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 現在、反省中です。

 魔法の授業があった日の夕方、居残り授業は終わり、やることと言えば、その日の授業の復習や図書館で本を借りるくらい。

 

 人気のない裏庭。レティシア様が小説でよく一人で考える為に足を運んでいた場所。実際、ここは一人になりたい時にはちょうどよかった。ベンチに座ることもできず、木にもたれかかって項垂れていた。


 少し、考えればわかるようなことだった。魔法の授業で使う相手は、無機物である的。であるならば、ちゃんとした攻撃魔法を見せなければならなかったのだ。キルアの言った言葉に動揺しすぎたせいか、麻痺や睡眠さえできるようになれば問題ないと思った。

 カイルも、麻痺と睡眠の練習と私が言った時に不思議な顔をしていたではないか。


 平民の暮らしをしていた頃、何人かには、言われたことがある。もしかしたら、聖女になれるかもよ!と。


 なれるわけない。私には、重大な欠陥があった。


 聖女とは、"万物に対し"あらゆる光魔法を使い、時には国民を助け、時には国を守り、あらゆる存在から敬われる、まさに国の母である。

 その存在に憧れはするも、自分がなれるなどとは思わなかった。まるで、手に掴めそうで絶対に掴むことのできない、光のような存在。半年だが、頑張ってきた。聖女になる為ではないが、ただがむしゃらに。私は…

 

 そこまで、考えて、ふと足音に気づいた。ゆっくりと、近づいてくる。顔をあげると、カイルであった。

 その姿を、ただ見つめた。いつもは、気づけば側にいるくらい気配も足音もないのに、まるで、近づいてくるのを私に気付かせる為のように思えた。

 ただ歩いてくるだけなのに、優雅で気品さえ溢れる貴族たるその姿に、急に遠い存在かのように感じた。思わず泣きそうになって、それでも堪えた。


「泣いて、いたのか」

 私の目の前まで来て立ち止まり、無表情のままカイルが呟いた。

「目が、赤くなっている」

 そう言われて、カイルと目があっていることに気づいた。思わず俯く。

「いえ。泣いては、いませんよ…」

 何とか、答える。

「…そうか。すまない。俺があの時、一言でも違和感を伝えていれば、あのような事にはならなかった」

 絞るように紡がれた言葉に、パッと顔をあげた。カイルをしっかりと見上げる。

「そのようなことはありません!私が浅はかだったのです」

 私の言葉に驚いたのか、カイルが目を見張った。


「そのようなことは。私が、キルア様に言われた言葉に動揺して、考えがまとまらなかったのがいけないのです。決して、貴方様が気に悩めるようなことではありません。授業で一般的な攻撃魔法はどうしても使えなかった。ただ、私が未熟すぎただけです」

 はっきりと、言い切る。カイル様は優しすぎる。リューク殿下達に、何かを言われているのかもしれないが、それでも、普段からのカイルの態度には優しさが感じとれていた。


 カイルは、何か言いたげに一度口を開きかけたが、言葉を飲み込んだように見えた。

「…でも、そうですね。この半年間、今の私にできることを、と思って頑張ってきましたが…やはり、学院(ここ)は、私の居場所ではないと思っています」

 泣きたくなくて、涙を堪える為に発した言葉は小さく落ちてしまう。

 その瞬間、強く肩を掴まれた。びっくりしたが、カイルの射抜くような強い赤い瞳に目が逸らせなくなる。


「そんなことはない!キミの頑張りは、俺がずっと見てきた。キミは十分よくやっているし、()()、半年なんだ。これからまだ長い。これからだって、俺は見ててやる。だから、諦めるな」

 カイルのその言葉に、堪えていた涙が、溢れた。そんな風に言ってもらえるなんて思ってなかった。一人で、頑張ってきたと思っていた。でも、見てくれていた人がいる。その存在が、こんなにも心強いなどと思わなかった。唇が震えて、上手く言葉を紡げない。ただ、カイルと見つめあった。


 ふっと、私の肩を掴んでいた手が離れた。そして、カイル自身、一歩下がり、決まり悪そうに顔をそむけた。

「…すまない。怖がらせたか?泣かせるつもりはなかった」

 その言葉で、勘違いさせたことに気付く。

「…えっ。いえ、違う…違います。その、嬉しかったのです。そんな風に、私を見てくれる人がいるなんて思ってなくて。頑張ってきたことが報われたような気持ちです。有難うございます」

 慌てて今の気持ちを伝えた。おかげで涙はひっこんだ。嬉しい気持ちが勝って、思わず笑みが漏れた。そしたら、カイルも少しだけ微笑んでくれた。


「それなら、よかった」

 そう言って、カイルは少し考える素振りを見せた。

「…そうだな。少なくとも、入学式の日の話し方や仕草を思い出せば、今はかなり学院に溶け込めているんじゃないかと思うぞ?」

 カイルの顔が、少しだけ意地悪なものになって、こちらを観察するように見てくる。

「あっ…あの日は、本当に無知で…緊張であまり覚えてもないのですが、大変失礼な態度だったと今ならわかります。申し訳ありませんでした…」

 焦って謝ると、カイルはクスクス笑い出した。それでからかわれたと気付く。

「…酷いです」

 小さく呟くと、カイルはごめんごめんと謝ってくれた。

 さっきは、あんなに遠く感じた存在と、こんな軽口のやり取りができることが、どこか心を軽くする。


「あの、話を聞いてくれて有難うございました。少し自信を失くしていましたが、これからも頑張れそうです」

 お礼を伝えると、カイルは真面目な顔に戻る。

「立ち直れたな?一人で頑張るのもいいけれど、もう少し周りを頼ってみるのもいいと思う。誰でも、ってわけではないが、ちゃんと手を貸してくれる人がいるはずだ。キミの周りの人をよく見て、正しく手を貸してくれる人と、そうではない人を見分けることも、大事だから」


 カイルは私の頭をポンと撫で、そろそろ仕事に戻ると言って去っていった。

 

 私に、正しく手を貸してくれる人が、この学院にいる ?もしかして、平民だから、貴族だからと差別していたのは、私自身かもしれないと思った。明日から、もう少し周りの様子も気にしてみよう。攻撃魔法は…また考えよう。


 落ち込んで自信喪失していた自分はもういない。あれくらいの失敗、何でもない。カイルが、私の努力を、頑張りを見ててくれる。それが何よりも嬉しい。また明日から、今の私ができることを、一つずつこなしていこうと、決意した。



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