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114. 御前試合(2)

「前の奴と共謀しているな、あれは」


 ナタリーの試合を観戦していたジェラルドが呟いた。イアサンとかいう対戦相手は、執拗に彼女の傷を狙っている。

 前の対戦相手は試合が終わったにも関わらず彼女を攻撃したため、謹慎処分になるらしい。処罰を受けると分かっていながら、イアサンが狙いやすい位置へと傷を付けたのだろう、とジェラルドは語った。

 

「何だってそんなことを」

「おおかた、あのナタリーとかいう娘への嫌がらせだろう。試合での足の引っ張り合いは、嘆かわしいが良くあることだ」

「王宮騎士にもそんな性根の腐った奴がいるんだな」

「騎士といえど、人間の集団ということだ。もっとも、そんな心根の者には王族や要人の護衛は任せられない。我々が接する機会がないのは当然だ」


 ああ、そうか。

 私が見知っている騎士はみな真面目な人間ばかりだが、それは上澄みだったのだ。下には下がいるというわけか。


 ジェラルドの説明に、一応は納得した。

 だが私の弟子はそこまで冷徹になれなかったようだ。


「そんな……!試合を止めさせて下さい、フェリクス様」

「そうだな。これは公正な試合ではない」

「止めるんだ、二人とも」


 試合を中止させようと立ち上がりかけたフェリクス殿下とアニエスを、ジェラルドが制した。


「騎士の試合に怪我は付き物だ。それを理由に中止すれば、ナタリーが不戦敗になる可能性が高い。それは、彼女のここまでの奮闘を無駄にすることではないか?」

「でもっ……」

「殿下の仰るとおりです」


 背後に控えていたロベールが進み出る。


「妹へのご心配、大変傷み入ります。ですが、これはナタリーが自らの力ではね除けねばならない試練なのです。そもそも、この程度の障害に屈しているようでは護衛騎士など務まりません。どうかこのままお見守りを」


 腰を浮かしかけたフェリクス殿下が椅子に座り直した。納得できないという表情のままで。

 ロベールの言が正しいのは分かっていても、感情が収まらないのだろう。


 観衆から悲鳴のような声が上がり、私は舞台の方へ視線を移した。

 避けきれなかったのか、ナタリーの左腕が少し斬られている。徐々に舞台の端へと追い込まれていく様子は、どう見ても彼女の劣勢だ。


 私だって納得はいってない。

 もしナタリーが負けたら、あのイアサンとかいう奴にこっそり嫌がらせしてやろっと。しばらく闇精霊を付きまとわせて、眠れなくしてやるのもいいな。


 ナタリーはもう、舞台の端ぎりぎりの位置まで追いつめられている。

 それを見ていたアニエスが突然、椅子から立ち上がって叫んだ。


「ナタリー!頑張って!!」


 彼女にその声が届いたかどうかは分からない。だがナタリーは剣を持ち直すと、イアサンへ突っ込んでいった。

 

 イアサンが右手を横ざまに払う。

 だがナタリーはくるりと回転し、紙一重で攻撃を避けた。そのまま、手にした剣で相手を斬りつける。


「ぐぁっ!」


 右手を斬られたイアサンが剣を落とした。

 そこからポタポタと血が地面へと落ちている。利き手をやられたのだ。もう試合は続行できないだろう。


 審判が高らかにナタリーの勝利を告げ、観衆から一斉に歓声が上がった。

 ロベールがふうとため息をつく。アニエスはといえば、フェリクス殿下と手を取り合って喜んでいる。


 きゃっきゃとしている姿が微笑ましい。が、王妃様にじろりと睨まれ、二人とも慌てて手を離した。

 うん。人前で、しかも母親の前でイチャつくのはやめとこうな。


 結局ナタリーは決勝戦で敗退し、準優勝となった。

 だが剣の腕前は勿論、困難に負けず立ち向かう精神の強さを見せた彼女は陛下のお眼鏡にかなったようで、無事にアニエスの護衛騎士へ決定した。

 

 ちなみにイアサンやその仲間たちは、策を弄したにも関わらず無様に負けた騎士として後ろ指を指され、家名に泥を塗ったと勘当されそうになっているらしい。


 あの後、アニエスはちょっとだけ王妃様に怒られた。


「気持ちは分かりますが、王族が誰か一人に肩入れするような姿を見せてはなりません。公正な試合を望むなら、尚更よ」


 彼女が立ち上がって叫んだ時、数匹の光精霊がナタリーへ向かって飛んでいったことは黙っていた方が良さそうだ。


 アニエスが意図してやったことではない。精霊たちが、彼女の望みを叶えようとしただけだ。

 それにあの数なら大した影響はなかっただろう。せいぜい、ほんの少しナタリーに強化(バフ)がかかった程度。

 勝利を得られたのは、あの元気な女騎士の実力と研鑽の賜物なのだから。


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