幕間6.2 閨教育~本番
「フェリクス、次の休日は空いているな?少し付き合え」と半ば強引に誘われた俺は、叔父上と共に外出した。
俺たちの乗った馬車は王都の繁華街をゆっくりと抜け、裏道に入っていく。どこへ行くのかと聞いても叔父上は答えてくれない。
確か、この辺りは色街じゃなかったか……?
「着いたぞ」
降りた先は、この周辺には不似合いなほど立派な建物だった。ここが色街でも最高級と言われる娼館であることくらいは、俺でも知っている。
馬車から降りた叔父上は、すたすたとそこへ向かって行った。
出迎えたのはやたらに着飾ったちょび髭の小男だ。叔父上は、支配人らしきその男と何やら話している。
「何をしている、フェリクス。早く来い」
「なっ……」
まさか、例の閨教育をするつもりなのか!?
「行きません!俺はこのような場所を利用するつもりは」
「お前たち、こいつを連れて来い」
「なっ、何をする!離せーっ!」
叔父上の指示で、護衛騎士たちが俺を引きずるように娼館へ運び入れた。
連れ込まれた先は、二階にある殺風景な部屋だった。椅子が数個置いてあるだけで、ベッドすらない。
まさか、ここで!?
慌てて出ようとするが、ドアが開かない。
「開けろ!」と叫んで押したがびくともしなかった。おそらく、外から封じられている。
「少し落ち着け」
「落ち着けませんよ!だいたい、何で叔父上まで一緒の部屋にいるんです?父兄同伴で閨教育なんて聞いたこともない!」
「騒ぐんじゃない。お前の希望通りにしてやったんだ。ほら、そこから覗いてみろ」
叔父上が指さした方角の壁に、手のひらほどの高さの横長い隙間が開いている。
恐る恐る顔を近づけてみたところ、そこから見下ろした位置に部屋があった。家具はベッドだけ。その傍に、何に使うかよく分からない道具類が転がっている。
そして、ベッドには娼婦と男娼らしき男女が寝そべっていた。
壁に着いていた呼び鈴を叔父上が鳴らす。それを合図に、眼下の二人が絡み出した。
男が女の服を脱がしながら、その肌へ舌を這わせる。
俺は「わわっ」と叫んで目を隠した。
「こら、よく見ろ。お前がアニエス以外の女性に触れたくないと言うから、わざわざこの場を用意したんだぞ」
……つまり。実践ではなく、見て覚えろということらしい。
そうこうするうちに、男と女が睦み合い出した。
女の喘ぎ声や男の激しい息づかいが耳に届いて、いたたまれない。
あと下半身が膨張しているせいでズボンがきつい。
ベッドがぎしぎしと音を立てて軋んでいる。
男女が上になり下になり交わっている様子を、俺は逃げ出したい気持ちを必死で抑えながら観察した。
叔父上はといえば「ほう、あんな体位もあるのか……。今度試してみるかな」なんて呟きながら興味津々で眺めている。
この人が一番楽しんでるんじゃないのか?
睦み合いはますます激しくなり、女が上げる五月蠅いくらいの嬌声が響き渡った。




