124. 取り調べ
軟禁が決まった私たちは、王宮の一室に押し込められた。
疑惑が解けるまではこの状態なのだ。地下牢に入れられなかっただけでも、有り難いのかもしれない。
寝込んでいたジュディットに事情を説明すると、彼女は弱々しく起き上がった。
「念のため……全員の持ち物を調べて下さい……」
「何で?」
「犯人が私たちへ罪を被せようとするなら……ケホッ。証拠になりそうなものをこの部屋へ仕込む可能性が……」
まさか、と思いつつ手持ちのバッグや服のポケット、部屋の引き出しやベッドの裏まで調べてみる。勿論、護衛騎士たちの手荷物もだ。
「あ!」
アニエスが声を挙げた。その手に小さなガラス瓶がある。瓶の中には、少し青みの付いた透明な液体が入っていた。
「私のバッグにこれが」
「入れた覚えはないんだね?」
「はい」
布にくるまれていたために他の物とぶつかっても音がせず、紛れ込んでいることに気付かなかったらしい。
そこまで話したとき、外から「入るぞ!」という声がした。
まずい。
私は精霊術で亜空間にある収納の入り口を開き、ガラス瓶をそこへ放り込んだ。亜空間を閉じるとほぼ同時に、衛兵たちが入ってくる。
ふう、間一髪。持ってて良かった闇属性。
「陛下から取り調べを承ったヤン・スーリエだ。部屋の中を調べさせて貰う。全員、その場で手を挙げて立て!」
衛兵を率いていたのは、さきほど私たちを罵倒した年輩の重臣だった。偉そうに指図されるのは腹が立つが、ここは大人しく従うことにする。
彼らは私たちの荷物やベッド、絨毯までひっくり返して調べていたが、勿論何も出てこなかった。衛兵の報告を聞いたヤンがひどく悔しそうな表情をする。
「そんなはずは……。そうだ、服の中に隠しているのかもしれん!服を脱がせろ」
「何だと!!」
それを聞いた護衛騎士たちが一斉に気色ばんで、私たちを庇うように前へ立った。全員、剣の柄に手をかけている。
「私たちはともかく、アニエス様とシャンタル様に対してそのように屈辱的な行為を許すわけにはいかない」
「ふん、逆らうのか。ならば、何かを隠し持っていると判断されても良いのだな?」
ここぞとばかりに責め立ててくるヤン大臣の後ろで、衛兵たちがニタニタと助平な笑みを浮かべている。
あー、あのニヤニヤ面を張り倒してやりたい。
「さあどうする?拒否するのならそれでも構わんぞ。こちらは犯人を捜す手間が省けて良いがね」
「くっ……」
膠着状態となったところで、「それでは私が詮議しましょう」という声が響いた。
現れたのはデルーゼ王の第一夫人、エドヴィージュ様だった。背後には側仕えを多数引き連れている。
「なりません。きゃつらの詮議はこのヤンが一任されておりますゆえ」
「彼女たちはラングラル王が遣わした、正式な国使なのですよ。もし濡れ衣であった場合、我が国は招待した他国の要人に対して無礼を働く蛮族と誹られるでしょう。ヤン、そうなれば当然、あなたの責任も問われるでしょうね」
「そ、それは……」
「女性については私が責任を持って調べますから、安心なさい」
そういうわけで私とアニエス、ニコル、ナタリーの四人は後宮にあるエドヴィージュ様の部屋へ連れて行かれた。
エドヴィージュ様の側仕えたちに服を脱がされる。ここには女性しかいないし、裸を見られるのに抵抗はない。
とはいえ、人前で裸にされたなんて聞いたらジェラルドは憤慨しそうだなあ。奴には黙っておこう。
「恥ずかしい思いをさせてごめんなさいね。ああ言った以上、一応は調べなければいけないから」
「大丈夫ですよ、こちらは何もやましいことはありませんので。何なら尻の穴まで調べて頂いても構いません」
私は素っ裸のまま胸を張って、ぶるんぶるんと双丘を揺らしながら答えた。ニコルとナタリーも自ら服を脱ぎ、スレンダーな裸体を晒している。アニエスだけは恥ずかしそうに前を隠していた。
エドヴィージュ様は「面白い方ね」と上品に笑う。
「陛下も、本当にあなた方を疑っているわけではないの。ただ、一部の重臣がうるさくて」
「人は見知らぬものに恐怖を抱くものです。我々は余所者ですから、仕方ないですよ」
「私はむしろあなた達に興味がありますけどね。いただいた化粧水、とても具合が良かったわ。……その、あれは身体に使っても良いのかしら?」
夫人がちらりと私の身体を見た。ああ、そういうことね。
ご婦人方の美容に対する探究心は底が無いのだ。
「身体の方はまた別のものを使っております。よろしければ、一瓶お分けしましょうか」
「まあ、是非お願いするわ。私からも陛下にはよく言っておきますからね、嫌疑はそのうち晴れるでしょう。なるべく不便の無いようにさせますから、どうか不用意な行動はしないようにお願いね」




