表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来の探索者  作者: ねこのゆうぐれ
第一章 その力はどこに振るう
11/22

第拾話 胸の奥の言葉

 ——カツーンッ! カツーンッ!


 洞窟内にピッケルを壁に叩きつける音が響き渡る。

 ここは、シンジュク異界第伍迷宮イカイダイゴメイキュウ——二階層。

 この迷宮タイプは、分かりやすい洞窟の形をしていた。


 所々にぽっかりと、底が見えない大きな穴が空いているのに気を付ければ、出てくる魔物は強くはないので、比較的……下色探索者カショクタンサクシャでも探索できる迷宮だった。


 —— カツーンッ! カツーンッ!


 壁の中から紫色の魔鉱石が見えた。

 お、出た出た。

 私は拳大の魔鉱石を壁からほじくり出して、袋に入れる。

 不思議なことに、いくら魔鉱石を掘っても崩れた壁は時間が経てば元通りになる。

 魔物が迷宮から産まれるメカニズム……いくら掘っても復活する魔鉱石。

 いかにも機械的な構造に、何かしらの人類以外の未知の技術……、神の力が使われていると、唱えた人もいるらしいけど……私にはどうでもいい。


 必要だから掘って取る。

 それ以上の理由はいらないから。


「おー、だいぶ集めたな、そろそろか?」


 私の座る横に置いた、魔鉱石が入った袋を見ながら師匠が近づいてくる。

 私が採掘に集中しやすい様に魔物を発見次第、排除するのが師匠の仕事だ。

 血が滴るメイスをぶら下げてる……どうやら、魔物に出くわしたらしい。

 まあ、師匠ならあくび混じりに狩殺せる程度の魔物しか出てこないから楽勝だろう。


「もう少しかな? ここら辺は取り尽くしたっぽいから移動しよう」


「よし、もう一階層降りてみるか」


 私はピッケルと魔鉱石が入った袋をカバンにしまい立ち上がりる。

 背中に背負ったカバンはなかなかの重さになっていた。

 腰に差した黒塗りの鞘に収まっている、愛刀を確認して歩き出す。

 これは、師匠がくれた。名前は『黒鞘』と名付けた。

 反りが少ない、全長六十センチぐらいの打刀ウチガタナだ。


「お? ゴブリン種緑が三匹いるな……」


 薄暗い洞窟の中、二十メートルにほど先に見慣れた魔物がいた。

 シンジュク周辺の迷宮には、ほぼあの魔物しか出てこない。

 気になって前、師匠に聞いてみたら、昔は色々な魔物が出る迷宮があったらしいけど、攻略して消してしまったらしい。

 残した理由は人型が一番……、殺しやすいからじゃないかって、師匠は笑っていた。

 はい? いやいや、人の業……深すぎる。

 魔物より人間、やばくない? と軽く引いたのを覚えいる。


「ねえ、いい?」


「……油断するなよ」


 カバンを下ろして、私は『黒鞘』の柄を握り……


 ——トンッ


 音なく一気に間合いを詰める。

 洞窟内の薄暗い明かりが幸いし、奴らはまだ私に気が付いてない様だ。


「赤刀一刀流、八火ヤツカ


 一呼吸で八連の斬撃を三匹に同時に繰り出す。


 「「「「バシュッ!!!!」」」」


 首や胸から血が吹き出すゴブリン。


 ——チンッ


 刀を納め、グラリと体を揺らし……静かに倒れた魔物を上から眺める。


「おー、やるなユリカ。ゴブリンだともう相手にもならないな」


「まだまだ、もっと早く鋭く動けないと。私には才がないから」


 魔物から魔石を取り出しながら私は返す。


「才、ね (いやー、十分強いと思うぞ、弟子よ) ……まあ、行くか」


 魔石を抜かれたゴブリンが床に沈んでいくのを確認して二人は歩き出した。


 ——三層に向けて。






 ……







 ………………






 ………………………






 人は忘れられるから生きて行ける。

 誰かが言っていた。

 多分、それは本当だろう。


 でも、私は忘れる事ができない。

 忘れるなんてない。

 だからって、どうすればいいかなんて、分からない。

 どう生きていけばいいなんて知らない。


 私が弱いから……

