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 カイルに励まして貰ってから、私はまるで一気に世界が広がったように感じた。


 礼儀作法の居残り授業は、半年を過ぎ完全に終了した。基礎の合格を教師からいただいたのだ。あとは、経験だけらしい。はじめの頃は、姿勢もお辞儀もプルプルしていて筋肉痛にもなっていたが、今はあまり意識しなくても大丈夫になった。

 低めとは言え、学院指定のかかとのある靴も慣れて普通に歩けるようにもなった。膝で歩かない!と教師に言われた時はどうなることかと困りもしたが、慣れとはすごい。


 カイルに言われたように、自分自身が貴族だ平民だのというフィルターを取れば、特にこの居残り授業でお世話になった教師は心底私の為を思ってくれているのだと感じることができた。

 居残りは終了だが、わからないことや困ったことがあったらいつでも相談に乗ると仰ってくださり、嬉しくて心から笑ってお礼を言うと、思い切り抱きしめられた。

「アリアさんは、とても素晴らしい生徒です。胸を張って学院生活を楽しんでくださいね」

 そんな風に言われて、また少しだけ自信がついた。


 クラスメイト達もそうだ。中には相変わらず私と目線すらあわせないような人もいたが、クロエやシャーリーを通じて他の女子生徒達とも適度に会話ができるようになった。

 男子生徒の中にも、よく観察すれば下心のようなものが見える相手と、純粋に私と勉強や魔法の話がしたいと思ってくださる相手が何となくわかるようになり、女子生徒の情報網から婚約者がいる生徒もしっかり覚えた。


 休憩中や昼は女子生徒達と話を咲かせ、授業後は図書館に入り浸った。

 攻撃魔法はどうしようもないことは解っていたが、魔法の書物には光属性や闇属性という特殊な属性について記されているものもあり、人がいない時を見計らって例のチート魔法を発動させ本を読む時間を短縮、その後重要だと思われる記述をノートに書き写し確実に自分のモノとしていった。

 座学でも何度が教師にノートの取り方が上手だと誉められ、何年学生やってたと思ってるんだと心の中で鼻を高くした。

 前世で学生をやっていたのは小中高あと大学も通ったから15年以上だ。ある程度真面目な生徒として通っていたのだ。テストも順調だ。授業中真剣に聞いていれば、教師の言い回し等でどんな問題が出るのかある程度予想はつく。何年学生やっていたと以下同文。


 当時の学生時代も完全に思い出し、学院生活は一気に楽しいものへと変わった。

 無駄に誰彼構わず警戒しなければ、余計な気は回さなくてもよくなり、心に余裕ができた。休日にはクロエやシャーリーと出かけることもあった。


 相変わらずハルバートやバルティスにはよく遭遇し、困ったことはないか、学院はどうだ等と声をかけられるが、私にとって変わったのは、あれ以来カイルとしっかり目をあわせて話すことができるようになったことだ。

 少し頬が熱くなり、どうしてもソワソワしてしまうのだが、自然に話せていると思った。他愛ない話をして、基本無表情の彼が時折どうしようもなく優しく口元を緩める表情に胸が高鳴る。

 手が届かない恋だとしても、自分自身、青春してるなぁ、などと幸せを感じた。



 でも、一番変わったのは…キルアとの関係だ。図書館で本を探していると、たまにフラっと現れ私の探している本を見つけ渡してくれるようになった。

 ある日、私が図書館の机に書物とノートを広げ魔法の勉強をしていると

「今日は何を調べているの?」

 と声をかけられた。

「あ、キルア様こんにちは。今日は特殊属性についてです」

 そう答えると、キルアは私の隣に座る。そして、ぐいっと近づいて私のノートを覗きこんだ。

「…凄く細かく書いてある。その辺の貴族出身よりよっぽどいいよ。キミ、ほんとに元平民かい?」

「ふふっ、元じゃなくて今もこれからも平民ですよ」

 誉められたのと、キルアの言い回しが何だか面白くて笑ってしまった。するとキルアは急にこちらを振り向いた。ビックリしたように目を見開いてこちらを見たのだ。

 キルアは少し小柄だ。そのおかげで目線がかなり近い。座っていると尚近い。…ていうか、顔が近いです。はい。

「…キミ、聖女になりにきたんじゃないの?貴族の中に入りたいんだよね?」

 少し、失礼にならない程度に背中を仰け反り距離を取りながら、ん?と考える。


「なぜそのように?私は聖女になりにきたのでも、貴族になりたいわけでも、ありませんが…」

「は?!じゃあ、何でキミは頑張っているの?何で学院に来たの?!」

 仰け反っているのに、さらにキルアに詰め寄られた。うう、これ以上は距離を離せない。

「私が学院(ここ)に来たのは、平民では受けられない授業があるのと、魔法を本格的に学ぶためです。せっかくの素晴らしい環境を最大限に活用したいのです」

 無意識に手の平を前にやりガードする形を取っていた。それに気付いたのか、キルアが態勢を元に戻し、机を支えに頬杖をついた。少しつまらなそうだ。


「…へえぇ。じゃあさ、それまではどこで魔法を学んでいたのさ。魔力調整だけならかなりの腕だって聞いたけど?」

「独学です」

 私が即答すると、キルアからもすぐ言葉が紡がれる。

「独学であそこまでできる?ただの平民の環境で、高位貴族と同等の魔力調整が?」

「でも、本当に私の周りに魔法を教えられる人はいませんでしたし、身近な人に、回復や強化を感覚で使っていただけです。痛い思いはして欲しくないけど、魔法が強すぎると痛くなったり後で副作用みたいなものが出てしまうので、それだけは気をつけていただけなのです。攻撃は使う時がなかったのでまともに練習していませんが」

 私の答えに、キルアは少し考えたようだった。


「副作用?回復や強化に?そんなものあるのかな?…そう言えば平民みたいに魔力を持っていない相手に魔法を使ったことないな…確かに平民として生活していれば攻撃魔法を使う場合はないのか…?実戦として普段から使っていたのなら、魔力調整も…」

 何かブツブツ呟いているので、私は黙って様子を伺う。


 暫くそうしていると、キルアはパッと顔をあげてまた私に近づいた。

「キミは本当(・・)に真面目で平和(・・)な世界にいるんだね!面白いよキミ」

 あまりの勢いに、またも無意識に手の平を前に出し背中を仰け反らせて少し距離を取った。

「いえ、あの…」


 どう返答したらいいものか悩んでいたら、キルアが私の手の平を見て握ってきた。指の間に指を入れてくる恋人繋ぎのような握り方だ。私は手の平を開いたままなので恋人繋ぎでも何でもないのだが、戸惑ってしまう。

「何?警戒しているの?手の平から魔力が漏れてる。本当に面白い。そうだ。キミにだったら、僕の研究見せてもいいよ。いつも離れの研究棟にいるから、いつでも訪ねてきてよ。それじゃあね」

 そう言って何故かご機嫌な様子のキルアは席を立ち、手を軽く振って去っていった。


 いつでも訪ねてきて、と言われてもそうそう行けるはずもない。その代わり、私が図書館で勉強しているとフラっと現れて、私が調べているところを軽く説明したり、自分の推測等も交えて魔法についての会話をしたりとちょくちょく接する時間が多くなっていた。


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