幕間2. 何もできない僕
「父上!まだアニエスたちの疑いは晴れないの?」
「調べは進めている。口出しをするでない、イヴォン」
僕は陛下に何度か目の直談判をしたけれど、返ってくる回答は同じだった。
ずっと部屋に閉じこめられてるなんて、彼女が可哀想だ。せっかくデルーゼの良さを知って貰おうと招待したのに、却って嫌な思いをさせてしまうなんて。
「殿下、取り調べはこのヤンめが承っております。ご心配なさらず」
ふんぞり返ったヤン大臣が口を挟んだ。ヤンは代々、我がアシャール家へ仕えている名家の出身で、父上が国王に即位する前はお祖父様へ仕えていたらしい。
優秀なやつには違いないのだけれど、ちょっと頭が固いんだよなあ。
父上の側室や、僕を含めた王子たちの妻として娘を何人も差し出している件もそうだ。自分の孫を王位につけて、実権を握ろうと目論んでいる。
昔はそういうやり方もあったらしいけれど、父上はどちらかというと実力主義な考えの持ち主だ。エヴラル宰相のような下位貴族の出身者もどんどん重臣として取り立てている。
ヤンのことだ。アニエスたちのことも、余所者だから怪しいと単純に決めつけているに違いない。
「そう言って、もう一週間も経つじゃないか」
「ことは陛下の暗殺未遂ですから。じっくり調べねば」
「アニエスは刺客から僕を助けてくれたんだぞ!恩人にこんな扱いをするのは、アシャールの流儀じゃない」
「それも怪しいですな。殿下へ近づくために、刺客と共謀していたやもしれませぬ」
そんなバカな……。
だけど父上もエヴラル宰相も、黙っている。もしかして、みなそう思ってるのだろうか?
「殿下。毛色の変わった女が珍しいのは分かりますが、あなたはこのデルーゼの王族なのです。むやみに余所者へ肩入れするのは良くないですな。そのような暇があるのでしたら、婚約者を可愛がっては如何ですか?うちの娘も寂しがっておりましたぞ」
「……もういいよ!」
その偉そうな言い方に腹が立って、僕はその場を後にした。
かなりマズい状況だ。
シャンタルが咄嗟にあの毒入りの瓶を回収していなければ、即座に罪が確定していたかもしれない。
母上はアニエスたちの部屋へ出入りする使用人の中に、手の者を潜り込ませた。妙な動きをする奴がいれば捕まるだろう。
僕はといえば、これ以上出来ることが無い。こうやって手をこまねいて見ているしかないのか……。
思わず頭を掻きむしる。ヤンに対する怒りなのか、不甲斐ない自分に対する怒りなのか分からない。
「イヴォン様」
「……なんだ、シビーユ」
いつの間にか、婚約者のシビーユが背後にいた。
「アニエス様のお味方を増やすべく、私も父に働き掛けております。ユルシュやサロメも……。どうか、あまり自暴自棄になられぬよう」
「分かってる」
僕は深く息を吸い込み、頬を両手でぱあんと叩いた。
このくらいで腐ってしまうなんて、僕らしくもない。
僕だって、”英傑王”サヴィエ・アシャールの息子なんだ。出来ることが無いんじゃない。探すんだ。
「シビーユ、君の父上に会いたい。僕からも話をしたいんだ」
「……!はい、すぐに!」
シビーユは張り切って、父親である大臣の元へ僕を案内した。
それにしても、アニエスはいつの間に僕の婚約者たちとも仲良くなったんだろう。
他の妻とも円滑な人間関係を築くのは、王族の妃に必要な資質だ。やっぱり彼女は、僕の妃にふさわしい。
別作品ですが書籍化の作業のため、しばらく更新は週一ペースになります。
更新再開は4月末の予定です。




