表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/166

111. 挑発 ◇

「ニコル先輩!」


 騎士の詰め所へ戻った私は、先輩騎士の姿を見つけて駆け寄った。

 ニコル先輩は私より四歳上で、剣の腕も立ち居振る舞いも完璧な騎士だ。私も、早く先輩のように立派な女性騎士になりたい。


「やあ、ナタリー。もうすぐ御前試合だな。修練は頑張っているか?」

「はいっ!絶対に、アニエス様の護衛騎士に選ばれてみせます」

「その意気だ。期待しているよ」

「あ~あ、女はいいよなあ。同性ってだけで護衛騎士に選ばれるんだからさあ」


 横から厭味を投げてきたのは、同い年の騎士、イアサン・コデルエだ。

 イアサンと共にいる男性騎士数人も「そうだよな、女は得だよな」なんて同調している。


 この男、なぜか私にだけ当たりが強い。事あるごとに厭味をぶつけてくるのだ。


 コデルエ家は我がアルシェ家と同じく騎士の家系で、うちと同じくイアサンの父や兄も騎士団に勤めている。話によると、彼の家には珍しい剣術が伝わっているらしい。

 イアサンはそれを笠に着て、いっつも偉そうにしている。

 

 彼が本当に強い騎士であるなら、いい。物言いには腹が立つが、戦士のはしくれとして強者には従う。

 だがイアサンはいつも仲間たちとつるんで、修練もろくにやっていないのだ。そんな奴に見下される謂われはない。


「イアサン。我が騎士団は女性だからと言って、優遇するような事はない。それに、女性王族の護衛は男性騎士と女性騎士から一人ずつ選ばれる。ナタリーの出世が不満なら、君も護衛騎士を目指せばいいだろう」

「べっっつに、俺はアニエス様の護衛騎士なんてやりたくないですし~」


 イアサンは二コル先輩に対しても舐めきった態度で答えた。


 理由は明白である。女というだけで下に見ているのだ。

 勿論、同輩たちはこんな奴らばかりではない。むしろまともな騎士の方が多く、このようにふざけた態度を取るのはイアサンとその仲間たちだけだ。


「先輩、イアサンは修練をさぼってばかりだから、選ばれる自信がないんですよ」

「はん。我が家は代々王宮騎士を勤めるコデルエ家だぞ。相手は平民上がりの妃じゃないか。どんな手を使ってフェリクス殿下を籠絡したのか知らないが、そんな悪女のお守りなんかこっちから御免だね。ま、アルシェ家くらいの家柄ならそれがお似合いか!」


 ゲラゲラと笑い出すイアサン。

 

「貴様、私はともかくアニエス様を愚弄するか!」


 あのお優しく可憐なアニエス様が、悪女であろう筈がない。

 何より、フェリクス殿下とアニエス様を貶める発言が許せない。


 怒りが収まらず剣に手をかけた私を、ニコル先輩が「やめろ!騎士同士の私闘は御法度だ」と押し留める。


「おそらく奴らの狙いはお前に不祥事を起こさせ、護衛騎士に着けなくすることだ。挑発に乗るな」


 先輩が私の耳元で囁いた。

 剣から手を下ろし、大きく息を吐いて気を落ち着かせる。

 だが私が何も言い返さないのを見て調子づいたのか、イアサンはさらに煽ってきた。


「お前みたいに色気のかけらも無い女、嫁の貰い手もないだろう。そうやって平民の妃に媚びへつらって、護衛騎士へ雇ってもらうしか先はないよなあ」

「お前たち、その言葉はアニエス様への不敬に当たる。団長へ報告するぞ」

「え~。俺たち、なんか言ったっけ?」

「さあ?何も聞いてないなあ~」


 ニコル先輩に叱られても、奴らはニヤニヤ顔で答えるだけだ。団長に言いつけたところで、あちらは5人。とぼけられたら、証人の少ない私たちの方が不利になる。


「ニコル先輩だって、他人事じゃないでしょ。元婚約者の……ベルトン伯爵令息でしたっけ?今度、二人目が産まれるらしいですよ。早く新しい嫁ぎ先を探した方がいいんじゃないですかぁ~?」


 アニエス様のみならずニコル先輩まで愚弄され、怒りで頭が沸騰しそうになる。


「イアサン!その発言は見過ごせない。お前に勝負を申し込む!」

「ナタリー。私は大丈夫だから落ち着きなさい」

「私闘は禁止だってニコル先輩も言ってたじゃん。騎士を辞める気か?まあ、お前がどうなろうが俺は構わないけどね」

「私闘でなければいいんだろう。御前試合で私がお前に勝ったら、その発言、訂正してもらうぞ」

「じゃあお前が負けたら、護衛騎士は辞退するよな?」


 勝負と言うからには、こちらも何かを掛ける必要はある。護衛騎士、いや私の騎士生命を掛けても、こいつに思い知らせてやりたい。

 私は大きく「ああ」と頷いた。


「今の言葉、お前たちも聞いたよな!」

「おう!確かに聞いたぜ」

「俺たちがちゃあんと見届けてやるからな。後で泣き言を言っても訂正はきかないぞ、ナタリー」


 イアサンの仲間たちがやんややんやと喝采を挙げながら野次を飛ばした。


 


「忠告したのに、こうも易々と挑発に乗るとは……」

「申し訳ありません。でも、あいつらニコル先輩のことまで侮辱したから」

「私は気にしていない。常に冷静でなければ、護衛騎士など務まらないぞ」


 ニコル先輩に叱られ、私はしょんぼりとうなだれた。

 兄にはよくお前は単純過ぎると言われるけれど。本当に単純バカだ、私は。


「こうなったからには仕方ない。私が見たところ、剣の腕はイアサンよりお前の方が上だ。陛下の御前であいつを叩きのめしてやれ!」

「はいっ!!」


 なんだかんだ言って、ニコル先輩も熱い人なのだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