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燃える描写があります。苦手な方はお気をつけ下さい。


三年生の魔法実習で力をつけていきますが、その中のトラブルがきっかけでアリアが前世を思い出し倒れる


という内容です。


 王城へ呼ばれてから数日後、ついにと言おうか、やっとと言おうか、レティと同じグループで魔法実習をする日が来た。


 グループメンバーは、私とレティとリューク殿下、他数人の上級クラス、それとバルティス。

 もちろん、それぞれの護衛達と、責任者の教師、討伐のプロであるその地の貴族と兵士達がフォローとして同行だ。その辺りは2年の時と変わらない。変わるのは討伐相手。毎年、その場所ごとの森で繁殖する魔物の種類が変わるのだが、比較的倒しやすい魔物と倒しにくい魔物は棲息地が決まっている。


 2年の時の実習は、先にある程度の魔物の数を減らし、何という種類の魔物がいるのかという情報を元に実戦へ行く。が、3年になれば何の情報も教えて貰えない。もちろん、そこの森を領としている貴族や兵士達は知っているので、フォローは完璧にできる仕組みである。


「アリア、基本は通常連携と行きましょう。あれは魔力温存できるから」

 レティに言われて頷く。今日のメンバー的には、私とレティが補助でリューク殿下や他の上級クラスメンバーが攻撃魔法、魔法で仕留めきれなかった魔物をバルティスが討つという戦法で行く予定だ。


 森の奥へと進んでいくと、だんだん空気が淀んでいく感じがする。すると、ガサガサと木々の向こうから音が聞こえた。

「戦闘態勢!」

 リューク殿下が叫び、それぞれすぐ動ける態勢へ入った。


 現れたのは、ビッグディアの小さな群れだった。その名の通り、巨大な鹿の形をした魔物である。風属性の持ち主であり、近づけばその巨大な角で攻撃されるという、遠近戦双方に秀でている。中距離を保ちつつどう攻略するかである。風属性の持ち主だが、風属性の魔法が効かないわけではないので、全員が攻撃可能だ。


「中距離を保て!行くぞ」

 リューク殿下の声で、全員が動く。私が皆に強化魔法をかけ、レティはビッグディアに麻痺をかける。いくつかの個体が動けないようなので、麻痺が効いたようだ。私が群れの正面付近に魔物が眩しいと感じる程度の光の玉を出現させ目眩ましすると、レティがその光の玉めがけて闇の玉を打ち付ける。すると、闇の玉は反動でいくつかに別れ四方に飛び散りいくつかのビッグディアに当たり負傷させた。

 その後、それぞれが中距離を保ちつつ攻撃魔法を仕掛け、魔力調整を微妙に失敗し倒し損ねた魔物をバルティスの剣が確実に仕留めていく。


 20分経たずに、ビッグディアの小さな群れの討伐は完了した。まだ、近くに違う群れがいないとも限らないので、隊列を乱さずに森を捜索したが、実習の時間内には違う群れは見つからなかった。その森に詳しくなければ、およそどのポイントで魔物が出現するかを特定するのは難しいのだ。


「さすがですね。通常は討伐完了まであの倍の時間はかかるはずですよ。見事な攻撃、作戦でした」

 責任者である教師が嬉しそうな笑顔で誉めてくれた。リューク殿下以下攻撃メンバーの魔力の強さはかなり時短になったようだ。


 こうやって、幾度も魔法実習をこなしていった。


 何度目かの実習の時、ついに魔物探知機を使用する時が来た。今度は、リューク殿下とハルバートが一緒だ。もちろん他の上級クラスメンバーもいるが。

 その森は、その辺の森よりも深く暗い、一本一本の木にもかなりの年月を感じさせる場所だった。


 奥へと進んでいくと、代表としてリューク殿下が持っていた魔物探知機が反応した。魔物はこちらへ近づいてくるようだった。

「迎撃態勢!」

 リューク殿下が叫び、皆が構える。木々の間から見えたのは、ブラックベアだ。火属性の持ち主で口から火を吹く。その巨体は、怪力な上に手足の爪は鋭く、少しでもかすれば重症にもなり得る攻撃力を持ち気性が荒い。手強い相手だった。それが、3体。


