表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/166

106. やりたいこと ◇

 王宮の庭園に、楽しそうな笑い声が響く。


 集まった王家の方々の中心にいるのは、アルフレッド王太子殿下の妃であるフランセット様だ。彼女はこの春に王子をお産みになり、その後体調を崩して療養されていた。今日はフランセット様の快気と公務復帰を祝う集まりなのである。


 フランセット様の隣には籠があり、王太子殿下の愛息エルネスト様が寝かされていた。

 ぷくぷくのほっぺに生えたばかりの髪の毛がとっても愛らしい。


 許可を頂いて、私とフェリクス様も赤子に触らせて貰った。

 小さくて、強く触れたら壊れてしまいそう。

 恐る恐る手を伸ばすと、エルネスト様が小さい手で私の指をきゅっと握った。

 あまりの愛らしさに胸がきゅんきゅんする。


「可愛い……!」

「アニエスを気に入ったようだね」

「ブリジットのときも同じ反応だったな。若い娘が好きなのではないか?」

「えっ、叔父上みたいになったら困りますよ」

「全く同感です兄上」

「失礼だなお前たちは。第一、俺は女性の若さには拘泥しないぞ。年上は年上で良いものだからな」

「女好きは否定しないんですね……」


 やいのやいのと騒ぐ殿下たちを、国王陛下と王妃様はにこやかに眺めている。だけどその視線はエルネスト様に釘付けだ。

 初孫だものね。二人ともあまり表面には出されないけれど、きっと内心では可愛くて仕方ないんだわ。


 

「そうだ、アニエスに伝えなきゃならない事があったんだった」


 アルフレッド殿下が私の方を向いて、そう仰った。


「婚約式で、王子妃として公約を話す事になっていてね。その内容を考えて欲しい」

「公約?」

「難しく考えなくてもいい。抱負みたいなものだ。詳細は側近にまとめさせるから、大筋でいいよ」


 抱負、つまり私が王子妃としてやりたいこと。


 ……できるかどうかは分からないけど、考えていたことがある。

 クレシアへの旅で立ち寄った、あのシニャック公爵家より立ち去ってから、ずっと。

 

「あの……私、女性が働きやすい環境を作りたいです」

「ご婦人の社会進出を推進したいということかな?」

「はい。それも独身の女性だけじゃなくて、結婚なさってて……例えばお子様が大きくなって手の離れたご夫人が、また働けるような場があればと」


 一同の視線がこちらに集まっている。どもらないように気を付けながら、私はそう説明した。

 

「良い事だと思うわ!女性の社会的立場を高めることにも繋がるし」

「うん、俺も賛成だ」

「俺も悪くないとは思うけれど……。うるさ型の重臣(としより)どもが口を挟んで来ないかな」

 

 ブリジット様とフェリクス様は諸手を挙げて賛成して下さった。一方、アルフレッド殿下は思案顔だ。

 

 重臣はみな高位貴族で、かつお年を召した方が多い。女性は家庭に入って夫を支えるのが当然、という考えでもおかしくはない。

 だからこそ、変えていきたいと思う。難しいことかもしれないけれど。


「何もすぐに政策へ反映するわけではないのだ。当たり障りのない文言にしておけば良かろう。俺も素晴らしい意見だと思うぞ、アニエス。我が学園にも優秀な女生徒は多いが、ほとんどが卒業後は家庭に入ってしまうからな。勿体ないとは思っていたんだ」


 勿論、夫を支え家を盛り立てることも立派な仕事ではあるがな、とジェラルド殿下は付け加えた。


「そうですね。どういう方策を取るかは、おいおい考えるとしますか。如何でしょう、陛下?」


 アルフレッド殿下が陛下にお伺いを立てた。全員が口を閉じ、陛下のお言葉を待つ。


「アルフレッドが良いと判断したのであれば、異論は無い。……アルフレッド、フェリクス。そしてフランセット、アニエス。これからのラングラルを背負うのはお前たちだ。お前たちの望むように、やりなさい」


 陛下は目を細め、ゆっくりと語った。

 自然と背筋が伸びる。アルフレッド殿下やフェリクス殿下も顔を引き締めて頷いていた。


「……アニエス。ひとつ聞いても良い?」


 それまで無言で成り行きを見守っていた王妃様が私へ視線を向け、問いかけた。

 

「はい、王妃様」

「そこまで考えるよう至ったのには、何かきっかけがあるのではなくて?それを聞かせて貰えないかしら」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