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 教室に向かって歩いている時、ふと気づく。

「あの…カイル?何で私の後ろを歩くのですか?」


「護衛は後ろを歩くものだからだ」

 

 即答されました…。んー、慣れてないせいか、一人で歩いている時に後ろを歩かれるのは怖い。


「あの…せめて私が一人の時は横に来てくれませんか?ストーキングされてるみたいで怖いです」

 前世でも今世でもストーキングなどされたことはないが、やはり怖いものは怖いのだ。

「ストーキングとはどういう意味だ?」

 あー、前世の言葉でしたね。

「付け回されるという意味です。カ、カイルだってことはわかってても…こう…えもいわれぬ怖さが…」

 立ち止まって、後ろを振り向くとカイルは不思議そうな顔をしながらも頷いてくれた。

「怖いと言うのなら、アリアが一人の時は横にいよう」


 そう言って、横に並んでくれたのでホッとした。また歩き出すけど…これから行く教室の雰囲気を考えて、また少し怖くなった。

「ああ…せっかくCクラスの人達とそれなりに仲良くなったのに、またアウェイなクラスなのね…」

 また、いちからの人間関係を築くと思うと足取りが重くなっていく。


「キミは不思議な言葉をよく使うな。平民の言葉か?アウェイとは何だ?」

 独り言を呟いたつもりだったが、カイルは私の言葉を拾ってくれた。

「…いえ、平民の言葉ではなく、私ならではの言葉ですね。アウェイは、一言で言えば敵地です。Aクラスは特に高位貴族の方々でしょう?私のような平民には、敵地としか思えません」


 そう言って俯くと、カイルが少し笑ったような気がした。

「…本当にそう思うか?」

 声が柔らかく感じて見上げると、カイルは微笑んでいた。

「行ってみれば解る」

 そう言われても、どうしても顔が固くなってしまう。それでも行かないわけにはいかなかったので、足を進めた。


 教室までくると、そこにはレティシア様が立っていた。

「レティシア様、おはようございます」

 声をかけると、カイルは一歩下がった。レティシアもこちらに気づいたようで、私に微笑んでくださった。


「アリアさん、おはようございます。もう具合は大丈夫なのかしら?」

 レティシア様が私の前まで来て、いつもより少し大きめの声で言った。ざわめいていた教室の中が静かになる。こちらを注視しているようだった。

「有難うございます。お陰様でかなりよくなりました」

「それはよかったわ。わたくし、アリアさんと同じクラスになれたと知って、とても楽しみにしていたのよ。さあ、教室に入りましょう」

 レティシア様が私の背中を軽く押した。カイルを見ると、にこりと笑ってくれたので、私もにこりと笑い返して教室に入った。


 Aクラスの教室に入っても、誰も何も言わない。変な目で見られるかとも思ったが、そんなこともなく、レティシア様を見ると、レティシア様は極上の笑みで私を見てくださっていた。それで、私が浮かないようにレティシア様が気遣ってくれたことに気づいた。

「レティシア様、有難うございます」

 私がお礼を言うと、何かしら?ととぼけてきて、やはり侯爵令嬢なんだと改めて感じた。


 レティシア様と別れて自分の席につく。周りの席の人達がこちらをチラチラ見ていて、少し居心地が悪い。

「アリア!」

 聞き慣れた声に顔をあげると、シャーリーがいた。

「今年も同じクラスになれて嬉しいわ。CクラスからAクラスにあがったのは、私達二人だけなのよ。クロエはBクラスなの」

「私もシャーリーがいてくれるなんて心強いわ。これから頑張ろうね!」

 まさか、仲良くしてくれた人物が同じクラスになれるなんて思ってなくて嬉しくなった。


「ところで、身体の具合は本当にもういいの?アリアが倒れた瞬間、本当に心臓が止まったかと思ったのよ」

 そう言うシャーリーは、本当に心配そうにしていて何だか申し訳なく思った。

「心配をかけてごめんね。まだ体力は戻りきってはいないのだけど、もう大丈夫なのよ。有難う」

 そう答えると、シャーリーはよかったわとホッとした様子を見せた。その後、少し興奮気味に話し始めた。


「春休みに入って、実家に戻った時にね、少し領地の魔物討伐に参加させてもらったのよ。いつもは、完全に後方支援だったのだけれど、あの時のアリアの行動を見て、私も頑張ろうって思えたから、初めて支援だけでなく攻撃にも参加したのよ。弱い魔物だったけれど、3体も倒すことができたわ。アリアに、勇気と自信を貰ったの。こちらこそ、有難うだわ」


 そう、貴族は定期的に兵士を連れて魔物討伐に出かけ、領民を守っている。兵士の殆どは魔法が使えないため、貴族が魔法で先制攻撃を仕掛けたり後方支援をして戦っているのだ。


「私は何もやっていないけれど…そう言って貰えると嬉しいわ」

 嬉しそうに報告するシャーリーにそう返すと、ちょっといいかしら?と隣の女子生徒が話しかけてきた。チラチラ見られていたのは、私に何か言いたいことがあったらしい。確か、選択魔法授業で同じ上級クラスだったはずだ。少し緊張しながらも、なんでしょうか?と返す。


