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102. 贈り物(1)

 あの騒ぎから2週間ほど経った頃。ジェラルドから、次の休日に王宮へ来てくれとの使いを受け取った。

 

 私用(プライベート)で会うのは久しぶりだ。ようやく仕事が落ちついたのだろうか。


 お気に入りのワンピースを着てきたけれど、もっとシックな方があいつの好みかなあ。

 なんて、道すがら柄にもない事を考えてしまう。

 こんなに浮き足立つのは何年、いや何十年ぶりだろうか。でも、悪くない。たまにはこんな気分になるのもいい。


 入り口で来訪を告げ、出てきた使用人に案内される。

 今いるのは公務エリアではなく、王族の私用エリアだ。逢瀬の際は、専ら私がジェラルドの私室へ赴いている。まだ婚約を正式に発表していないため、王宮の外で会うのは控えるようにと言われているのだ。


 だが、案内されたのは大広間だった。

 いつもの私室じゃないのか……?

 

「シャンタル様をお連れしました」

「ああ。入ってくれ」


 使用人が開けてくれた扉をくぐると。

 視界に入ったのは、一面に並ぶドレスだった。

 

 たっぷりフリルのついた膨らんだスカートが目を引くクリノリンにバッスルスタイル、裾が緩やかに広がるベルスタイル、流れるような曲線を描くマーメイドスタイル……。それと合わせるようにショールや靴、ジュエリーも並んでいる。

 まるで、広間一面に色とりどりの花が咲いているかのようだ。


 驚いて固まってしまった私へ「シャンタル、こっちだ」と奥の方から声がかかる。

 そこにはジェラルドともう一人、年輩の女性がいた。


「お初にお目にかかりますわ、シャンタル様。わたくし、パメラと申します」

「ああ、貴方が。高名はかねがね伺っていますよ」


 王室専属の仕立て師、パメラ・ドゥニー。かなりの年輩に見えるが、しゃきっとした佇まいだ。白髪の混じった髪を結い上げ、左右で色の違うブラウスを洒脱に着こなしている。


「まあ!殿下の仰るとおり、素晴らしいスタイルをお持ちの方ですわね。これなら、どんなドレスもお似合いになりますわ」

「そうだろうそうだろう」

 

 満面の笑みでジェラルドが自慢げに答えた。

 私のいない所でいったい何を話したんだ。気になる。


「この中から、二着選んでくれ」

「まずはシャンタル様のお気に召すものを、何着かお選び下さいな。そこから絞り込みましょう」


 私のドレスを仕立てるつもりなのは分かった。でも、なぜ二着?


「収穫祭と、アニエスの婚約式の分だ」

「婚約式はともかく、収穫祭は手持ちのドレスを着ていくつもりだったけど」

「何を言っている。俺たちの婚約も発表するのだぞ?使い古しなど着せられん」


 さあさあと促され、私はドレスの山の中を連れ歩かれた。

 多過ぎて目移りしてしまう。どれを選べばいいのか分からなくなってきた。


茶色(ブラウン)のドレスが多いんだな」

「殿下の瞳の色でございますよ」


 貴方の色を纏いますってか。

 たまには男が女の色を纏うってのはないのかね。いや、金を出して貰うんだから文句は言わないけども。

 

「あ、これいいかも」

「む。少し胸が開きすぎではないか?」

「このくらい、いつも着てるだろ」

「平素から気になっていたのだ。男どもがどんな目で見ていたか、気づいてないのか?どうも君は無防備すぎる」

「えー。私は気にしないけど」

「少しは気にしたまえ」

 

 言い合いをする私たちを見ていたパメラが「まあまあ、仲のよろしいこと」と笑い出した。


「それにしても、ジェラルド殿下の奥様となられる方のドレスを仕立てることができるなんて……。このパメラ、感無量でございます。これでもう、いつでもあの世へ旅立てますわ」

「縁起でも無いことを言うな。この後は俺たちの結婚式にフェリクスの結婚式、それにブリジットの嫁入りも控えているのだ。パメラにはまだまだ現役で働いて貰うからな」


 ドゥニー夫妻は先代国王の時代から王族の仕立てに携わってきたため、ジェラルドとは幼い頃から面識があるらしい。


「へぇ。そんな子供の頃から知ってるのか。じゃあ、お子様ジェラルドの失敗談とか知ってる?お漏らししたとかさ」

「そんなことはしていない!多分」

「ほほほ。ならば、殿下がこっそり王宮を抜け出して大騒ぎになった時のことでもお話ししましょうか。それとも、ご令嬢に悪戯をして泣かせた件の方がよろしかったかしら」

「お前、結構悪ガキだったんだな」

「二人とも、頼むから止めてくれ……」

 

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