表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/166

14. アルブの森 ◇

 翌朝早く、私はアルブの森へ向かった。フェリクス殿下やパトリック様、ロベール様も一緒だ。


 アルブは王都のすぐ近くにあり、草が青々と生い茂る豊かな森だった。東の端寄りには小さい川も流れている。

 危険度は低いが魔物が出没するため、一般人はあまり近寄らないそうだ。そのおかげで人の手が入らず、これだけの植物が残っているのだろう。

 ここなら色んな薬草が採れそうで、考えただけでわくわくする。だけど、今は国王陛下のご病気を治すことが先決だ。


「ヴァベイネはこんな感じの、紫の花で細長い葉の草です」

「この広さの中から見つけだすのは、厳しくないですか?」


 うへぇという顔をするパトリック様を、ロベールが文句を言うな、とはたいた。

 でもパトリック様の嘆きも分かる。これだけの種類の雑草から、目的のものを探すのはかなり困難だ。


「乾燥に弱い草だから、水場の近くにあると思うのですが……」

「分かった。川沿いを中心に、手分けして探そう」


 川岸の草をかき分けながら、四人で上流へ向かう。

 だけど背の高い雑草に阻まれてなかなか進まない。

 

「アニエス殿、これじゃないですか?」

「よく似てるけど、葉の形が違いますね」

「これもダメかー」

 

 皆さんこれは、という草を持ってきてくれるが、どれもヴァベイネではなかった。

 本当にあるのだろうか……。そんな不安に襲われるが、弱気になっている場合じゃない。

 何としても、今日中に見つけるのよ。


「そのヴァベイネという薬草を使った薬が、精霊病に効くのか?」

「精霊病だけに効くというわけではないんですが。ヴァベイネの薬には、異層との繋がりを断つ効能があるんです。えーと、今の陛下は、精霊に印付け(マーキング)された状態だから」

「匂い消しみたいなものか」

 

 そんなことを話していたからだろう。

 周囲に対する警戒が薄れていた。

 キュッという動物の鳴き声が聞こえ、殿下が素早く反応する。


「きゃっ!」


 私に飛びかかってきた何かを、殿下がとっさに剣の柄で払った。

 魔獣だ。

 毛を逆立たて、シャーッと唸りながらこちらを睨みつけている。


「ダナリンクスだ。アニエス殿、下がって!」


 ダナリンクスは鋭い歯を持っている魔獣だ。身体は小さいけど気が荒い。うっかり彼らの縄張りに迷い込み、噛まれて怪我をした者もいると聞く。

 

 騒ぎを聞きつけたロベール様とパトリック様が駆け寄ってきた。私たちを庇うように立ち、剣を抜く。

 周囲には十匹近いダナリンクスがいた。

 おそらく、もっと前から潜んでいたのだろう。彼らと違って嗅覚も聴覚も鈍い私たちが、気付かなかっただけだ。


「囲まれましたね」

「俺たちで何とか退路を確保する。アニエス殿は、その隙に避難を」

「大丈夫ですよ」


 私は右手を上にあげ、風の精霊を呼び出す。

 小さな球の形に風を凝縮させていく。そして、それを一気に解放した。

 

風の喧騒(ヴァン・ノイズ)!」

 

 爆音が響いた。

 

 耳がきーんとなり、何も聞こえなくなる。

 しまった。術を使う前に、耳を覆うよう皆さんに注意しとくんだった。

 ようやく耳が聞こえるようになった頃には、ダナリンクスたちの姿は見えなくなっていた。


「ごめんなさい!耳は大丈夫ですか」

「ああ。今のは精霊術による攻撃魔法か?」

「いいえ、大きい音を出すだけなんです。ダナリンクスは音が苦手だから」

「また襲われたりしないですかね」

「しばらくは怯えて近寄らないと思います」


 私たちは周囲に注意しながら、また薬草探しに没頭した。

 そうして数時間経った頃だろうか。


「アニエス殿、これではないか?」


 ロベール殿の持ってきて下さった草が当たりだった。

 良かった。見つからなければ、夜通し探すことも覚悟していたから。


「どのくらい必要だ?」

「念のため、二十束ほど。根は抜かず、土の上から切り取るようにお願いします」

「根は必要ないのか」

「ええ。それに、今後も必要になるかもしれないでしょう?根を残しておけば、また生えてくるから」

 

 薬草を持って王宮へ帰った頃には、夕刻になっていた。


 少し休んだらとフェリクス殿下は気遣って下さったが、お師匠様は陛下につきっきりで回復魔法をかけ続けているのだ。私だけ安穏と休むわけにはいかない。

 私は夕食を取った後、すぐに調合へ取り掛かることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