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⑮レティシアside


 

 入学して半年、本来のゲームの進行度を考えば、ヒロインはそろそろ対象者とそれなりに仲良くなり、ゆっくりと愛を育みだす頃だ。励ましあったり、一緒に勉強したりして、心の距離が近づきだしていくはず。

 でも、彼女はリューク殿下を好いているようだが、リューク殿下とは、もちろん他の攻略対象者とも、そんな様子は見られなかった。


「何なのかしら…」

 レティシアは小さく呟いた。アリアのことは、リューク殿下の護衛の一人であるカイルと影と呼ばれる数人が観察しているので、情報は入ってきていた。もちろん、レティシア自身もたまに遠目で確認したりもした。自分と仲のよい令嬢からも軽い噂話の感覚で耳にする。


 一時、クラスの男子生徒達を取り巻きかのように周りに侍らせていたから、さらに警戒していたのだけど、気づけばアリアは女子生徒と共に過ごすようになり、男子生徒達とは話はするもののアリアの方から距離を取るような行動を見せた。

 下級貴族には用がないと思ったのかとも思ったが、 バルティスやハルバート、エドワード先生といった力のある高位貴族であり攻略対象者とも、普通に会話はするもののその言動や態度には怪しいところは見当たらない。リューク殿下とは相変わらず顔が赤くなるものの軽く挨拶を交わすのみだ。


 そして、攻撃魔法の授業を終えた次の日、学年代表の会議と称して会議室に主だったメンバーが集まった。普段は学年代表としての話し合いをしたり仕事をするのだが、今回はアリアの情報交換をする為だ。


「ただ、普通に、学院生活を頑張っているように見える。教師の手伝いも嫌な顔せずやっているし、僕には歴史についての質問等はしてくるが不審なところはない」

 ハルバートがそう言えば

「そうだな。俺の助言が効いたのか男子生徒とも距離を置くようになったみたいだし、二人の女子生徒とよく話しているが、別段不審な動きは感じられない。勉強もよく頑張っているようで、最近は先生に誉められたりもしていたな。俺とも普通に挨拶したり会話は軽くする程度だな」

 とバルティスが続けた。

「不審と言えば、キルアから受けた報告によると攻撃魔法は使えるらしいとのことだったが、授業では披露しなかった」

 そう言ってリューク殿下はエドワード先生を見た。

「今までの授業を見ていれば、彼女は簡単に攻撃魔法くらい使えそうな実力を持っていると思っていたのだが、彼女は私に、使えないと言った。嘘をついたことになる」

 エドワード先生がそう言って、沈黙が落ちる。


「少し、よろしいでしょうか」

 護衛であるカイルが一歩踏み出して声をかけてきた。

「構わない」

 リューク殿下が答えると、カイルは言葉を選ぶようにして語りだした。

「授業後、彼女は本当に落ち込んでいました。麻痺を使ったのは、キルア様の助言があったようです。キルア様が何を言われたのかはわかりませんが、キルア様に言われた言葉に動揺して…と困っている様子でした。あと、私には、"授業では"一般的な攻撃魔法が使えない、とも。彼女から、何かしらの悪意を感じたこともありません」

 その報告に、皆が考え込んだ。


「…確かに、彼女は発動方法がわからないわけではなさそうだった。覚悟が足りない、とも言っていた。その覚悟が何を意味しているのかわからないが」

 エドワード先生が呟く。

「覚悟ねぇ。光属性は特殊だとも聞くし、普通の魔力と何か違うのかもしれないな。レティ、キミの闇属性も特殊だけれど、何か普通の魔力と違うと感じるところはある?」

 リューク殿下がレティシアに話を振る。

「…確かに私の闇属性は光属性と相反する魔力ですが、特に、発動方法が違うとか、そういうことを思ったことはありません。魔法の授業で観察していたけれど、あれだけ魔力の扱いに長けているならば、攻撃魔法も普通に使えると思われます」

