表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/52

第五話 異世界への扉

 わたしは改めて、演劇部の部室に用なんてないですよ的な顔をしつつ、外階段を二階へと上がって行った。いざという時に素早く逃げられるように。


 いざという時とは、クラスメイトに見られた時とか、演劇部の人にばったり会っちゃった時とか、地震が起きた時とか……。はいはい、クラスメイトはともかく、演劇部の人からも逃げるっていうのは意味分からないですよね! わたしも意味分からないもん! 良いのっ、わたしはそうやって存在を消しながら生きてきたの!


 なんとか、演劇部部室の扉の前までたどり着く。

 重そうな鉄製の扉。黒色のペンキで塗りつぶされていた。イメージカラーが黒なの?


 真っ黒で威圧的な扉から受ける印象は『破壊』、『混沌』、『拒絶』。それと『前時代的』。

 扉の周囲が排他的なエネルギーで歪んでいるように見えた。まさに異世界への扉。わたしは、この扉をノックしなければならない自分の不幸を嘆いた。


「はあー」

 なんだか溜め息ばかりついてるな。おそらく、この数分間で寿命が二年は縮まったに違いない。少し落ち着いてくると、黒い扉に貼り紙がされていることに気づいた。


『大講堂にいます--演劇部』

 と、書かれていた。

 もう公演は終わったんじゃないの?

 大講堂は同じ旧学生棟内にあり、すぐ近くだけど……。ありもしない勇気を振り絞ってここまで来たのに、肩透かしなんてあり得ない!


 わたしは高まる緊張の中、意を決してドアノブを握る。

「えいやっ!」

 しかし、扉には鍵がかけられていた。ドアをノックしてみたが、反応はない。


「ふうっ、やれやれ……」

 ちょっとだけ安心した。

 高校演劇デビュー。その一歩さえままならないのに、大講堂に行くのはやはり明日にしよう、と考えていると思わず笑みさえこぼれてくる。


 ただ、〝明日〟というヤツは、いつも澄まし顔でマイペースなくせに、わたしがくることを望んでないと知るや否や、目の色を変えて飛んで来る。間違いなく、一日二十四時間が、半分の十二時間くらいになってる。


 自分の思い描いていた通りにならないことにイライラしつつ、さすがにこのまま帰るわけにはいかないので、大講堂に向かうことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