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幕間5. 侯爵令嬢の憂鬱

「本当に許し難いですわ!そうは思われませんこと?ディアーヌ様」

「はぁ」


 私は曖昧に相槌を打った。


 お母様のサロンに集まった貴族夫人たちの話題の的は、ジェラルド殿下とシャンタル先生の婚約である。

 ここにいるのは皆、ジェラルド殿下ファンクラブの会員だ。殿下の婚約が気に食わない彼女たちはシャンタル先生の悪口で大いに盛り上がっている。


「私どもの殿下があのような女狐に惑わされるなんて」

「もしかして、あの下品に大きいお胸を使って誘惑したのかも……」

「イヤぁ~!考えたくないですわ~!!」

「皆様、少しお静まり下さいな」


 お母様の鶴の一声で、その場がしんと静まりかえった。


「貴方がたは、殿下が胸の大きさに血迷われるような愚かな殿方であるとでも?」

「いえ、そうは言っておりませんが……」

 

 騒いでいた夫人たちはもごもごと言い淀む。


「シャンタル様が我が国にとって有用な人物であることは、皆様もお分かりでしょう?ジェラルド殿下は、きっとそういうところも含めて彼女をお選びになったのですわ。私たちはファンクラブとして、殿下のご判断を信じるべきじゃございませんこと?」

「そ、そうですわね。殿下にはきっと深い考えがおありになるのですわ」

「さすがはシャレット侯爵夫人、素晴らしいご意見ですこと」

「ささ、そんなことより、来月にはフェリクス様の婚約式があるでしょう?私、ドレスを新調しますのよ。皆様はどのようなお召し物にされるのかしら」

「まあ、うらやましい。私、夫に出費を控えるように言われておりまして……。でも、せっかくの婚約式でしょう?せめて装飾品くらいは新しくしたいと説得しているところですの」


 彼女たちは、早速どのようなドレスを着るかという話題に移った。


 私はこっそりとため息を付く。

 少し強引だったけれど、話が逸れて良かった。

 まあ確かに、シャンタル先生は言動が乱暴で淑女として如何なものかという所もおありだけれど、私にとっては尊敬する先生だ。彼女の悪口は言いたくないし聞きたくもない。


 それにしても……。

 殿下の熱狂ファンで絵姿まで描いてしまうお母様こそ、この婚約に反対なさるかと思っていましたが。存外冷静ですわね。


「お母様はジェラルド殿下のご結婚に、ご反対なさらないのね」

「思うところが無くもないですけれど……。他の女性ならともかく、シャンタル様ならばまあ、ね」


 最初こそシャンタル先生を警戒していたお母様だが、今ではすっかり信奉者となっている。先生の有能さは勿論だが、あの竹を割ったようにさっぱりとした、男らしくすらある性格がお気に召したらしい。


 推しと推しが結婚するのだから無問題、というところだろうか。


「ディアーヌ、貴方の方こそ。泣くか暴れるかするものと思っていましたわ」

「……私、そんなに子供ではありませんわ」


 だって、気付いてしまったのだもの。


 学園で偶然、ジェラルド殿下がシャンタル先生と談笑している姿を見かけた。

 殿下が彼女を見る眼差しはとても優しげで、それでいて熱を帯びていた。


 あの瞳には覚えがある。

 ジェラルド殿下が、エリザベス様へ向けていたものと同じだ。


 ……良いことなのだと、自分に言い聞かせる。

 10年もの間、亡くなった婚約者を想い続けていた殿下が、新しい幸せを追い求めようとされているのだから。


 どの女性も成し得なかった事だ。

 シャンタル先生以外は。


 だから私は、敬愛するお二人を心から祝福しようと思う。

 

「殿下のご結婚は良いとして。問題は貴方のお相手探しですわよ」


 そうなのだ。

 フェリクス殿下とアニエスの婚約が正式に発表された以上、私は殿下の婚約者候補からはお役御免となった。

 しかし、同年齢の令息たちのほとんどは既に婚約者がいる。そうでない者は、よほど問題持ちであるか、格下の貴族だけだ。

 侯爵家の娘として、そのような相手に嫁ぐわけにはいかない。


「少し若い令息であれば、何人か候補はいるのだけれど」

「年下は嫌だわ」

「そうは言っても、このままでは行き遅れてしまうわ。やはり、他国の貴族も視野に入れるしか無いわねえ」


 母娘ではぁ~と盛大にため息を漏らす。


 どこかに、性格が良くて身分が高くて才気溢れて品行方正で見目麗しい年上の殿方はいらっしゃらないかしら……。


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