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 キルアとのやり取りを、ずっと考えていた。


 傷つける覚悟、そんなことを考えたこともなかった。攻撃魔法を練習する時だって、ただ魔力の練り方とその魔法を発動させる為の想像力だけを考えていたのだ。少なくとも、攻撃の授業開始までにできることではなさそうだ。


 ふと、思い出す。別に、私は貴族になりに来たわけではないことを。半年で、貴族の作法を学んできたが、それこそ夜会での立ち振舞いやお茶会などという自分に関係のなさそうなことまで。それで軽く勘違いしていた。結局、私が学んできた礼儀作法は真似事に近い。


 だったら、そんな覚悟は要らないのではないか。


 私の出した結論は、これだった。キルアが言っていたじゃないか。傷つけなくとも、眠らせたり麻痺という方法もあると。そちらを練習しようと決めた。


 早速、次の日から時間のある時に庭に出て、虫を探す。可哀想だが、ヒトに対して練習はできないので仕方がない。花壇のそばでしゃがんで探していたら、数匹の虫を見つけたので、その中の一匹に麻痺の魔法をかけてみる。


 魔法をかけられた虫は、先ほどまでちょこちょこと動き回っていたのにピクピクしだした。上手くかけられたようだ。そっと魔法を解く。違う虫に睡眠の魔法をかけてみたら、こちらも上手くいった。これくらいの魔法なら、成功すると思われて、ほっとした。


 少し満足して、立ち上がると目の前に影が落ちた。

「そんなところでしゃがんで、何をやっていたんだ?」


 影は、カイルだった。振り向くと、不思議そうな顔でこちらを見ていた。顔が赤くなりそうになって、急いで目線を変えた。

「あの…魔法の授業の、予習を少し」

 そう答えると、意味をはかりかねたようで、首をかしげられる。

「次の授業で、攻撃魔法の練習を始めるとエドワード先生が言っていて…。花壇にいた虫に、睡眠や麻痺の魔法をかけてみたりしてました…」

「攻撃魔法の授業の予習に、睡眠や麻痺を?」


 カイルがさらに考えこんでいる。何故だか、恥ずかしくなったので、焦ってさらに言葉を続けた。

「そうです。先日、キルア様という魔法関連に凄く詳しいという方に教えていただいたのです。なので、もう次の授業は大丈夫そうなんです」

 カイルはまだ首をひねっている。いたたまれなくなって、それでは失礼しますと、その場を後にした。


 カイルが首をひねっていた理由を、魔法の授業で知ることとなる。



「では、また一人ずつ、好きな的を選び攻撃魔法を発動させてみて下さい。この半年でだいぶ感覚が変わったはずですので、魔力制御には十分気をつけて下さい」

 

 エドワード先生の言葉に、いつもの順番で生徒が攻撃魔法を発動させていく。皆、鋭さが増したような魔法であった。皆凄いなぁ…と一人密かに感動しながら見学し、自分の番になった。


 あれ…。的って、全部無機物では?睡眠や麻痺をかけて、どうなるの?ふと気づいたが、自分にはそれしかない。皆のような攻撃を発動させたら、的だけなく、建物自体破壊してしまう恐れがある。


 選んだ的は、木偶人形。とりあえず、麻痺をかけてみる。



……


「アリアさん、何の魔法をかけたのかな?」

 エドワード先生が、優しい微笑みのまま私に問いかけた。

「…麻痺です」

 

ぶふぉッ!!!


 …今、誰か吹いたよね?護衛陣の方から聞こえたんだけど。チラリと隅を見ると、リューク殿下の護衛であるもう一人の人が俯いて肩を揺らしてした。他の人も全然違う方向見たり深呼吸したりしている。生徒の中では、貴族の嗜みなのか盛大に笑ったりはなかったが失笑している人やタメ息をついている人もいた。でも、カイルだけは真っ直ぐに私を見ていた。


 うう、恥ずかしい。

「…えっと、アリアさん、麻痺は確かに攻撃魔法の一種になるけれど、他の分かりやすい魔法はできる?」

エドワード先生が、言葉を選びながら聞いてくる。

「…できません」

 できる、と答えたらやらなくてはならないだろう。でも、どうしてもあの光の魔力を攻撃として放つ魔法は、見せるわけにはいかなかった。

「そうですか…」

 エドワード先生は、一言短く答えると、生徒を見回した。

「とりあえず、皆さんの攻撃の威力はある程度把握しました。今日はこれで終了します」


 エドワード先生の言葉に、皆がざわざわと話し出す。

「やっぱりリューク殿下の魔法は素晴らしかったね」

「レティシア様の闇の攻撃もさすがでした」

 そんな言葉を耳にしながら、私が会場を後にしようとすると、エドワード先生に話しかけられた。

「アリアさん、少しいいかな」

 私がエドワード先生へ顔を向けると、柔らかい表情のまま言葉を続けた。

「アリアさんは、魔力の調整や制御は完璧だと感じている。光属性は謎も多いけれど、攻撃魔法はあるはずなんだ。できない理由はわかっているのかい?」

 そう聞かれて、言葉に詰まった。なんと答えればいいのだろう。


「…覚悟が、足りないのだと思います」

 黙っていても仕方がないので、キルアに言われた言葉を伝えてみた。それで、伝わって欲しいと思った。

「ふむ…覚悟、ねぇ。攻撃魔法の発動の仕方がわからない、とかではないんだね?」

 少し間があったのが気になったが、素直に頷く。

「まあ、暫くは授業で生徒達に魔法を発動させるつもりはなくて、戦闘時の場面でどう動くかを教えていくつもりだから焦らなくてもいいけれど、その…覚悟とやらを決めることはできそうかな?」

 エドワード先生は、どこまでも優しい声音で私に尋ねてくれる。純粋に心配してくれているのか、心の中で警戒しているのかなど、私にはわかりようもなく。

「…努力、します」

と答えるだけで精一杯だった。




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