緋色の公爵令嬢は呂色の薔薇に会いに行く
───これは…スカーレットが悪役令嬢になる前、ロイロが封印を解かれる前のお話。
数多くある作品の中から、こちらへお越しいただき誠にありがとうございます。
皆様、お世話になっております。葉椀メギです。
この度は『緋色の悪役令嬢は呂色の薔薇を染め上げる』&『呂色の元薔薇は緋色の元悪役令嬢に愛を告げる』をお読みいただきまして、誠にありがとうございます。
ランキングにお邪魔させていただいたとのことで、まるで現実味がなく… 数多く作品がある中で自分の生み出したものにこんな奇跡のような事態が起こるものなのかと、上手く言えませんが…とにかく嬉しい気持ちでいっぱいです。
このような喜ばしいことになりましたのも、お読みくださいました方々、評価をくださいました方々やブックマークをしてくださいました方々。大変励みになるうえに元気までいただけるご感想やコメントをくださった方々のおかげでございます。
本当に本当にありがとうございます!
そして、二つの作品ともに誤字脱字報告をいただき、心から感謝致しております。自分で何度もチェックしているのですが、こんなところに…!と大変助かっております。
ささやかではございますが、感謝の気持ちを込めまして急遽こちらの番外編の方、作成させていただきました。
それでは、こちらどうか楽しんでいただけますように。心を込めまして。
【帰りなさい!!】
「嫌です!!!!」
サラントナ王国の王城の地下で、一人の公爵令嬢と一輪の薔薇が言い争っていた。
【君は、公爵令嬢でしょうが…!ここに頻繁に来ることもそうだが、ここで寝るのは流石にどうかと思うぞ!】
「身分なんて関係ありません〜!私は今日、ここで寝るんです。魔王様の側にいたいんですー!」
頬を膨らませて、スカーレットはそんなことを言う。
【…こ、子どもか】
「ええ!わたしは立派な子どもですもの」
ああ言えば、こう言う。
全くもって譲る気のないスカーレットである。
【そもそも…薔薇の姿とはいえ婚約者がいるのに、男の前で寝巻き姿でやってくるのは駄目だろう?】
「…っ」
"婚約者"というワードにスカーレットは、胸がズキリと痛むのを感じた。
「…あんなもの、お父様が王族との関わりを持ちたいが故に結んだものですわ」
わたしの意思じゃないもの、悲しそうにスカーレットはつぶやく。
【…君も大変だな】
魔王は少し憐んだ声で言う。
「…じゃあ、ここで寝てもいいですか?」
【こらこら、それとこれとは話が違うだろう】
「気分転換のようなものですよ?」
【一体、どこの世界に魔王が封印されている地下室で眠る公爵令嬢がいるんだよ】
「ここにおりますわ」
はじける笑顔でここでーす!なんて手を挙げて言うのだから、彼女には本当に敵わない。
「ちゃんと、わたしが訪れる度に洗浄魔法で綺麗にしていますし、鑑定魔法によればこの床は舐めても大丈夫なくらいに綺麗ですのよ?」
【そういう問題じゃない…!君が、自室の部屋のベッドにいないとなれば公爵家は大騒ぎになるだろう?】
「大丈夫ですわ!見回りが来ても大丈夫なようにわたしの分身を魔法で生み出して寝かせてありますし、もしも何かあった場合は感知魔法を部屋に張り巡らせてありますから、すぐに起きて転移魔法で戻ります」
笑顔で高難度かつ魔力量の消費が激しい魔法を平気でいくつも使っているというのだからこの少女、8歳ながら本当に末恐ろしい存在である。
【はあ、君というやつは…本当に敵わないな】
魔王は、困ったようなそれでいてどこか楽しそうな顔で笑うのだ。
(あ、今ロイロ様の笑顔が見れたわ)
時折スカーレットには、ぼんやりと魔王の本来の姿が見える。
呪いの効果が弱まってきているか、それともスカーレットにだけそう見えるのか…
真相は謎であるが、そんなことはどうでもいいのだ。
(この笑顔はわたしだけのものだわ)
スカーレットは愛おしさを募らせながら、ゆっくりと寝袋を床に敷いた。
【…おい、何をどさくさに紛れて寝る準備をしているんだ】
「あら、嫌ですわ。魔王様、そこは"おやすみ、スカーレット"って初めて名前を呼ぶところですよ」
【…っ!】
顔をほんのり赤くして魔王は硬直する。魔王はスカーレットだけでなく、今まで女の子の名前を一度も呼んだことがないのだ。
差別されてきた魔王は自ら名乗っても、自己紹介をし合えるような関係性を築くことが困難だったからである。
「あら、わたしの名前をお忘れになりましたか…?何度でも名乗って差し上げますよ」
スカーレットは立ち上がると、ネグリジェの裾を掴んでゆっくりとカーテシーをした。
「ごきげんよう、私はスカーレット・マルコーニと申します。どうぞ仲良くしてくださいませ。魔王様?」
ふふふ、と笑い冗談めかしてスカーレットはそんなことを魔王に言う。
「さあ、自己紹介も致しましたわ。魔王様はまた名乗る名前などない、とか言って名乗ってくださらないのでしょう…?なら、せめてわたしの名前を呼んでくださいな」
【…………】
魔王は俯き、沈黙を貫いていた。
しかし、意を決したように顔を上げると魔王は恥ずかしそうにしながら一つ息を吸う。
そして、ぎこちなくスカーレットを見つめた。
【す、す、すっ!スカーりぇット】
噛んだ。
紛うことなき、噛み噛みである。
二人は黙ったまま、暫く見つめ合う。
そして、耐えきれないとばかりに魔王は真っ赤な顔で叫んだ。
【わ、わざとなのだからな!!!!だっ誰が君の名前など呼んでやるものか…!!!さっさと、寝やがれ!!】
魔王は恥ずかしさのあまり、当初無理してやっていた魔王的な口調で無茶苦茶なことを言う。
…そして、スカーレットといえば。
「はううっっ!!」
…ズキュンッ!!!
息を乱して、奇声を上げ悶えていた。
胸を両手で抑え、必死に一命を取り止めていたのである。
「魔王様!それは反則ですわ、わたしを殺す気ですかっ…!!」
【いいからもう…寝るか、帰ってくれ!!!!!】
二人の夜は、まだまだ…終わりそうにない。
皆様、ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございました!
7月8日15時にロイロとスカーレットたち"家族"のお話を投稿する予定でございます。次回もぜひお越しいただけたなら、とても嬉しいです…!
お手数おかけ致しますが、ご感想や評価を受け付けておりますのでお手隙の際にでも、ぜひよろしくお願い致します。
また、どこかでお会いできることを願いまして。
葉椀メギ