⑥
魔法の授業が終わっても、暫くは生徒それぞれが魔力操作についてだとか属性について話しあっていた。
それを横目に、私はすぐに練習場を去ろうと出口へと向かった。話す相手もいないし、この場にこれ以上いたくなかったからだ。これからどう行動すればいいか、そんなことしか考えられなかった。
「…おい。大丈夫か」
考え事をしていたせいで、聞こえた声を通りすぎ…はた、と気づいて声の方へ振り向いた。そこには、出口で待機していたカイルが、こちらを見下ろしていた。何に対して大丈夫かと聞かれたかわからず、首をかしげる。
「…ふっ。なんだ、その表情は。授業の途中から心ここにあらずのようで体調でも悪くなったかと思ったが、大丈夫なのか?」
え?私のことを見てくれていたの?あと、今…笑った?
初めて会った時も、前回服を乾かしてくれた時も無表情だったのに、今はとても柔らかい表情をしている。
赤い瞳がこちらを見ている。目が、あっている。
気づいた瞬間、また顔が熱くなった。
「…あ、いえ…その…、だ、だだだだ大丈夫ですっ」
何か返事を、と思って急いで口を開いたのだが、思わずどもってしまった。
「大丈夫、と言うセリフはそんなに言いにくいのか?入学式の時もまともに言えてなかったな」
あわわ…あの恥ずかしき出来事も覚えていらっしゃる…!
「そんなことは…」
恥ずかしすぎて、言葉に詰まってしまった。
「また表情が変わったな。どういう感情なんだそれは。体調が悪いわけではないのか?」
「はい…あの…大丈夫です。有難うございます、あの…えっと…お先に失礼します!」
いたたまれなくなって、練習場を出て扉を閉めた。
「からかうなよ」
「レオ、からかったわけじゃない。彼女様子がおかしかっただろう」
「今の彼女の様子がおかしかったのはカイルのせいじゃないのかな」
「何で俺のせいになる…」
扉の向こうから、カイルともう一人の第一王子の護衛(レオ?)の会話が聞こえてきたが、それよりも恥ずかしい気持ちの方が大きくて、その場からすぐに離れた。
なぜ、顔が熱くなってしまうのだろう。心配、してくれたのか、もう一人の護衛が言ったようにからかわれただけだろうか。それとも…彼らもやはり、私を警戒しているのか。そこまで考えたら、胸が痛くなった。けれども、理由がわからず、ただ、もんもんと一人考えていた。
初めての魔法の授業が終わってから、数人の男子生徒から話しかけられるようになった。
「さっきの魔力の玉、凄く綺麗だったね」
「光属性だっけ?初めて見たけど、もう魔法を使いこなせてたりするの?」
「アリアちゃんって呼んでもいい?髪の色も可愛いし平民なんて信じられないよ」
「僕は雷属性なんだけど、あそこまでハッキリと魔力を具現化できなくてさ、普段から練習してたの?」
昨日までは、全然近寄ってすらもこなかったのに、どういうことなのかさっぱり解らない。どういう態度が正しいのかもわからず、適当に返事をして愛想笑いで誤魔化した。
それからというもの、移動する時や休憩の時間など、何故か誰かしら男子生徒が話しかけてくるようになった。
無下にすることも出来ず、適当に会話をあわす。残念ながら、女子生徒から話しかけられることはなくて、相変わらず疎遠のままだったけれど、だからと言って何か女子生徒とも仲良くなれるようないい案も思いつけず、歯痒く感じた。
男子生徒と話しながら学院内を移動する際、遠目にリューク殿下や他の攻略対象者、悪役令嬢であるレティシアと目があうこともあって、物凄く警戒されている感じがしたけど、今のところ、私にできることはないような気がして、とりあえずは、ただあらゆる授業で遅れを取らないように、必死に勉強した。
それでも、学院内で一人になりたい時もあって、男子生徒を撒いて教室以外の場所へ逃げると、今度はそこに攻略対象者に出会うというアクシデント?に見舞われることになる。




