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118. 晩餐会

 謁見の後、私たちは晩餐会へ参加していた。

 

 やたらと長いテーブルの上座にはデルーゼ王と二人の女性、イヴォン殿下が座っている。下座は私たちだ。そしてもう一人、さきほど謁見の間にいた男性が王族から一段下がったところにいる。


 男性は宰相のエヴラル、女性は第一夫人エドヴィージュ及び第三夫人ヨランドと名乗った。


「我が王家の者を救って下さったこと、重ね重ね御礼を申し上げますわ」

「ゼナイドとイヴォンを助けて頂いて本当に感謝しております」


 エドヴィージュ様に続いて、ヨランド様が口上を述べた。

 ヨランド様は、ゼナイド姫とイヴォン王子の実母だ。本当は母親として一番に礼を述べたかったのだろうが、第一夫人の顔を立てたというところか。


 机にはぴかぴかに磨かれた銀の皿に、これでもかというくらい料理が盛られている。根菜が多いのは水の少ない砂漠地域ゆえだろう。

 スパイスの効いた肉料理が美味しくて、酒が進む。


「ラングラルはどんな所ですの?」

「山間地域なので、こちらよりはだいぶ涼しいです。国土はあまり広くありませんが、先々代の国王陛下が農地改革に取り組まれた結果、食材は豊富に採れます。特に果物は近隣諸国でも品質が高いと評判です。ラングラル産の葡萄を使ったワインもお持ちしましたので、是非味わって頂ければと」


 アニエスはエドヴィージュ様とにこやかに会話していた。

 献上品として持参したラングラルの特産品について、入念に考えてきたらしい文言をよどみなく喋っている。頑張ってるなあ。

 なるべく口出しせず、見守ることにしよう。


「ふむ。これか」


 側仕えに命じて継がせたワインをデルーゼ王が口にする。


「悪くはないが……フォラントのワインの方が好みであるな」

「ワインを特産とする国は多い。特筆すべき品質とは思いませんね」

 

 エヴラル宰相が王に追従するように所感を述べた。

 さっきから見ていたが、眉一つ動かさない無表情な男だ。宴会に向かない人材だと思う。


「お口に合いませんでしたか。失礼致しました。他の特産品として、ミスリルと近年鉱脈の見つかった土の精霊石も持参しております。よろしければそちらもご検分下さいませ」

「ミスリルや精霊石ならば、ヴェルテから高品質なものを輸入しております。遠くラングラルからわざわざ運搬費用をかけてまで買い付ける必要がありますかな?」


 終始にこやかに接しているアニエスに対して、宰相は辛口だ。

 悪くなった雰囲気を変えようとしたのか、イヴォン殿下が横から口を挟む。


「そんなことよりさ、アニエスは小精霊士(スート・マスター)になったんでしょ?」

「はい、おかげさまで」

「凄いね!デルーゼでも小精霊士(スート・マスター)はいないよ」

「ラングラルは精霊信仰に力を入れていないと聞いておったが。精霊士の人数は多いのか?」

「最近では移住してくる精霊士も増えておりますが。まだまだ少ないのが実状です、陛下」

「それならうちの国に来ればいいじゃない。王宮にも精霊士がたくさんいるけど、小精霊士(スート・マスター)ならきっと大歓迎されるよ!」


 とんでもない提案をするイヴォン殿下だが、父王もそれに頷いている。


 なるほど。

 興味があるのは精霊士としての私たちであって、ラングラルとの取引に応じる気はないということだろう。

 それなら宰相の失礼な態度にも、得心がいく。


「大変ありがたい申し出ですが、私はラングラルの第二王子妃となる予定ですので」

「ならば、シャンタルはどうなのだ?大精霊士(アルカナ・マスター)たるそなたであれば、最高の待遇を保証するが」

「申し訳ございません。私も、ラングラルの王弟と婚約してる身でして」

「……そうか。残念だ」

「ほほう。ラングラル王はよほど精霊士を確保したいと見える。息子どころか弟まで差し出すとは……。まあ国力の弱い国ならば、それくらいしか出来ないのでしょうな」


 宰相の物言いにカチンと来てしまった。

 こちらを見下す態度を隠そうともしない。言い返してやろうとした私を、アニエスがそっと押しとどめた。


「エヴラル様。ラングラルの国王陛下は、私が精霊士試験に合格するまでフェリクス王子との婚約を保留にしておられました。それは、私がいることでお師匠様がラングラルへ縛られることが無いようにとの配慮です。陛下の誠実さを、私はとても尊敬しております」

「誠実が国王に必要な資質とは思わん」


 穏やかに、しかしきっぱりと答えるアニエス。それに対してデルーゼ王が反論を唱えた。

 

「勿論、執政者として狡猾さや苛烈さも陛下は持ち合わせておられます。ただ、私はラングラルの一番の長所は、柔軟さだと考えております」

「柔軟さ?」

「はい。現ラングラル王は精霊信仰を積極的に取り入れようとしておられます。先々代陛下の農地改革もしかり。より良いもの、新しいものには柔軟に対応する、それは大国には無い長所だと思っております。そして、その性質は特産品にも現れております。お持ちしましたミスリルと精霊石は、確かにヴェルデのものよりは品質が劣るかもしれません。しかし、特筆すべきはその柔らかさです」


 朗々と語るアニエスに、誰も口を挟まない。

 陛下は勿論、二人の夫人も彼女の言葉に耳を傾けている。


「柔らかいということは、加工に向くということです。デルーゼで一般的に使用されている剣は、湾曲した形状をしているとお聞きしました。我が国の鉱石はそれに適していると思われませんか?」

「詭弁に聞こえますな」

「……エヴラル。献上品のミスリルと精霊石を御用鍛冶師に渡して調べさせろ。その上で、彼女の言が正しければ販路の拡大を考えても良い」

「仰せのままに、陛下」


 宰相は相変わらず感情の読めない顔で答えた。


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