「シャーリーさんも、ごめんなさいね。あの…私もそうなのです。アリアさんの攻撃魔法を初めて見て、素晴らしいと思ったのだけど、あの後のアリアさんの行動力を見て私も感化されたのです。私も、実家に帰省した時に討伐に参加して、いつもよりも積極的に行動することができたのです。それと…あの時、強化や回復をかけてくださって、本当に有難うございました」

 

 そう言って彼女は笑った。まさかそんなことを言われると思わずビックリして言葉がでない。すると、彼女に続いて、周りにいた生徒達にも、私も私もと声をかけられて、頭を下げられた。


「え…と、あの…」

 どうしていいかわからず、周りを見渡した。

 同じクラスになったハルバートと目があう。ハルバートは目元を細めた状態で軽く首を傾げた。

 次に、レティシア様と目があう。レティシア様はそっと微笑んでくださった。

 視線を変えると、ちょうど教室に入ってきたのか、リューク殿下と目があって、リューク殿下も少し笑ってくださった。

 その後ろには、廊下に待機しているカイル。カイルも口元を緩めて強く頷いてくれた。


 熱いものが、身体の奥から込み上げてくる。カイルやレティシアに最後の回復は余計だと言われたようで少し凹んでもいた。けれど目の前を見ると、あの時、無我夢中すぎて顔も覚えていないような人まで感謝してくれている。


「…こ、こちらこそ、有難うございますっ…」

 そう絞り出して、涙が溢れた。シャーリーが、私を抱き締めてくれた。


 結局、皆に頼っているようでいて、私は「独り」だと思っていたのかもしれない。初めて、学院(ここ)にいていいんだと素直に思えた。


「アリアさんは、思っていたより涙脆いのですね」

 誰かが、そうポツリと言ったけれど、皆の目は優しくて、受け入れられていると感じた。

「私達も、アリアさんに負けていられませんから、これから共に、Aクラスを誇り頑張っていきましょうね」

 暫く涙が止まらなくて、やっと涙が止まりかけたところに教師がきて、リューク殿下が何か説明しているのを見てそれぞれ席に着いた。


 昼食はシャーリーと取った。何だか嬉しくて、ずっと笑っていた。


 今日は、新学年1日目だから、少し早くに行事と授業が終わる。先に教室を出るクラスメイト達が私にまた明日と声をかけてくれるのも嬉しかった。私も帰ろうと教室を出て、カイルに声をかけようとしたところで遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。


