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未来の探索者  作者: ねこのゆうぐれ
第一章 その力はどこに振るう
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第伍話 ファンタジー!!

「おはようございまーす! です!」


 建物から出ると、朝から可愛らしい声が俺を待っていてくれた。


「おはようございます。よろしくお願いします」


 頭を下げて挨拶をする。頭を上げると暖かい日差しが眩しい。今日は散歩するにはうってつけの気持ちいい天気だった。


「天気が良くてよかったです!」


 彼女は、最初の部屋にいた……あの黒い点滴を変えてくれた人だ。にこにこ笑いながら俺を見ている。

 正直、すごい可愛いんだよな、この子。

 小さくて元気で、どこかのマスコットみたいなんだよな。


 さて、説明しようか、どうしてこうなったか。


 ……昨日の事だ。


 破堂さんが部屋を後にした後、腕につけたリングが突然鳴った。

 おっかなびっくり意思をなんとか向けて出てみると、音月オトツキと名乗る女性がでた。どういう仕組みかさっぱり分からないが、口で普通に話せば通信先の相手に伝わるみたいだ。

 シンジュク支部の案内の旨の話と、これから俺のところに探索服を持って行っても大丈夫かとの、通話だった。


 ——今、俺は例の迷彩柄の軍服を着て、コンバットブーツを履いている。

 なんでもこの服は、魔学なる技術で作られた物らしい。

 すごいよコレ。

 渡してくれた時に音月さんが見せてくれたをだけど……色が変わるんだよ! この服!

 基本は迷彩柄なんだけど、魔素を服に通して思い描くとブーツも連動して擬態色が変化するんだ。青、白、黒……といった具合に。

 迷宮は草原とか海とか洞窟とか、タイプが無数にあるらしい。

 それに合わして色を変え、攻略する。なるほど、そりゃ、雪山に緑色の迷彩柄で歩いていたら目立つだろうしな。


 そして、なんと! 硬くなるんだぜ!


 硬度は魔素を込めれば込める程、硬くなるらしいけど、限界があると。

 焼き入れした鋼鉄ぐらいは硬くなるって音月さんは言ってたけど……わからん。


 つまりは、左腕を硬くして魔物の牙を受けて右手で持った武器で攻撃できるって寸法だ。試しに俺もやってみたら……できてしまった! カッチカチだ! テンション激上がり! 魔素バンザイ!


 そして今は全身、黒色に統一している。

 色を変化させ続けると微かに体内の魔素が減っていくらしく、音月さんは「大丈夫?」と心配してくれたが、何故か問題ないのでそのままでいる。

 俺は決めた。黒い戦闘服と言えば、二刀流だ。二本の剣を操り、敵を倒す。

 男ならロマンだろ、ロマンに憧れるだろ?


「……どうしたんですか? 志郎さん。なんか、ニヤニヤしてキモいです!」


 ……そして、今に至る。


 俺の妄想が漏れていたのだろうか……可愛い癖に思ったより口が悪い彼女を見る。

 彼女は音月希樺オトツキキッカ。いまから、俺をシンジュク支部まで案内してくれる人だ。

 小さい体に迷彩柄の服がいい感じに似合っている。


「えっ! そんな顔してました!? ちょっと考え事を……それより、すみません、待たせてしまって」


 リングを見る。『07:55』と出ている。遅刻はしていない。


「大丈夫です! 私も今来たところです!」ニコニコと笑う音月さんは「では、行きましょう」と歩き出す。


 俺は、彼女について歩き出す。

 建物から出て、後ろを振り返るとデカデカと赤い十字が出入り口の上に描かれていた。

 二階建ての木造の病院だ。

 大きさは小さめの学校の校舎くらいはあるか?


「ここはですねー、一般病棟になります。命に別状のない患者の方が治療を受けたり、入院します。探索者の方はよく来院しますです」


 立ち止まっていた俺に音月さんが説明してくれる。

 いわく、緊急患者はそれ用の別の病院があるそうだ。俺も最初はそこで治療を受けて、異常がなかったので……ここに運ばれたらしい。


「違うというか……、なんか懐かしい感じがして。昔、住んでいたじーちゃんちがこんな木造だったんで」


 そして、俺は気づく。


「すげー」


 想像以上にでかい町に。

 その町を……ぐるりと壁が囲っている。高さは、七、八メートル? もっとあるだろうか。


「でか……」


 人が上を歩けるぐらいの厚みがあるのだろう。ここからでも小さな人影が壁の上を歩いているのが見えた。


「……見張り? かな」


大壁オオカベはですねー」俺の視線に合わして、音月さんが話してくれる「私が生まれるずっと前からあるんですよ。何百年か前に確か……『土木』『植木』『滅金』だったかな? その能力を持った人達があの壁を作ったそうです」


「へー、そんな昔からあるんですね」


「はい。すごい頑丈で何回も魔物の侵略からこのシンジュクを守ってくれているんですよ。彼らが作った建物も残ってて今から行く支部もそうなんですよ」


「それは楽しみですね」


 再び歩き出した二人の足音が、レンガを敷き詰めた道に響く。


 歩きながら町の景色に俺は息を飲む。まるで、そう……どこか、ヨーロッパの古い町を歩いているみたいだ。

 ここが日本とは思えない。

 知らないと、中世の町を観光している気分だ。

 味のある木造建築と壁と同じ色をした灰色家が並び、少なくはない人が歩いている。


 えっ? 何あの人!?