 私がそれぞれに強化魔法をかけ、私自身には防御魔法を使う。基本的に私は少し離れたところからの補助だ。

 皆が攻撃を仕掛けてだんだんとブラックベアの体力が削られていく。二体を倒し、あと一体となった時だった。


 ブラックベアが、グオォ!と吠え口から火を吹いた。それは、私達人間にではなく、周りの木々へ放たれる。魔法は基本、対象のみに発動する。ブラックベアが人間に対して火を吹けば、木が燃えることはない。だが、ブラックベアの火の餌食となった木々が燃えだしたのだ。

「避難!水属性は火を消せ!ハルバート!行くぞ!」

 リューク殿下が指示を出すと、水属性を持つメンバーが火を消す為の魔法を使う。その間にリューク殿下とハルバートの魔力が一気に膨らみ、雷の一撃をダブルでブラックベアに食らわせてラスト一体は倒された。


 ほっとしたのは、束の間だった。木々に燃え移った火は消火に成功したが、燃えて弱くなった木々がザザザッと大きな音をたてた。

 その巨大な木々が、避難した私達生徒の方へとゆっくり倒れてきたのだ。


 他のメンバーが逃げるのが見えた。が、私は一瞬逃げるのが遅れた。プスプスと未だ煙を吐きながら私の頭上へ迫る。

「アリア!」

 

気づけば、私はカイルにすんでのところで助けられていた。目の前には、焦げた倒木があった。焼けつくような熱気が肌を襲う。

「あ…あ…っ」

 何故だろう。頭が、真っ白だ。見たくない記憶が、脳内を渦巻いていく。


 その時、もう一度、空気を引き裂くような鳴き声が聞こえた。先ほど木が燃えたことにより、違うブラックベアの群れが姿を表したのだ。その数、5体。


「余力のある者は!」

 リューク殿下の声に数人が応えたが、それで5体ものブラックベアを相手にできるはずがなかった。燃え盛る木々と煙により気づくのが遅れた。フォローにいた貴族と兵士が急いで走ってきたが、間に合いそうにない。

「屈んでください!」

 私を抱きしめたまま、カイルが叫んだ。カイルの身体の中の魔力が右の手に集まっていくのがわかったから、強化魔法をかけようとも思ったがうまく頭が回らないおかげで魔法を発動させることができない。


「複合魔法、爆炎」


 カイルの呟きとともに、その魔力は放たれた。それは、本来なら二人以上で放てるはずの火属性と風属性による合体魔法だった。それを、カイルは一人で放ったのだ。合体魔法は、複数を対象にできる。5体のブラックベアは爆炎に巻き込まれもがいている。その間に貴族と兵士が追い付き、リューク殿下やその数人とともに、ブラックベアの群れを撃退することができた。


 私はそれを、まるで夢でも見ているかのように眺めていた。身体は固まって動かない。周りから、色々な声が聞こえてきたが、その声さえも、遠い。私の目の前には、もう今は見ることのない前世の風景が広がっていた。


 焼けおちていく、木造の建物。周りの怒声や悲鳴。

「いや…いやだ…。私…」

 目を瞑り両手で耳を塞ぐ。それでも、バチバチという木が燃える音や悲鳴は頭の中で響く。

「アリア?…大丈夫かアリア」

 カイルの声が聞こえる気がしたが、反応することができない。

「私…私だけが…助かっ…。なんで…私…」

 私を、非難する声が聞こえる。


何故お前が助かったんだ!何故、あの子ではなく杏奈、お前だけが…!


「アリア、皆助かった。皆助かったぞ」

 焦るカイルの声が遠い。

「あ…ごめんなさ…。助かって、ごめんなさい…!」


 カイルやリューク殿下、ハルバートの声さえも聞こえた気がしたが、私の意識はそのまま深く、暗い中に堕ちていった。










次回、全然ほのぼのではない、アリアの過去編です。胸糞悪くなる予定です。ヤバい、ほのぼのどこいった…。

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