「アリア!アリア!よかった久しぶりだね!」

 足早に私の元まで来たのはキルアだった。

「キルア様、お久しぶりです。大丈夫ですか?」

 キルアは走ってきたのか、少し息を切らしている。

「大丈夫!ね、アリア。前に言ってた魔道具が完成したんだよ。まだ試作品なんだけど、今日はもう授業終わったんだよね?時間、あるでしょ?今から研究棟に行こう!」

 そう言って私の腕を取ると、私の返事も待たずに歩き出そうとする。


「待てキルア」

 そう言ってキルアの腕を掴んだのは、リューク殿下だった。

「アリアも忙しいんだ。せめてアリアの返事を聞いてから動かないと」

「王子か。何さ、アリアが目覚めた時、僕に教えてくれなかったくせに。そんな王子には、僕の試作品はすぐになんて見せてあげないよ!」


 キルアは、私の腕を離してリューク殿下の手も腕を捻ってほどいた。

「そういう問題ではないだろう」

 リューク殿下はため息混じりにキルアを諌めようとしているが、キルアには効かないようだった。

「アリア!今大丈夫だよね?僕だって、朝一番に呼びにきたかったけど、授業後まで待ったんだよ」


 そんな風に言われては断れない。この後だって、ただ明日からの予習をしようと思っていただけだ。

「あの、リューク殿下有難うございます。私は大丈夫ですので…」

 私がリューク殿下を見ると、リューク殿下は私の後ろをチラリと見やった。


「…風を出すなよ?」

「俺はそんなに狭量ではありませんよ」

 後ろからカイルの声がする。風を出す?狭量?などと考えていたら、またキルアに腕を引っ張られた。

「アリア!行こう!」

 キルアが本当に嬉しそうに言うので、私も頷いた。


「リューク殿下、それでは失礼しま…」

 まだ挨拶の途中で、キルアはずんずんと私を引っ張っていく。少し足が速い。体力が戻りきっていない私には厳しい速さだが、キルアはそれを知らないので仕方ない。


「…ところでさ、何であの黒髪ついてくるの?」

 私を引っ張った状態で歩きながら、キルアが小声で聞いてきた。

「えっと…彼は私の護衛なのです」

 私が答えると、キルアはあからさまに眉を顰めた。


「え?あいつが?一年の時、めちゃくちゃ怪しい動きしてたのに?」

「怪しい動き?トラブルを早期回避する為に学院内を巡回してるとは聞いていますが」

 まさかカイルのことを怪しいと言われるなど思ってもなくてビックリした。


「は?巡回?あれは巡回って言うよりは…」

 キルアは私をジトリと細目で見て、ため息をついた。

「まあいいや…僕はあいつキライ。すぐ睨んでくるし」

 キルアはボソリとそう呟いて、そのまま無言で研究棟へと入った。


「見て!これだよ。この魔道具は、一定範囲内に入った魔物を探知して光るんだよ!」

 そう言って見せてくれた道具は、前世のコンパスみたいな作りをしていた。


「この針が、魔物がいる方を示してくれるんだ。これを持っていれば、どこに魔物がいるのか気配を感じ取れない人でもわかるようになるスグレモノだよ!すごいでしょ?」

 自慢気に説明してくれるキルアははとても嬉しそうだ。

「それは凄いですね。どんな仕組みになっているのでしょう?」

「それはねー…」

 私が聞くと、一通り説明してくれる。


「これは誰でも使えるのですか?」

「今のままだと、魔力を扱える人だけだね。もう少し改良すれば、平民とか魔力皆無な人にも使えるようになるよ」

「そうなのですね!本当にキルア様は凄いです。魔物討伐の時にとても役に立ちそうですね!」


 キルア様はやはり凄い。そう思って言うと、少しキルアは落ち込んだように見えた。

「…これがあれば、急に魔物に襲われることもないし、魔力が枯渇するほど大変な相手と戦う前に逃げられるでしょ?」

 そう言って、キルアは私を伺うように見た。その言葉に、キルアなりに私を心配してくれていることが理解できて、また嬉しくなった。


「…心配、してくださっていたのですか?有難うございます」

 そう返すと、キルアはぷいっと横を向いた。

「別に、そうじゃないけど」

 気まずそうにされたので、話を戻した。


「申し訳有りません。でも、本当にこれがあれば、早い段階で魔物探知できる分、色々な策を練られると思います」

「でしょ!…でも、もう暫くは王子達にはできたこと教えてやらない」

 一瞬、気分が上昇したと思われたキルアは、またもブスッとした顔をした。


「なぜです?」

「だって、あいつら僕を除け者にしたんだよ!まだ、もっと完璧に完成するまで教えてやらないんだ」

 何か、除け者にされたようなことがあるのだろうか。私が何を言えるわけでもない。

「でも、私には見せて下さいました」

 そう返すと、キルアはまたパッと嬉しそうにこちらを向いた。


「だって、アリアは楽しみにしているって言ってくれたから。だから最初に見せてあげたんだ。偉いでしょ」

 ふふん、と鼻を鳴らして得意気に言う。

「はい。有難うございます。嬉しいです」

 キルアの態度が面白くて、少し笑ってしまった。


「さて、僕の使命は終わったことだし、もう少しこれを改良することにする。また来てね」

 話は終わったとばかりに、ニッコリ笑うので、私も有難うございましたと言って部屋を出た。



「帰るか?」

 外で待機していたカイルが私に聞く。扉は開けてあったので会話は筒抜けのはずだけれど、一声かけてくれる人がいるというのは嬉しいものだ。

「はい。お待たせしました」

 そう言って一歩踏み出そうとしたら、少しふらついた。その瞬間、カイルに身体を支えられる。


「…あ、有難うございます」

 先ほど、キルアに無理についていっていたせいで、かなり体力がなくなっているらしい。

「…運ぶか?」

「何を?!」

 カイルの言葉に、思わず見上げる。

「アリアを。疲れているのだろう?」

 何ともないことのように言うので、ブンブンと首を振る。


「大丈夫です。…ゆっくり歩けば、一人でも」

 どうやって運ぶつもりかなどとは聞けなかった。どんな方法であろうが、恥ずかしいことには変わりないだろう。

「では」

 カイルは、一言呟いて私に片腕を出した。どういうことなのかわからなくて困っていると、カイルは少し笑った。


「掴まれ。少しは楽になるだろう?」

 そう言われて、なるほどと思った。それでも少し恥ずかしいが、運ばれるよりはマシだろう。おずおずとカイルの腕に両腕を絡めた。

「歩くのが早かったり、疲れたら言ってくれ」

 そう言いながらも、カイルの歩みは遅い。私にあわせてくれているようだった。


 どんなにゆっくり歩いたとしても、寮にはたどり着くものだ。有難うございましたと言って腕を離す。

「無理をするな。大丈夫じゃない時は大丈夫じゃないとちゃんと言え」


 そんなことを言いながらも、私がキルア様の魔道具を見に行くと言った時には、何も言わずについてきてくれたことを思い出し、やはりカイルは優しいと思った。

 カイルの言葉に小さく頷くと、カイルは私の頭をポンポン撫でて、ゆっくり休めと言って戻っていった。


 寮の部屋につくと、シアが待っていてくれた。

 お疲れでしょう、と部屋着を用意してくれて、着替えた頃にはお茶が用意してくれてある。至れり尽くせりで、本当に有難い。これなら、少し明日の予習ができそうだと思った。



 私の新学年スタートは、大変ながらも、幸先いいものだったと感じることができた。





 

 




皆様のブックマークや評価、大変励みになっております。そのおかげで、書き続けることができています。


拙い文章で、読みづらいところもあるかと思いますが、

本当に有難うございます。

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