 私に力がなかったから師匠が、透山さんが死んだ。

 殺された。

 お母様の言う通りだ。

 私なんか生まれてこなければよかった。

 師匠に出会わなければ、死ぬことはなかった……


 赤いゴブリン。


 特異魔。


 能力を使う魔物。


 火炎を操る化け物。


 師匠の仇。


 私の命を賭けて、いつか奴を殺す。


 それだけが今、私が生きる理由。


 だから。一人で生きていかなくちゃいけない。

 もう、私のせいで傷つく人は見たくないから。







 ……







 …………








 ………………………







 ……





 ……………



















 ……そいつは、下からやって来た。

 三階層に降りる階段の前に着き、一休みしている時だ。

 最初に見つけたのは私だった。

 そいつは赤黒い肉体を持ち、体長は二メートルはなかった。

 ゴブリン種緑と同じで汚い腰巻きを付けただけ……他には何も身に付けていない無手だったが、一目で分かった。


 ——凍る背筋。


 コイツはやばい。


『黒鞘』の柄を握り、最速の技を放つ。


「赤刀一刀流、閃火センカ


 刀が鞘走りし打ち出される。


 ——斬っ!


 ガッキーンッ!


 迷宮の壁に刃が防がた斬音がこだまする。


 浅い!


 魔素で強化されたあまりに硬い肉体に、刀が弾かれる。

 だが、うっすらと、あいつの体から血が出ているのが見える。

 私の力はこいつに通じる!

 技を繋げようと私は一歩下り、刀を構えて直す……が、なんだあれは?


 目の前の赤いゴブリンは、全身が燃えていた。


 一瞬、固まった私をアイツは見逃さなかった。

 私に飛びかかり、炎を纏った拳がスローモーションで襲いかかってくるのが見えた。

 ギリギリの刹那、咄嗟に『黒鞘』を前に出しガードする。


 粉々に飛び散り光る刃が見えた。


「ああ——」


 眼前に迫る炎。

 死を覚悟したその瞬間、聴き慣れた声、それの怒号が迷宮に響き渡る。


「俺の可愛い弟子に何しやがるんだ!? ローーークッ!!」


 ——バキョ!


 眼前から吹っ飛ぶ赤いゴブリン。


 バトルメイスを持つ男、透山優が魔素を可視化できるほど体に纏い、赤刀ユリカを守る様に立っていた。


「何で、こんな低層で特異魔が!? くそったれが!!」


 透山は、リングを使い通信する。


「『こちら、緊急異界迷宮センター! どうしました?』」


「現在! 透山、赤刀二名がシンジュク異界第伍迷宮、三層に降りる階段前でゴブリン種赤の! ——特異魔と交戦中! 特異魔の能力は火炎系! 大至急! 応援を頼む!」


「『なっ! 特異魔!? わ、わかりました! すぐには……破堂凛子、及び白色探索者三名が動けます!』」


「了解! なるたけ早く来てくれ!」


「『——ガチャン! 破堂だ! 今聴いた! 透山、耐えろ! 死ぬな! 十五分、嫌——十分で行く!』」


「分かりました、俺が死んだらこんな依頼を出した破堂さんを、呪い死にますよ!」


「『すぐ行く!』」


 通信を切り、赤いゴブリンを睨む師匠。


「ユリカ! 俺がコイツを抑える! その間に逃げろ!」


 砕けた『黒鞘』を握り、叫ぶ。


「嫌だ! 師匠! 私も戦う!」


 立ち上がる赤いゴブリン。ダメージはあまりなさそうだ。

 火炎を全身に纏い、


「ギギギギャーーーーッ!」


 私の全身が震えるほどの、耳をつん裂く化け物の叫び声が洞窟にこだます。

 恐怖で膝をつき、倒れるのを必死に堪える。

 流れ出る脂汗を手で拭うのが精一杯だった。


 世界は美しくて、どこまでも残酷だ。


 動けない私を守る様に師匠は戦う。

 透過が能力の師匠には最悪の敵だ。

 炎は透過できない。

 私は震えて師匠が戦う様をただ見ていた。

 そして、最後が来た——


 バトルメイスが弾け飛び、ガラ空きになった師匠の胸を貫く赤く燃えるゴブリンの拳。

 血を吐く師匠は、振り返り私を見て笑い、


(……逃げろか、……アスカ……師匠、すみません。透山はここまです……)


