12. 国王陛下の病状
使いの先導で、私とアニエスは国王陛下の寝室へ急いだ。
寝室にはフェリクス殿下と、年老いた侍従が一人。そして、寝台に横たわる陛下がいた。
それよりも驚いたのは、室内を飛び回る精霊たちの姿だった。数十匹はいるだろうか。
「かなりの数の精霊だ。土に……水や風精霊もいるな」
「水と風精霊は私にも見えますが、土精霊もいるのですね。そんなに数が多いのですか?」
「ああ、ほとんどが土精霊だ」
土属性のないアニエスには見えないのだ。
彼女曰く、気配ぐらいは感じられるらしい。全属性を持つ私には分からない感覚だ。
精霊が全く見えない殿下や侍従に至っては、あさっての方向を見回している。
「本当にいるのか?」
「ああ。特に、陛下のそばに集まっている。精霊病に間違いない。この数に囲まれては、ほとんど眠ることもできなかっただろう。……近くに寄っていいか」
「もちろんだ」
私は寝台に近寄り、陛下の顔をのぞき込んだ。
五十台前半と聞いていたが、頬がこけ、白髪が目立つ姿は老人のようだ。疲労と睡眠不足によるものだろう。こうなるまでに、かなりの負担に耐えていたことが推測される。
我慢強い方なのかもしれないな。
私は寝台から離れると、右手を突き出した。その先に、六芒星が浮かび上がる。
「開け」
六芒星の中心がずずっとへこみ、黒い穴が出現した。収納魔法の入り口だ。
私は無造作に穴へ手を突っ込んで、片っ端から荷物を取り出した。
「アニエス!」
「は、はい。お師匠様」
バサバサと床に積まれる荷物を呆然と眺めていたアニエスが、慌てて返事をする。
「ここから調合道具を拾って、ヴァベイネの薬を作ってくれ。できるな?」
「……分かりました!」
元気よく返事をしたアニエスに頷く。何度か作らせたことのある薬だ。問題ないだろう。
「殿下、すまないがアニエスに助力を頼む。調合ができる部屋の用意と、あとは材料の調達も必要だ」
「分かった。後は任せてくれ」
「それと、そこの侍従さん」
私は荷物の山から小袋を引っ張り出した。
「香炉はあるか?これは精霊除けのお香だ。陛下の枕元で欠かさず炊いて欲しい」
「すぐに手配致します」
バタバタと去っていく侍従を見送り、私は陛下の側に座った。
「私はこれから、陛下に回復魔法をかける。まずは衰弱した身体を何とかしないと、お命にかかわるからな」




