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100. 嫉妬と喧騒

 合格の知らせを聞いたのは、家から出ようとしていた時だった。


「そうか、アニエスは無事に合格したか。これでひと安心だね」


 使いを出しても良いけれど、私の口から報告したい。

 そう思って王太子殿下の執務室へ赴くと、ちょうどジェラルドとフェリクス殿下も在席だった。三人とも、吉報を手放しで喜んだ。


「でかした!さすがは君の弟子だな」

「もしかして、アニエスはもう帰ってきたのですか?」

「いや、まだクレシアにいるんじゃないかな。精霊から伝え聞いたんだ」

「精霊から?」


 新しい精霊士が誕生した際は、精霊を飛ばして世界中の同胞へソレを伝えるのだと私は説明した。

 

「つまり……ラングラルに小精霊士(スート・マスター)が誕生したことを、世界中が知ったということか?」


 アニエスがまだ遠いクレシア国にいると聞いて、若干しょんぼり顔のフェリクス殿下。それにに引き換え、ジェラルドは興奮した表情だ。


「ああ、そうだ。この国へ移住を希望する精霊士が増えるかもしれないな」

「これは、我が精霊振興部にとっても追い風になるぞ!こうしてはおれん。すぐに対策会議を開かねば。シャンタル、時間はあるか?君にも参加して欲しいが」

「すまない。これから王妃様のところへ伺うことになっているんだ」

「義姉上のお呼びであれば仕方ない。俺もいったん文化省へ戻るから、途中まで一緒に行こう」


 ジェラルドの側近も引き連れて、二人で省庁が固まっている建屋へ向かう。

 精霊振興部は文化省の一部署という位置づけだ。ジェラルドは文化省長官であるため、王弟としての執務室の他、長官室にも席を持っている。

 その上、王立学園長に王子たちの補佐まで兼ねているのだから、ハードワークにもほどがある。


「相変わらず忙しそうだな。顔色が悪いぞ。ちゃんと寝ているのか?」

「ここ一週間、あまり寝れていない。だが君の顔を見たら元気が出た」


 長い休暇を取ったせいで、執務が溜まりに溜まっていたらしい。おかげでここ数週間、ほとんど会うこともできなかった。


「無理はするなよ。後で回復薬を届けさせようか?」

「ああ、それは助かる」

 

 そういえば王太子殿下とフェリクス殿下も顔色が良くなかったな。ジェラルドが不在の間、彼らも膨大な執務をこなしていたと聞いた。二人にも薬を届けようか。あと側近たちの分も。


 

「殿下、ご歓談中失礼致します」


 突然割って入ってきたのは、書類を抱えた女性職員だった。「先日の件で問題が……」となにやら込み入った話をしている。

 

 ジェラルドへ熱心に話しかける彼女の顔は紅潮し、瞳は熱っぽい色を浮かべていた。

 うーん、分かり易い。


 仕事には厳しい男だから、部下に手を出すような真似はしてないと思うが。普段から甘い言葉くらいは吐いてるんだろうな……。


「シャンタル、済まない。急ぎの用件のようだ。これで失礼する」

「うん。またな」

 

 手を降って立ち去ろうとした私は、女性職員が私を見ていることに気付いた。

 彼女は鋭い視線でこちらを睨み付けている。私は素知らぬフリをしてその場から離れた。




「ちょっと、貴方!」


 王妃様の元へ伺う途中、お花摘みに立ち寄っていた私は出てきたところを捕まえられた。


 声を掛けてきたのは先ほどの女性職員。他にも数人の女性がいる。服装からして同じく女性職員と、あとはメイドか。


「貴方、どういうつもりなの?」

「どうって、何が」

「精霊士だかなんだか知らないけど、平民なんでしょう?ジェラルド殿下に付き纏うなんて、身の程知らずとは思わないの?」


 他の女たちも険しい顔で私を睨み、「そうよそうよ」と口々に責め立ててくる。


「言っとくが、付き纏ってきたのはあいつの方だぞ」

「そんなわけないじゃない!ちょっと優しくして貰ったからって、勘違いしてるんじゃないの?殿下はどんな女性にもお優しいんだからっ!」


 ジェラルドのファンクラブがあることは知っている。

 だがクラブ員のほとんどは高位貴族のご夫人のはずだ。とすると、この娘たちはまた別口だろうか。

 

 まさか、ジェラルドが手を出した女どもじゃあるまいな。


「だいたい、あんたらジェラルドの何なんだよ」

「まあっ、殿下を呼び捨て!?なんて不敬な!」

「私たちはジェラルド殿下の親衛隊よ」


 なんだそりゃ。

 ずいぶんはた迷惑なファンだ。よし、迎撃決定。


「親衛隊ねえ。要はあいつに岡惚れしてる集団じゃないか」

「ち、違うわ!私たちは貴方と違って、身の程を弁えていますもの」

「へえ。()()()()んなら”殿下”がどんな相手と恋愛しようが、口を出すべきじゃないだろ?」

「ふん!爵位の高いご令嬢ならともかく、貴方みたいな馬の骨、殿下には絶対近づかせないんだから!」

 

 以前も似たようなことがあった。

 しばらく滞在した国の公爵令息に、やたら気に入られてしまったのだ。あのときは、取り巻きの女どもから散々に嫌がらせされたっけ。

 思い出したら腹が立ってきた。


「なんだかんだ言ってるけどさあ。結局のところ、あいつが余所に女を作るのが気に喰わないだけだろ?それなら夜這いでもして自分からアプローチすりゃいいじゃないか」


 勿論、できないと分かっての煽りである。

 群れないと文句も言えないこいつらに、そんな度胸があるもんか。

 

「なっ……なんて下品な!」

「そうやって、身体で殿下を誘惑したんでしょう!」

 

 女どもは目をひん剥いてピーチクパーチク騒ぎ出した。煩いことこの上ない。

 お前らの”殿下”だって、結構下劣な助平野郎だぞと言ってやりたい。

 面倒くさいなあもう。


 

「王宮の廊下で騒いでいるのはどなたかしら?」


 そろそろブチ切れそうになったところへ、聞き覚えのある声がした。

 朗々と響く美しさを持ちながらも凄みに満ちた声。その持ち主は、侍女を伴った王妃殿下だった。


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