 ゴフりと血を吐き出した師匠は、


「——生きろ!! ユリカッ!!!!」


 と私に在らん限りの力で叫び、そのまま魔物を抱きしめて走り、近くのポッカリと空いていた暗い大穴に落ちていった。


 世界は美しく残酷だ。


 残酷だ。


 別れは突然に来る。


 ああああ、嫌だよ……


 もっと一緒にいたかった。もっと色々、教えて欲しかった。もっと頑張ったなって頭を撫でて欲しかった。


 あなたともっと一緒にいたかった。


 師匠は火炎に包まれながら特異魔を抱きしめて見えない穴へ落ちていった。

 私を守る為に。


 ……それからはよく覚えていない。迷宮で座り込んでいる所を、助けにきた破堂さんに保護され私は生き残った。

 運がよかったらしい、特異魔は銀色探索者三人分の戦力があると、後で聞いた。

 私の胸には、ポッカリと穴が空いてしまったみたいだった。

 あの人がくれた言葉が、私を私でなんとかいさせてくれた。

 ギリギリ生きると決めた日に私に能力が発動した。


『鬼化』


 それが、私の能力。

 まるで仮面だなと思った。

 私を隠したいと、全てを忘れたいと。

 私が私でなくなる能力。

 お似合いだ。

 師匠が死んでから二年、私はほとんどの時間を鬼の姿で過ごしている。


 あの特異魔は生きている。

 大型の討伐隊を出してもアイツは発見されなかった。

 

 私は独りでいい。独りがいい。


 だから、多少痛めつけて諦めさせるつもりだった。

 時折志郎。

 破堂さんからの依頼だった。

 弟子にしてほしいとの。

 私は嫌だった、だから痛い思いをさせたら諦めてくれると考えていた。


 でも……どうして?


 「どうして?」


 お前は、


 君は、


 立ち上がってくる?


 立ち上がるんだ?


 時折志郎。






「いってーな……」






 俺は、カチカチに強化した服の魔素を解き立ち上がる。


「どうしてじゃねーよ、ボッコボコ好きに叩きやがって……今から万倍に返してやるからな。でもな、わかった。おまえの剣にはな、魂がこもってないんだよ」


「そんなことはない」


「なら、なんで——そんな悲しい顔してるんだよ、ユリカ」


 悲しい顔? 私は自分の顔を左手で触る。


「お前になにがあったかなんて、知らねーよ。多分だけどな、辛い事があったんだろうなって……お前を見ていて思うよ。でもな、それでも、お前には俺の師匠になってもらう!」


 空間が歪み、徐々に魔素がシローの周りに集まっているのが見えた。


 ——ズンッ!!!!


 立ち上がるオーラ。

 異界でもない地上でのこの魔素量は異常だった。

 可視化できる程の魔素を纏い、シローは言う。


「俺は元の時代、過去に帰る! だから俺を弟子にしろ!」


 ——ドンッ!


 私には見えた。


 地を蹴り飛び、木剣を振り上げるシローが。


 そこには、ただただ純粋な想いがあった。


 ——ガツンッ!


 交わり削りあう剣。


 互いに引けない想いが光り散る。


 泣き虫で寂しがり屋の鬼と、妹のを想う兄。

 師匠になりたくない女と、弟子にならないといけない二人の剣が煌めく——
























 能力は人の感情、性格、思考、生き方などに左右され発動するが、一番影響を受けるのが想いの力だ。

 ゆえに、過去人は強力な能力を発動しやすい。

 望郷の想いがあるからだ。

 何かを強く想えば、大切に想うほど強い能力が発動する。






ありがとう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