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 次の日の朝、登校するとリューク殿下とレティシア様に会った。顔を合わせてしまった以上、無視するわけにもいかないし、緊張しつつも挨拶をした。

「リューク殿下、レティシア様、おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます、アリアさん」

 リューク殿下の声もいいが、レティシア様の鈴のなるような素敵な声で名前を呼ばれてドキリとした。思わずレティシア様を見つめてしまうが、はしたないと目を離し、リューク殿下を見る。今日も黄金の髪の毛が輝いてますね、レティシア様と並ぶと相乗効果でお二人ともキラキラと光って見えますね。はい。


 ふと後ろに目をやると、そこにはカイルともう一人の護衛がいた。

当たり前だが、こちらを見ている…。そう気づいた瞬間、またもポンっと顔が赤くなった。だから、何故だ…。


「…あの、それでは失礼します」

 特に話すこともないと、そのまま去ろうとしたところで、リューク殿下に止められた。

「アリア、学院には慣れたかな?」

「え…、あの、はい…」

 何と答えたらよいかわからず、中途半端な返事になってしまった。

「いや、私は王族として、総ての国民に気を配るようにしているのだが…もしアリアが良ければ、学年代表会の役員として一緒に学院を盛り上げていきたいと思っている」

 そう続けられて、思い出した。リューク殿下は簡単に私を監視する為に側に置こうとしている。小説ヒロインは2つ返事でオッケーしていたし、それを知っていても、レティシア様は小説の中でヤキモキしていた。

 一瞬だけ、ここで頷けば毎日カイルと顔を合わせられるかもしれない…と考えたけどブンブンと首をふる。なんでそんなことを思いついたのか解らないが、こんなの、飛んで火に入るなんとやら、だ。


 そもそも、学年代表会とは、その名の通り学年の代表となる生徒だ。学年それぞれに代表の役員が数人ずついて、行事やトラブル、生徒から学院側への要望などを取り仕切る。学年代表の会長と副会長は生徒会に属し、こちらは学院全体をまとめる。補佐だろうが雑用だろうが、間違いなく高位貴族の集まりであろう組織に、入りたいと思う平民がいるであろうか!いたわ、小説の乙女ゲーヒロインが。私は、とりあえず断りたい。


「あの…頑張りたいとも思いますが、なにぶんまだ居残り授業を毎日こなしている状況です。なので申し訳ないのですが…」

 あれ?王族のお願いってどう言って断ればいいの?そもそも断ったらダメなやつ?どういう言い回しをしたらいいの…

 そんな風に考えてしどろもどろになってしまった。

「…ああ。そうだったな。できれば今日の昼休憩からでも、と思っていたが…まずは自分のことをしっかりやっていくことの方が重要だ」

 リューク殿下の言葉に少しほっとする。

「だが、もし人手が足りないようであれば、また声をかけてもいいだろうか」

「それならば、はい。私でお役に立てることがあれば頑張りたいと思います」

 リューク殿下の目を見て、しっかりと答えた。紫の瞳が綺麗だと思った。リューク殿下とレティシア様は、では、と言って建物の中に入っていった。


 その後ろを、護衛がついていく。カイルの漆黒の髪色が風に揺れ、その背中が小さくなっていく。

寂しい、と思った。話したい、とも。そう思って、ふと気づいた。


 好き、なんじゃないだろうか。推しアイドルへの感情だと思っていたけど。頭で考えているより、カイルに恋をしているんだと。気づいた瞬間、頭が沸騰した。

 でも、かなり無理な恋っていうのにも、気づいてしまった。レティシア様の知っている乙女ゲームの世界なら、攻略対象者に対してはまだ方法がきっとあったであろう。でも、相手は対象者でもない、第一王子殿下の護衛…。

 一瞬で頭が冷えた。これは、きっと学生時代に経験する淡い恋心だ。見かけるだけで嬉しくなる、もし目があえば、ただそれだけで1日が幸せになれるような、そんな、ただ思い出へと昇華する恋。27歳の前世の自分が今の自分にそう納得させた。



 その日の魔法授業後、今度はエドワード先生に呼び止められた。

「アリアさん、少しいいかな」

「はい。何でしょう?」

 先生と向き合って、次の言葉を待つ。

「…もしかしたら、失礼なお願いかもしれないが、気分を害したら申し訳ないね。キミの持つ光属性は凄く珍しくて…今後の為にも、少し研究したいと思っているんだけど、協力してくれないかな?いや、1日の授業後に少しキミの時間が欲しいんだ」


 ん?今日はお誘いが多い日なのかな。少し考えてみる。

 確かに、光属性はかなりレア属性らしい。それは座学でも習ったし、謎も多いと言う。かくゆう私でも、何ができるかなど全部把握しているわけでもないし、協力はしたい。でも、これ…受けたらエドワードイベントが乱立する流れの可能性が高い気がするんだよね。

 そこまで考えて、とりあえず今は断ろうと結論を出した。


「あの。気分を害したわけでもないのですが、その協力はすぐ、なのでしょうか…。授業後、と言っても私はまだ居残り授業を受けている身で学業もまだまだ未熟なので、現時点でも時間が足りない状況なのです…」

 私の返事に、あー…とエドワード先生が声を漏らした。

「そうだったね。居残り授業の後…というとかなり帰宅が遅くなってしまうか。うーん。まぁ、学院生活はまだ始まったばかりだものね。確認だけど、研究自体が嫌なわけじゃないのかな?」

「はい。研究に協力することは嫌ではありませんし、これからの為にも必要なことであろうことは理解しています。ただ、お恥ずかしい話ですが色々と余裕がないのです。中途半端になるのも嫌なので…出来ればもう少し学院に慣れてからの方が有難いと…言いますか…えと…」

 ていうか、もう少し警戒されなくなってからにしたいのが本心です!とも言えず言葉を濁した。

「確かにそうだね。早計だった。では、学院に慣れてきたら声をかけてくれるかな?」

 エドワード先生はそう言ってにこやかに私に笑い掛け、私は頷かざるを得なかった。



 午前中、王族二人からのお誘い?を何とか断り、その日の昼休憩は初めて友人と昼食を共にした。他愛ない会話が楽しくて、こんな時間が続けばいいなと、密かに思った。





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