 またもや見たことがない物が! 嫌、人間が!

 誰だってアレを見れば俺と同じになる。だってさ、皮の鎧着て、背中に大剣ぶら下げてたら……まじっ!? ってなるでしょ?


「あの方は探索者ですね。リングの色は……青。なるほど、なかなかの猛者ですね」


「青?」


 歩きながら聞き返す。

 大剣の人は道の角を曲がって見えなくなってしまった。


「はい。探索者にはランクがあります。黒から始まり、青、白、銀、金と上がって行きます。黒から青に上がるのは、なかなか大変なのです!」


「大変?」


「ゴブリン緑種をいっぱい倒さないといけなかったり……危険なのです! そして今、金は日本国に現在、三人しかいません! まさに一騎当万の強さを誇ります!」


 三人だけ? 少なくない? 大丈夫なのだろうかこの未来……なんて考えてると、カーンッ! カーンッ! と甲高い打撃音が空気を震わせ聴こえてきた。


「あれは、『鍛治』で剣でしょうか? なにかの武器を鍛えている音ですね」


「それも能力?」


「そうです。あるとないでは、武器の出来が全く違うのです」


 俺は気になり音の鳴る方向に歩き出して……手を掴まれた。


「志郎さん、後ですね。人に能力のことを聞くのはマナー違反です。物凄く怒る人もいますので気をつけてくださいね」


 フワッと香る音月さんの匂い。


「ちなみに……私の能力は『無音』です。夜道に気をつけてくださいね」


「無音?」あれ? 声が……音がしない?


「全ての音を無くすのが私の能力です」


 俺の背中がゾクリとする……笑っている音月さん。ああ、この人絶対怒らせたらいけない人だ。


「は、はひ!」


 元に戻った声を聴きながら、俺は音月さんに思い出していた。

 そうか、どこかこの人は妹に似ているんだ。

 自分を見せないところとか。

 歩き出した彼女の背中を見てそんな気がした。


「それと、志郎さんの事は破堂から聞いています。過去人は出来るだけ隠しておいてください。よく、思わない人もいるので」


 よく思わない……不吉とかか?


 そして……「さあ、着きましたよ」と振り返り、俺を見てペコリと頭を大袈裟に下げて、まるで大道芸人みたいにお辞儀をして両腕を開き招く。


「シンジュク支部にようこそ、支部長補佐、音月希樺オトツキキッカが歓迎します」


 支部長補佐? え、そんなに偉い人なのこの人?

 ビックリした俺の顔を見て、ぺろりと舌を出して扉を開けて、どーぞどーぞと中に促してくる。「ユリカちゃん、もういるんじゃかいかなー」と話しながら。


 灰色の建物の中に扉を開けてくぐってはいると……


「おっそーい!」


「ごめん、ごめん。でも、待ち合わせ時間には間に合ってるでしょ?」


「いやいや、私より遅く来てたらダメだろ……はあー、まあいい。こいつか、教えるのは」


「そうです! ユリカちゃん! 志郎さんは二歳年上だからちゃんと敬語で仲良くするのですよ!」


「はー? このモヤシが二個上だって? 冗談は顔だけにしなよ。てっきり昨日までママのオッパイ飲んでたのかと思ったよ」


「女の子がオッパイなんか言ってはダメです!」


「キッカだっていってるじゃん」


「それはー、ユリカちゃんが……」


 俺を置いてきぼりに進む会話。


 ユリカと呼ばれる女は赤い髪をしていた。肩まで垂らして前髪は切りそろえられている。俺よりも頭ひとつ分は高い身長に薄い赤い色をした目。そして、デカい反りのある剣を背負っている。

 服装は……着物? 着流しといえばいいのか、ラフに赤い小さな花が散った模様の着物を着ている。

 はち切れんばかりの胸元に目が行くのは仕方ないだろと言わせてくれ。

 強い口調とは裏腹に美しい顔立ち。

 だが……、見慣れない物が額から伸びている。


 ツノ。


 ここに来る道中でも、色々みたけど……妹よ。

 三百二十二年後は思っていたよりファンタジーしているよ……


 ナイスバディの赤鬼が目の前にいた。


「たくっ! モヤシ! 遅れた罰で訓練所を百周だっ! 走ってこーい!」


 赤鬼が吠えた。


 これが、長い長い付き合いになる赤刀ユリカと俺の出会いだった。











 育成者制度。

 探索者の死亡率を下げる為に作られた制度だ。

 ツーマンセルで上色探索者と下色探索者が組む。

 一人前になるまで鍛える制度だ。

 それは、戦い方から、魔素の扱い方。魔物の殺し方と対策。迷宮内によるトラブルの対応など多岐にわたる。


 別名、師弟制度と呼ばれている。


 この対策のお陰で死亡率は目に見えて下がったと言う。







 時折志郎はやる時は覚悟を決めれる男だが……基本は、あほだった。


「赤鬼きたー!」


 俺の魂の叫びはシンジュク支部に響きわたった。


ありがとう。


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