 レティシアは、魔法の授業を思い出しながら答えた。

「でも、アリアは先週の魔法の授業が終わった直後から図書館に通いづめで魔法の書物を読んでいたようだぞ。俺はさっぱりだが、攻撃魔法は特別なわけではないのか?」

 同じクラスであるバルティスが口を挟んだ。

「…そんなことは。やはり魔法云々ではなくリューク殿下が…」

 レティシアが少し感じていたことを思わずこの場で言いそうになり、急いで言葉を止めた。それを見てリューク殿下は目を細める。


「レティ、私がなんだい?レティが考えていることを、ちゃんと教えて欲しい」

 リューク殿下がレティシアとしっかり目線を合わせ聞いてくる。これだからリューク殿下には敵わない。レティシアは少し頬を染めながら、それでも思ったことを口にした。

「あの…彼女はリューク殿下に恋愛感情を抱いているようなので、授業で何かしらの失敗を見せたくないと思ったのかと…」

 こんな皆の前で言いたくはないが、それがレティシアの所謂女子目線である。


「「それはない」」

 まさかの、リューク殿下とエドワード先生の否定の言葉がハモって、レティシアはビックリした。

「えっ…!何故です?」

 思わず聞き返してしまった。

「いや、ビックリしたのはこっちだし。レティは何でそんな風に感じたの?何故彼女が私に恋してると?ヒロインだから?」

 リューク殿下が焦るようにレティシアに質問を投げ掛けた。

「いえ、ヒロインっていうのもそうですが…だって、彼女…リューク殿下と挨拶を交わす時の表情が…」

 レティシアはリューク殿下の勢いに戸惑う。まるで自分が間違っているかのようで、上手く言葉を紡げない。

「…彼女の表情の変化は、リューク殿下に対してというよりは…」

 エドワード先生がボソリと呟く。リューク殿下は大きくタメ息をついた。

「あれは、私に対してじゃないと思うよ。レティ」

 リューク殿下はレティシアにそう答えてから、カイルを見た。


「カイル、キミは悪意に敏感だが、好意については?」

 突然話を振られたカイルは戸惑いを隠せないようだった。

「は…?好意には基本危険はないので気づかなければいけない必要性を感じません。しかし、例えば好意により発生する妬み嫉みには悪意がついてきますので、それは感じることができます」

 その答えに、リューク殿下はもう一度タメ息をついて、 そうか…、とだけ呟いた。レティシアには、何故そんなことをリューク殿下がカイルに聞いたのかわからなかった。


「今のアリアの態度や成績を考えば、卒業までに聖女の素質はクリアできると考える。だが、攻撃魔法もそうだが…どうにも彼女は私達をはじめ学院と一線を引いているんじゃないかと感じている」

 リューク殿下の言葉に、一同が頷いた。

「仲のいい女子生徒もいるが、仲を深めたいと感じているのは女子生徒の方でアリアは少し距離を取っているように思う。授業や勉強、生活の中でも誰にも頼っているようには見えない」

 バルティスは、普段の彼女を思い浮かべながら話しているようだった。

「そうだ。平民ゆえに、何か思うところがあるのかもしれないが、このまま何事もなく聖女になれるならば、国としてもそれに越したことはない。だが…何か隠している、というか、秘密があるようにも感じる。もう少し、様子を見た方がいいだろう」

 リューク殿下がそう言って、一同が頷いた。あと…とリューク殿下は続ける。

「キルアについては、そうだな…話自体はできるが、なにぶん変わり者すぎて私もたまに扱いに困るほどだが…彼女に何を言ったのか、聞けるようなら聞いてみようと思う」


 そう、キルアは隠しキャラであり変わり者。レティシアも何度か話したことはある。魔法については本当に天才的なのだが、何を考えているのか読めない人物でもある。リューク殿下も本当に困惑していたほどだ。


 とりあえず、もう少し様子を見ながら、彼女の秘密を探りつつ導けるなら聖女へと導く、そう結論づけて、会議は終わった。

 レティシアは、遠目で見かけるアリアが自分と目があうと心許なさそうに去っていく様に違和感を感じていた。決して自分が睨むように見ていたわけではない、と思う。

 もしも彼女が転生者でゲームを知っているならば、レティシアにも接触してくると思われたが、そんなこともない。

 転生者であることは間違いないと思うけれど、その一方で勉強や魔法を頑張っている姿はヒロインそのものなのに、誰にでも屈託なく笑い物怖じしない本来のヒロインとは似て非なる存在に思えて、警戒というよりは、相手のこれからの出方を伺うという形へ変えた方がいいのかもしれないと思った。



 その後、レティシアはリューク殿下に

「ねぇレティ?もしかして嫉妬してくれてたりしたの?本当に可愛い。あそこであんな顔されたら抱き締めたくなって困ってしまったじゃないか。でも、私はそんなレティも大好きだよ。僕を信じて?」

 などと散々からかわれたのだが。





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