に、誰かの泣き声が聞こえてきた。

 

 誰……?


 周りはみんなニコニコと微笑んでいる。泣いている人はいない。


 でも、何だろう。何だか大切なことを忘れている気がする。

 泣いている、誰か。

 私にとって何よりも大切な……。



「アニエス!?」


 自分の部屋だった。ベッドに寝たままの私をフェリクス様が覗き込んでいる。


 どうして彼が私の部屋に?

 明るいから昼間よね。私、どうしてこんな時間に寝ているのかしら?

 

「えっと、フェリクス様?これはどういう状況で……」


 慌てて起きあがった私を、フェリクス様がいきなり抱きしめる。


「きゃっ」

「アニエス!良かった。本当に良かった……!」


 フェリクス様の瞳から涙が零れていた。

 夢の中で泣いていたのは彼だったのかしら……?

 何だか、ずいぶん幸せな夢を見ていた気がする。


 

 その後は飛んで来たお師匠様に抱きしめられたり、泣き出したアンナさんやセリアさんを宥めたりする一悶着の後、お師匠様が私の身体に異常がないか調べてくれた。

 服を脱ぐのでフェリクス様は外で待機だ。


「見たところ、問題は無さそうだね。どこか調子の悪いところはあるかい?」

「ちょっと目眩がします」


 その途端、お腹がぐうううと大きな音を立てた。

 恥ずかしくて真っ赤になってしまった私を見て、お師匠様が笑う。


「一週間も食べてなかったのだから仕方ないさね。セリア、何か食べる物を用意してくれ。いきなり重い物は身体に負担がかかるから、柔らかい物を頼むよ」

「承知致しました。パン粥をお作りしましょう」


 セリアさんが去っていったあと、お師匠様が私の頭を撫でる。


「済まなかったね。私が不注意だった。……よく夢から出てきてくれた」

「お師匠様も、あのお香を?」

「うん。何というか、あのままずっと眠っていたくなる時間だった。今の生活に不満があるわけじゃないんだけどね」


 お師匠様はそこまで話して黙ってしまった。

 

 不満なんて、私もない。お師匠様も私も、愛する人との結婚を控えた一番幸せな時期だと思う。だけど、新生活に対する不安はどこかにある。

 その隙を、魔霊術に突かれたのではないだろうか。


 私がそう話すと、お師匠様は「そうだね。きっとその通りだ」と微笑んだ。その笑みがどこか固い感じだったのは、私の気のせいだろうか。


シャンタルの夢にフェリクスが、アニエスの夢にジェラルドが出てこないのは、それぞれ心の奥底で「大切な家族を奪っていく相手」と認識しているからです。だからといって嫌っているわけではなく、シャンタルはフェリクスを可愛がっていますし、アニエスはジェラルドを敬愛しています。心とは裏腹なものなのです。

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