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入学式の最中、ボンヤリと第一王子の護衛だと言ったカイルのことを考えていた。
大人びた顔立ちだったし、生徒ではないということは、確実に歳上であろう。
結構背が高くて見上げないと目が合わなかった。漆黒の髪はサラサラで、陽に当たって天使の輪みたいに反射してた。赤い瞳はルビーみたいでとても澄んでいて、もっと近くでみてみたかったかも、と思った。
この世界では、圧倒的に茶髪や金髪が多い。ちなみに第一王子は、黄金色で太陽の下でみるとキラキラ輝いて見えてまぶしい。悪役令嬢は少し変わっていて銀髪でこちらも光り輝いて見える。瞳の色は王子と悪役令嬢はお揃いのラベンダー色で気品溢れている。
ヒロイン役の私の髪の色は…何故かストロベリーブロンド。瞳は黄色っぽい。お花か?お花をイメージしてるんか?って感じで見た目だけはおしとやかだ。
ま、平民なんでおしとやかとは程遠いけど。
だからかもしれない。あの黒い髪も、赤い瞳も、頭から離れない。整っている顔なら、この世界ゴロゴロいる。乙女ゲームが舞台だしね。なのに、頭から離れないのは、この世界では珍しい髪色だから、なのかも。
などと考えていたら、入学式は終わっていた。
それぞれのクラスへ向かうが、もちろん王子や悪役令嬢達とは違う。入学時の基礎学力で別けられているからだ。
王子や悪役令嬢、攻略対象のほとんどはAクラスでトップ学力を持った人達の集まりである。
そして私はもちろん!Cクラスだ。当たり前だ。ほとんど何も知らないのだから。そして、私だけ居残り授業がある。いくら学院の中は身分差はないと唱っていても、高貴な方々と同じ学院へ通う以上、失礼な態度を取らないようにと学院側が配慮し、居残り授業で最低限の貴族の礼儀や心得みたいなものを学ぶ。
ちなみに、小説では、ヒロインはこの居残り授業をサボりゲームイベントを起こすべくアクティブに動きまくるわ、この見た目を使って男子生徒を魅了し悪役令嬢の悪口をあることないこと…いや、ないことだらけの噂を拡げるのだが。
私はそんなことしないぞ!結果は見えているんだ。だからと言って、悪役令嬢の知っているゲームヒロインのように可憐に健気に出来るかと言ったら無理なんで、とりあえず出来るだけ目立たないように過ごすことが目標だ。
こうやって聞くと、小説の主要人物との関わりなんて学院が一緒以外ないように思われるが、実は一つだけある。
選択授業の魔法授業だ。これだけは魔力量でクラスがわけられる。私の魔力は膨大だ。この授業だけは、王子や攻略対象、悪役令嬢等全員が同じクラスになってしまう。致し方なし。
だが、選択授業は入学してから1ヶ月後に開始なので、それまでに少しでも居残り授業で他の生徒に近づけるよう学ぶつもりだ。
とりあえず、通常授業は前世の知識で効率のいい勉強方法を理解している分ついていけると思う。問題は、居残りの方だ。お辞儀の角度だの、言葉使いだの、小難しい。そんな細かいことまで?とも思うほどで、小説のヒロインがサボりたくなる気持ちも解った。
でも、ここで挫けてしまったら、余計に周りに知らずして失礼を連発し学院内で浮いてしまうことは確実だ。
寮で復習したいと教師に言えば、数冊の分厚い本を貸してくれた。
居残り授業後なので、学園に生徒はまばらだ。私は借りた分厚い本達を両腕に抱え裏庭に来た。裏庭はあまり人気がないと小説に書いてあったからだ。悪役令嬢の好む場所なのだが、先ほど帰っていったのを確認済みだ。
ベンチに荷物と本を置く。その中の一冊を手に取り、周りを見渡し念のために人がいないのを確認する。
実は私にはチートでは?と感じる能力がある。これは授業に苦戦していたヒロインにはなかったかもしれない能力で、小説に転生した自分が故の能力な気がする。
それは、魔力で一冊の本の内容を数分で読み終わることができるもの。
でも、この能力使用中はあまり誰かに見られたくない。何故かペカーッと私が光るからだ。…ほんとに何故だ。
なので、寮の部屋で夜にそんなことをしたら、何かあの平民の部屋光ってない?とか噂にされたくない。まだ陽の明るいうちに、目立たず光り?たい。
周りを見渡しても誰もいないようだったので、左手で本を支え、右手を本の表紙に当てる。目を閉じ、本に魔力を通すと、まずは私の身体が光りだす。その後、文章が空中にパラパラと浮き出し私の中へ吸い込まれていく。
普通に読めば1時間以上かかるような本でも、これを使うと3分ほどで読み終わった状態になれるのだ。チートでしょ。
文章が総て私の中へ吸い込まれると、光は消える。
目を開けて、一息つく。
「なるほど!これは解りやすい説明だったなぁ。少し実践してみようかな」
独り言を呟き、本をベンチに戻す。
本に書いてあった基本姿勢の説明を思い出す。
背筋を伸ばし顎をひく、足は揃える…居残り授業の教師にも教えて貰った姿勢だが、結構キツイ。でも、自信が出る気がする。
あと、お辞儀の練習。スカートを軽く摘まむ意味もわからないが、これがルールだと言われればやるしかない。
「…こんな感じかな?」
呟きながら、何度も練習する。あと、歩き方。
背筋を伸ばしたまま、大股にならないよう、がに股にもならないよう気をつけて少し歩いてみる。いつも気を張ってないと難しいかも。貴族、凄いわ。
だんだんと辺りが暗くなってきたので、とりあえず練習はこれくらいにして、寮へ帰ることにする。誰か見られているなんて、思いもせず、少しは他の生徒に近づけた気がして、前世で好きだった陽気な歌を鼻歌でフンフーンと浮かれた気持ちで歌いながら校舎を後にした。