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127. 駒鳥は二度笑う

「昨夜、陛下がお倒れになった。飲み物に毒が混入されていたのだ。貴様らの仕業であろう!」


 謁見の間の中央に、陛下に変わって座るのは王太子殿下。その目の前には、衛兵が引きずってきたラングラルの一行がいる。


「私たちが軟禁されていたことは、ヤン大臣もご存じのはず。そのようなこと、出来るはずがありません」

「薬屋の店主が、赤い髪の女が毒薬を買いに来たと証言した。言い逃れはできんぞ」

「変装すりゃあ赤い髪くらい、誰でもなれるだろう!だいたい、私なら毒薬なんか買いに行かない。必要なら自分で作るさ」


 アニエスの後ろにいる赤毛の女が騒いだ。

 シャンタルといったか。あの女が派手な容姿をしていたのは幸いだった。サロメだけに任せていては心配だからな。二重に罠を仕掛けていたのは正解だった。


「現在、お前たちの部屋を調べさせている。もし毒瓶が見つかったら、即刻縛り首だ!」

「ふん!そんなの、見つかるもんか」


 先日の暗殺未遂に使った毒は、致死性の低いものだ。役に立たなかったという理由で毒味役はクビにした。今いる毒味役は、私の息のかかった者ばかりだ。

 夕食の際、陛下には毒見を終えたものとすり替えた皿を渡すよう、毒味役に指示を出した。勿論、その皿には致死量の毒が入っている。


 目論見通りに陛下はそれを口にした。今は昏睡状態になっているらしい。女子供なら即死だったろうが、頑強なお身体が仇となったな。

 いっそすぐに死んでいた方が楽だったろうに。


 あとはサロメが指示通り、連中の荷物へ瓶を忍び込ませれば終わりだ。あいつらに全ての罪を被せられる。相手は力の弱い小国だ。諍いになったとて、油石の輸出を止めると脅せば黙るだろう。


「お待ちなさい、ヤン」


 密かにほくそ笑んでいたところに現れたのは、エドヴィージュ夫人とヨランド夫人だ。

 そういえば、アニエスは夫人たちに取り入っていたのだったな。彼女たちに泣きついたのか?面倒な……。


「これはエドヴィージュ様、ヨランド様。申し訳ございませんが、今は厳正な裁判の途中です。女性は立ち入らないで頂けませんか」

「厳正?彼らに罪を着せようとした貴方が、それを言うの?」

「異なことを申される。いくら陛下のご側室とて、大臣たるこの私を侮辱するのは如何なものか」

「貴方の娘が全て教えてくれたわよ」


 そう言いながらヨランド様がつきだしてきたのは、サロメだった。

 あのバカ娘……一度ならず二度までも失敗した上に、捕まったのか!

 なんと役に立たない娘だ。

 これなら、衛兵に金を握らせて頼んだ方が良かったか。後でそいつを始末しなければならないのも面倒だと思って、娘にやらせたのが裏目に出た。


 いや、そんなことを考えている場合ではない。今はこの場を切り抜けなければ。


「お二人とも、落ち着いて下さい。その娘は親の気を引こうと嘘ばかり言うのです。年端もいかぬ娘と、長年国に尽くしてきたこの私。どちらの言い分に信憑性があるか、お分かりでしょう?」

「では、この娘の所持していた毒と同じものが、余の食事に混入していたことはどう説明を付けるのだ?」


 背後から響く低い声。

 まさか……。

 振り向くと、そこに陛下が立っていた。その威圧するような覇気に身がすくむ。


「へ、陛下!?なぜ……昏睡状態であったはずでは」

「確かに昏睡状態ではあった。毒のせいではなく、シャンタルの術のおかげだがな」

「うまくいったねえ」


 不敵な笑みを浮かべたシャンタルがそう言いやがった。


「ヨランドから相談された余は、罠返しを仕掛けることにしたのだ。毒を飲んだふりをして、シャンタルに意識を失う術とやらを掛けさせた。どこにお前の味方がいるか分からん。医師をも騙す必要があった」

「陛下。恐れながら、これは私を陥れようとする罠です。どうか信じて下さい!」

「毒味役を捕らえて尋問済みだ。これ以上、往生際の悪い姿で余を失望させるな」


 陛下が冷たく言い放つ。

 政敵を狡猾に、そして苛烈なまでに葬ってきた方だ。もう逃れられない。

 俺はがくりと膝をついた。


「一つだけ、聞こう。なぜこのようなことをした」

「……っ!貴方が、俺よりもエヴラルなどを重用するからだ!我が家は長年アシャール家に仕えてきた。俺だって、貴方が王子だった頃から尽くしてきた。なのに、身分の低い者どもに高い位を与えて……」

「ヤンよ。そなたにそのような思いを抱かせてしまったのは、余の不徳の致すところであろう。だが……少なくとも余は、一度たりともそなたの忠節を疑ったことはない」


 俺はハッとした。

 

 そうだ。幼い貴方は、自分がいずれこの国を平らかにするのだと熱い目で語っていた。俺もこの方ならばと思ってついてきたのだ。

 俺は、どこで……どこで間違った。


 陛下の指示で衛兵たちが俺の腕を掴む。そのまま、俺の身体は謁見の間から引きずり出されていった。


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